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其の187 闖入者

「ヒュンッ!」


 耳元で何かが通り過ぎる音が聞こえ、目の前の地面に矢が刺さるのが見えました。


 ───ヒィッ!


 体制を崩したことが幸いだったのでしょう。昔から運は悪くとも悪運だけは強いみたいです。


(まだ来るよ! まかせて!)


 更に矢が飛んで来た様でしたが、アリシアの風魔法で難を逃れます。


 ───ど、何処から!?


 まさか魔獣が弓矢まで使えるとは思えません。さっきまで弓は持っていなかった筈です。それに矢は背後から来ました。慌てて振り向き鞭を構えま叫びます。


「誰ですか! 出て来なさい!」


 狙いは魔獣ではなくわたしでしょう。例え魔獣を狙って間違えたのであっても許されることではありません。ただでさえ今のわたしは気が立っているのです。誤っただけでは許しません。誰かは知りませんが泣くまで叩きます! 鞭では死んでしまいますから杖で勘弁してあげましょう。わたしは優しいですからね。


 イザベラが(あの辺り!)と教えてくれた山中を睨み付けていると、木の一部が動くのが見えました。


(アリシア!)

(オッケー!)


 もう彼女とは以心伝心。わたしが何をといわなくとも、複数の氷の塊が現れると木々の間に向かって飛んで行きます。


 ……しかし、流石にやり過ぎでは……?


 大きな音を立てて大木が何本もへし折れています。あれでは背後にいる大型の魔獣相手ならいざ知らず人であれば一塊もありません。コレではわたしがお灸を据える余地が残っていないのでは……。


 ……いえ、そうでもなかったみたいですね。


 氷の塊を剣で弾き返したのでしょうか。倒木の間から、剣をぶら下げた人が出て来きました。


 その者を見て、思わずここが山中でなければそのまま火の魔法も繰り出して欲しく思った次第です。


「こんな所で何をなさっているのですか! ミア姉さま!」









(アリシア、イザベラ様、背後のエテ公を頼みます。仕留めずとも、わたしに近付けない様にしてくれさえすれば構いません。アンナ様は変わらず周囲の警戒を)

(ミリーはどうするの?)

(わたしは少しアレと話しをする必要があります)

(う、うん!)


 ミアが姿を表した時、その表情はここからではよく見えませんでしたが声は聞こえました。彼女が舌打ちをし「……仕留め損なったか……」と呟く捨て台詞を!


 ───わたしは目が悪い分、耳が良いのですよ!

 

 話しによってはここで彼女と一戦交える必要があります。エテ公もどきに拘っている場合ではありません。


 背後では何か固い物が当たる音や魔獣の雄叫びが聞こえて来ますが、それに構うことなくミアを睨み付けると前に進み出ます。


「なんだいミリーじゃないか。こんな所で奇遇だねぇ。どうしたんだい?」


 弓は既にどこかへ捨てた様で近くには見当たりません。手に持っている剣を鞘に納めると、悪びれた様子もなく笑い掛けて来ました。


「それはこちらの台詞ですよ! わたしはここへ仕事で来ているのです! ルトア王国……もといルトア国に残った貴女が何故こんな所にいるのですか!」

「そうかい。あたしもここへは仕事でね……」

 

 ミアが左腕を前に突き出し上腕部を見せ付けます。そこには確かに即応部隊の腕章が見えました。


 わたしがかつてリャキ国に赴いた際に検討し、ここの二カ国を中心に置いている即応部隊ですが、その人員は多国籍。正確にはその二カ国の者達を含めてラミ王国を中心としたその属国から派遣された者達で構成されています。それにはもちろんルトア国も含まれていました。


 ……これは、丁度良い修行になると考えて潜り込んだのでしょうかね……。


 流石に隊員から奪い取ったのではないと信じたいです。しかし、正規に入隊したとしても、その際にわたしの名前を出して無理を通していないといいのですが……これは要確認事項です。後でしっかりと調べなければいけませんね。


「……そうでしたか……それはお勤めご苦労様です。ならばミア姉さまは、ここにはアレを追っていらしたでしょうか?」


 チラリと背後を向くと、氷の槍が竜巻になり魔獣に降り注いでいました。アリシアとイザベラが頑張っている様です。そのままお願いしますね。


「まぁ、そうなるねぇ」


 ニヤケ顔でわたしを見ています。その人を馬鹿にしたような態度にはカチンと来ました。


「他の者達はどうされたのですか?」


 遅いから置いて来たとのことでしたが、ミアのことです。規律を守るのが嫌で勝手に行動しているのでしょう。我儘に振り回されているであろう他の隊員達の苦労が偲ばれます。


「……そうなると……あの魔獣に刺さっている矢はミア姉さまが……」

「そうさね。アレは中々硬くて大変だったよ」


 ヤレヤレだなんて苦笑していますが絶対違います。彼女のことですから……。


(ねー! ねー! ちょっと、ミリー!)

(何ですか! 今忙しいのです!)

(大変! 大変! 小さい猿の魔獣が増えた!)

(そんなもの、氷でも土でも槍を降らせて蹴散らして下さい! こちらはそれどころではありません!)

(わ、わかった……)


 そんなモノよりもこちらの方が重要です。


「あの矢は、わざとですね! ミア姉さまのやることなんてお見通しです!」


 恐らくアレも元はそこまで凶暴な魔獣ではなかったのだと思います。それこそ先程までライナ達が相手をしていた様な小さな魔獣だったのでしょう。しかしそれでは闘いがいがないと、わざと手負いにさせて泳がせることで凶暴化させてから仕留めるつもりだったに違いありません。その証拠に、わたしの言葉に対して否定も肯定もせず、ただ黙ってニヤけた目付きでこちらを見ています。


(ねー! ねー! ミリー!)

(今度は何ですか!)

(アレはさすがにちょっと……)


 アンナやイザベラまでもが一旦後ろを向けというので仕方なく身体の向きを変えましたが、思わずそのまま固まってしまいました。


 ……これはまた面倒臭いことに……。

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