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其の186 猿大型魔獣 後編

 そのまま上空を飛び回り、眼鏡の曇りを取って視界を確保すると共に下の霧が晴れるのを待ちました。


 ……ふぅ……危なかったですね……。


 危うくやられてしまうところでした。しかしこれで当初の目的は果たせたでしょう。


(アンナ様、どうですか? ここから傷の箇所は見えますか?)

(うむ。暫し待っておれ)


 わかってはいましたが、わたしが攻撃していた前面は全くの無傷で、矢が刺さっていた肩口付近にも特に新しい傷は見当たらないそうですが、背中には幾つか新しく出来た小傷が見えるとのことです。目が良いのは羨ましいですね。


(そうなると……彼奴は任意で防御箇所を決められるのでしょうかね?)

(そうであろうな。しかしならばこれはちと厄介かも知れぬぞ……)

(そうですか? 先程と同じく、わたしが正面から打ち合えば背中は留守になるでしょうから、その際にアリシアに魔法で攻撃して貰えば……)

(そう上手くいくと良いのじゃが……)


 今一つアンナの歯切れがよくありませんが、現状それしか方法はありません。


 ゆっくりと地面に降り立つと、再び魔獣の前に進み出て鞭を構えます。


 ───さぁっ! 仕切り直しですよ!







 ……なんですかね? 相変わらず硬いことは硬いのですが……。


 先程と同じく惹き付ける為に魔獣と鞭で打ち合っていますが、魔獣が纏う魔力の層に少し違和感を感じました。


 ……これは……先程よりも少し薄い……?


 打ち込む際に鞭から返って来る感触が先程よりも違うのです。これはもしや魔獣の魔力が少なくなって来ているからなのでしょうか。だとしたら好都合。ここで一気に畳み掛けましょう。


(アリシア!)

(オッケー!)


 その声と共に魔獣の後方で大きな氷の塊が作られ始めます。そしてそれはすぐに形を変えると先が細い円錐形になりました。


(いけーっ!)


 そのまま先の細い方が魔獣に向けられ、風の魔法で加速されて行きます。


 流石アリシア。その様子を見ながら思わず感嘆が漏れました。


 大きな魔法を行使すると、その周辺にはどうしても魔力の揺らぎが発生してしまうことから、特にその身に魔石を持つ魔獣など魔力に敏感なモノには気付かれやすいものですが、しかしアリシアは僅かな時間でそこまで一気に行使しさせると、魔獣に気が付かれることなく氷の塊を魔獣の背中に見事届かせました。これは見事としかいえません。しかし……。


 ───えっ!?


 氷の塊は刺さることなく魔獣の背中に当たるやすぐに崩れ落ち、魔獣は背中に何か当たったのか? 位の反応しかしていません。全く平気な顔をしています。


(あちゃー、ダメかー)

(あらまぁ……)

(何故ですか!)

(ほれ、いったじゃろ?)


 この魔獣、魔力の防御層を任意の箇所に指定出来ることはこれでほぼ確定ですが、恐らく今はそれを全身に纏っているのではないかといっています。


(ほれ、先程の魔法での攻撃じゃよ……)


 一つ一つの威力は低いものの、全身に対して攻撃を受けたことで警戒させてしまい、今の状況があるのではないのかとのことです。わたしが薄く感じたのも全身に回らせている為の様です。


 ……昔し、似た様な魔獣の相手をしたことがあるだなんて懐かしそうにいっていますが、そんな大事なことは早くいって下さいよ!


 しかし彼女を睨み付けたくともその姿は見えません。心の中で文句をいいつつ、代わりに目の前の魔獣を睨み付けたのですが、その醜悪な顔がわたしを見て歪み出し、嘲笑われたかの様な気持ちになりました。


 ───う〜ッ! 小賢しいエテ公がーッ!


 頭に来ました。こんな猿もどきに馬鹿にされたままではいられません。これでは君主として……いえ、女が廃ります! これは何としてもわたしの手で仕留めてやらねばなりません!


 断固たる決意に思わず身震いし、顔を真っ赤にしながら更に魔獣を睨み付けると頭の中に怒鳴りつけます。


(アンナ様! その際はどの様にして倒したのですか!)

(う、うむ……)


 どこを攻撃しようとも魔力の層で防御されていた為、結局大人数で囲み、ただひたすらに攻撃を仕掛けて相手の魔力切れを待って討伐したそうです。


(じゃが……)

(何ですか! まだ何か仰っていないことがあるのですか!)


 その時は目の前にいる魔獣よりももっと小型だったそうです。当然形が大きくなればその分保有する魔力量も大きくなりますが、そんなのは最早関係ありません。


(……ねぇ……これ、メイちゃん達が来るのを待った方が良くない?)

(そうよねぇ……ミリーちゃん一人じゃ……)

(うむ。無理であろう)

(駄目です!)


 メイ達が来るのを待っていられないのでは無く、コレはわたし一人で片付けねばならない相手。


(あの子達にこんなエテ公もどきに手こずっている所を見られでもしたら姉の威厳が無くなります! わたし一人で倒すのです! みなさん気合いを入れて下さい!)


 結局それでは一人ではないとアリシアが呟いていますがそんなのは無視です。


(アリシアは大きい魔法を出来る限り! 何でも構いません! イザベラ様は同じく防御! アンナ様はわたしの目!)


 ここに来ては覚悟を決めました。例え眼鏡が曇り前が見えなくなろうとも、一歩も引かずにただひたすらに打ち込むだけ。


 攻撃が全く効かない訳ではないのです。ならば相手の魔力が無くなるまで削り取る。そうすれば、いずれは身体に届くでしょう。


 ───これはどちらの魔力が先に無くなるかの勝負です!


(みなさん宜しいですね! 行きますよ!)


 気合十分に、再度仕切り直しだと左手に持つ杖に力を込めて前に進み出たのですが、(おいちょっと待て!)突然アンナに声を掛けられ、驚いてつんのめってしまいました。


(一体何ですかー!)

(後ろから矢が来るぞ!)


 ───へぇ!?

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