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其の180 忠告と報告

「陛下は君主になります。しかも今やラミ王国の一国だけではありません。ご自身が立場ある身だという自覚を、再度お持ちになって下さいませ」

「……はい……」


 予想通り、二人っきりになるとお説教が始まってしまいました。


「何をなさろうとしているかは凡そ見当がつきます。ですがお控え下さい。家臣の身でありながら口幅ったいことを申し上げて大変恐縮ですが、陛下は安易に物事を考え奔放過ぎます。確かにそれが可能な立場ですが、もう少しご自身の身を案じて下さいませ。そろそろその様なお考えは改めて頂きたく存じます」

「……」


 マダリンは怒っているというよりも、悲しげな表情で見下ろしています。色々と見透かされているだけでなく、わたしのことを思っての言葉には何もいい返せません。


 かつてこの大陸の君主は自らが前線に立ち、その勇猛さを民に見せつけることによって国を纏めていた経緯があります。しかしそれはアンナがいた時代。平和な現代ではあり得ません。そんなことは百も承知ですが、先ずはその辺りのことをコンコンと説教されました。


「……しかし、確かにここがいくら他国とはいえ魔獣の討伐は急務です。幸い今回は食料品だけの被害で済みましたが……」


 渾身の力作である保冷車も犠牲になっていますが、とてもそんな余計なことをいい出せる雰囲気ではありません。黙って大人しく話しを聞きます。


「例え学生であろうとも騎士を目指す身なのですから、彼等を魔獣の討伐に向かわせるのは構いません。良い経験になるでしょう」


 その点はマダリンも同意してくれている様で、思わず頷いてしまいました。しかしそれを見て睨まれてしまいます。


「しかし陛下は別です。例えどんなに貴女様がお強かろうとも騎士ではありません。本来は彼等に護られる存在なのです」


 ……はい……。


 わたしが言葉なく俯いてしまうと、頭の上で嘆息する音が聞こえて来ました。


「……しかし、わたくしがいくら申し上げた所で、結局陛下は行かれてしまうのですよね……」


 ……その通りです! 流石わたしのことを良く知っていますね!


 そこは諦めて下さい。ここで黙って大人しくしていることなぞ出来ません。今にも飛び出したい気持ちで一杯です。これでも我慢している方なのですよ。


 わたしがパッと顔を上げると、不敵な笑顔で睨まれてしましました。


「ならば条件を付けさせて頂きたく存じます。そうすれば、わたくし目も強くは申しません。くれぐれも御身を大事になさって下さいませ」

「……は、はい……」










 

 保冷車を襲って来た憎っくき魔獣は、元は猿の個体だった様です。


「……陛下、実は……」


 朝、広場で壊された保冷車の側でレニー達に話しを聞いていると、そこへアラクスル達が青い顔をしてやって来ました。彼等はみな先日狩猟に出掛けた班の者達です。


 何やらいいにくそうにしており、アラクスルが代表として話し始めた所によると、先日の狩猟中に魔獣化した猿の様なモノと遭遇し、退治しようと試みるも逃げられてしまっていたそうです。


「……先程昨晩襲って来た魔獣の特徴を聞き及んだ所、我々が遭遇した魔獣と同じ個体ではないかと考えるに至り、報告に上がりました次第です。あの時のわたしは狩猟に夢中になっていた為に気が付きませんでしたが、一緒にいた者によると、どうもその魔獣に、我々が狩猟をしているのを遠くから見張られていた様子でして……その後もここの街に入るまでの間、その視線を感じていたとか……」


 隣にいる者が申し訳なさそうな顔で頷きました。


 ここの広場は街の外れに位置します。当然周りは山に囲まれていますから、木々の間に隠れられて監視されていたのでは気が付かなかったのも無理もありません。自分も気が付いていなかったことは棚に上げておきます。


 ……昨晩はみんな、だいぶ食べて呑んで楽しそうに騒いでいましたからね……。


 恐らく彼等が獲物を持ち帰るのを魔獣達が隠れて追跡し、その後で保管している場所を認識。夜闇に乗じまとめて奪いに来たということなのでしょう。どうも相手はだいぶ知恵の回る魔獣の様です。


 これは彼等と途中から合流したメイにも話しを聞く必要がありますが、しかしその前に、彼等に一応確認しておかねばならないことがあります。何せその話しは今初めて聞きました。


「……その報告は、既にレニーか、若しくは他の者にしていましたか?」

「……いえ、今が初めてになります……」


 これにはわたしだけでなく、レニーも一緒になって呆れてしまいました。何せアラクスルと一緒に行動していた者の中には現役の騎士もいたからです。


 ……これは戻ったら、学園の者のみならず王城の騎士達にも再教育が必要な様ですね……。


 確かにわたしが君主になってからは、騎士達個人の練度を上げることが急務でした。何せ一部を除きお話しにならなかったからです。先ずは地力がついていなければ何も出来ません。その為、母にはそれを中心に訓練を頼んでしました。現在の所、結果は及第点でしょう。しかしそれでは片手落ち。それがここに来て影響が出て来てしまっていました。

 

 集団で行動する部隊に於いて、連絡・報告の不備は命取りになります。それをよく知っているレニーは「……一体最近の教育はどうなっておる……」彼等を見て嘆いていました。わたしも泣きたくなります。


「手遅れ感は否めませんが、急ぎ昨日他に山の中へ入っていた者達に確認をなさい! そして詳細を漏らさずレニー、若しくは上官に報告する様に!」

『ハッ!』


 ……ルトア国出身のアラクスルまであの体たらくでは、ウチの国の者の練度は押して知るべしですね……。


 まだまだ日程は残っていますが、国に戻ったら戻ったらでやらなければならないことが沢山ある様です。作成しなければならない書類の束が頭に浮かび、今から憂鬱になって来ました。

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