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其の177 採取を終えて

 退屈極まりないと思っていた馬車の道程ですが意外にやることが多くて、忙しくしている間にいつの間にか目的地に着いていました。


 ……ここが今日の街ですか……。


 ニカミ国もラャキ国も、国は違えど似通った街の作りであまり遠くまで来た気にはなりません。


 山間部には小さな村落はあまり存在せず、山々の間にある狭い平坦な場所に人が集中しており、そこに街が作られています。その理由は鉱山にありました。


 かつてのこの辺りは山間部に小さな村落が点在し、狩猟や耕作を主に行っていたのだそうですが、鉱物産の魔石を掘る方が実入りが良いと辞めていってしまったそうです。

 

 当然山がちなこの両国に於いて平坦な場所はそう多くありません。そうなると当然ながら小さな家が密集することとなり、街並みは雑多になっています。見た目だけなら王都の下町とそう変わりません。ただ、目に入る街並みやそこに住まう者達の裕福そうなのと、そこにいる者達の目に光が無く澱んでおり、生気があまりない感じられないことが異なっていました。


 ……例えいくらお金があっても、こんな所で鬱々と生活していたのなら、こうなってしまうのも仕方がありませんよね……。


 その為に両国の為政者達が、せめて食事だけでも向上させ、少しでも心を豊かにしたいと考えた結果がわたし達なのでしょう。その考え方については賛同します。及ばずながら力になりましょう。しかし、ヒナの様にただ口を開けて待っていれば餌を与えられるなどと甘い考えを持っているのでしたら話しは別。少なからずや自分達で動こうとするのでしたら手助けをします。今回披露している料理も、この土地で手に入る食材ばかり。調理方法に関しても惜しみなく享受する様、料理人達にも申し伝えています。ほんの少し前に進み出れば良いのです。それ位の努力はしなさい。


 ……とはいえ、鬱陶しいのは嫌いですから、名実共に両国がわたしの国になったあかつきには、例えこのままであったとしても強権を発動して……。


 そういった思惑を暗に含めながらこの街の領主と挨拶を交わしました。今後の街でも同じようにしていくつもりです。彼が怯えてしまい終始緊張してしまっていたのは仕方がありません。しかしもうこれまでとは違うのです。時代は変わっていくのですから、諦めて考えを改めて下さい。

 








 そして昨日と同じ様に本日使う分の食料が渡されましたが、案の定、昨日と同じで残念な物ばかり。しかしこれは想定内。準備はしています。


 受け取った料理人達は、一切嫌な顔をせずにテキパキと動き出しました。


「オーイッ! さっき届いた猪と鹿のモツを持ってこーい! 新鮮な内に使い切るぞー!」

「誰かー! 腸詰作るから洗うの手伝ってくれー!」

「コッチの顔色の悪い野菜は全部刻んじまいな! 剥いた皮は出汁を取るんだから捨てるんじゃないよ!」


 そんな料理人達が威勢よく作業するの中、わたしはただ黙って見ていました。サボっている訳ではありません。椅子に座って偉そうにしてふんぞり返って監督するのも仕事の内。


 ……出来ることなら、わたしもあの輪に混ざりたいですね……。


(あ! セドラちゃんも頑張ってるね!)

(本当ですね。今皮を剥いているのは、今日取って来たばかりの菊芋ですかね)


 そのまま見ていると、菊芋を水に晒してアク抜きをしています。ならば和物か浅漬けにするのでしょうか。一部は別にして乾燥させる様です。後程粉末にして団子とかに使うのでしょう。色々と楽しみです。


(あ、みてみて! アッチでアケビをお肉と炒めてるよ! 美味しいのかな?)

(わたしもアケビはそのまま食べることしか知りませんよ。てっきり食後に出てくる物だとばかり思っていました。……これはもう立派な食事ですね)

 

 動けずにつまらないと文句をいっていても、見ていると知らない調理法などが出て来たりと、とても興味深く見ていて飽きません。アリシア達と共に楽しんでいました。


 わたしは食べることはもちろん料理をすることも好きです。だてに料理講義の教師をしていません。


 よく考えるのですが、料理はどこか魔工学に似ているのです。


 共に素材を駆使して思い描いた効果を発揮出来る様に構築する。ここで重要なのはその再現性。芸術作品を目指す訳ではありません。その時だけ良くても駄目なのです。料理はいつも美味しくならなければいけませんし、術具は常に同じ効果を発揮させることが重要。しかし素材は同じ様に見えても完全に同じとは限りません。採れる産地や時期で味は変わりますし、魔石の質や術式の精度でも術具の完成度は左右されてしまいます。それを見極め対処をするには、経験やひらめきがものをいう作業。終わりなき果てしない道のりです。挑み甲斐のある研究ですね。


 そんなことを考えながら、みんなが忙しなく働いている姿を見ていると、またもやモヤモヤして来て身体を動かしたくて堪らなくなりました。


 ……うぅ……もどかしいです……。


 そんな時、料理人達が困っている様子が見え、その会話を小耳に挟んだことで思い立ちました。


(そうです! アリシア! こんなのはどうでしょう)

(……え? 何々? ……うん、面白そう! やろうか!)


 ここでやるのに難しいことではありませんが、周りのみんなの役に立つことですし、わたし自らが動く必要がありますから身体も動かせて一石二鳥。残る問題は如何にマダリンを説き伏せれば良いかだけです。


 ……しかし、それが一番の問題ですかね……。

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