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其の174 ラャキ国内における事情

 ラャキ国とニカミ国は、隣接する国に比べて平坦な場所が少なく山がちな土地になります。


 その為、かつては林業や狩猟業も盛んだったそうですが、鉱物の魔石の有用性が判明した時期からは主要産業は鉱山に移り、それに合わせて商業都市へと発展する経緯がありました。


 そうなると当然食糧の自給率は下がり、現在はもっぱら輸入に頼るお国柄。それでも完全に作物の生産を行っていない訳ではなく、昔ながらの険しい山肌を開拓して耕作地に適さない場所で細々とも行っていました。その結果が今目の前にあります。


 ……確かに品名や数は事前の申合わせ通りですけれども……これは……。


 いずれもラミ王国内では流通から除外されてしまう様な、貧弱で歪な物ばかりが積まれていました。


「フランツィスカ!」

「はい、ここに」


 彼女に説明を求めた所、これがこの国ではごく普通の品質なのだそうで、嫌がらせでもなんでもないとのことです。食料品を運んで来たラャキの側の者達は、何故わたし達が困惑しているのかわからずに不思議そうな顔をしており、フランツィスカは申し訳なさそうな顔をしていました。


「……これはもしや……この現状に即して食事の向上を求めるつもりなのでしょうか……」


 再度彼女に視線をやると目を逸らされてしまい、俯きながら「恐らく……」とポツリ。


 ───嵌められました!

 

 流石海千山千の商人達です。小娘の手を捻ることなぞさぞや容易いことだったでしょう。


 今の世の中、例えどんな土地であろうともお金を積みさえすれば美味しい物を入手することは難しくありません。特にこの国はそれが可能です。ただ敢えてそれを選択しなかっただけ。しかしそれが容易く手に入るというのであれば話しは別なのでしょう。


 出来るものならばここにある物で何とかしてみろと、ほくそ笑んでいる顔が思い浮かび、頭に血が上って来ました。


「謀りましたね!」

「め、滅相も御座いません! きっと陛下ならばこの惨状をなんとかしてくれるであろうと……」

「───ッ!」


 その台詞を彼等から聞いたのであれば、ふざけるな! と威圧をかました所でしょうが、他ならぬ彼女から出て来た言葉です。


 例え彼等の思惑がどうであれ、フランツィスカがわたしに対して嘘は吐きません。今も彼女から溢れ出ている魔力が物語っています。これは彼女の本心から来る言葉なのでしょう。願わくばこの故郷の惨状をどうにかして欲しいと。


 一先ず心を落ち着かせると、目の前にある根菜を一つ手に取り味を確かめます。見た目通り味はボヤけて旨味がなく栄養価も少なそうでした。かつてこの国で食べたことのある食事は、こういった食材を元になんとか必要最低限の栄養素だけを取り出すべく試行錯誤した結果なのでしょうか。ただ単に味の向上をする努力を怠っただけにも思えますが、これでは心が折れていまうのも仕方がありません。確かに生きるだけでしたら味は二の次。栄養さえ取れれば良いのです。しかしこんな物ばかり口にしていては心が疲弊してしまいます。そんなことだから銭勘定ばかりで損得でしか物事を考えられなくなってしまうのです。


 ───何よりこのまま放置するなんて、わたしは許せません!


「……仕方がありません。すぐには改善は出来ませんが、このことは心に留め置いておきましょう。しかし、今はまずこの場でのことをどうにかしなければなりません。ここで尻尾を巻いて逃げてしまっては、わたしの沽券に関わります!」


 仮にも一国の君主としてここにいるのですから恥ずかしい所は見せられません。急ぎ周りに指示しました。








「陛下、本当にここで使ってしまっても宜しいのでしょうか……」

「構いません。ある意味、今が非常事態です」


 用意された食材では、味どころか分量も不足しています。鮮度も悪くこのままでは何ともなりません。料理人達が頭を抱えてしまうのも頷けます。ならばそれを補う必要がありました。幸いわたしが非常食として用意した缶詰が沢山あります。これを元に何とか形に仕上げましょう。


「缶詰には色々と種類があり、中には乾燥させいる為、そのままでは使えずお湯で予め戻す必要がある物もあります。詳しくはここにいる料理講義を取っている学生達に尋ねて下さい。量、質と共に申し分ない筈です。味はわたしが保証します。みなさん、頑張ってラミ王国国民として恥ずかしくない物を提供して下さい!」

『オー!』


 これで一先ずこの場は何とかなるでしょう。しかしまだこれから何日もあります。如何に量を用意してあるとはいえ、流石に今後も全て缶詰を使うにはとても足りません。


「マリアンヌ!」

「はい!」

「……もしやニカミ国も同じ様な状況でしょうか?」


 彼女もまた恥ずかしそうに頷きました。


 予想通りの返答に、思わず目眩がしそうになりましたがグッと堪えます。ならば仕方がありません。ここで帰る訳にはいかないのですから、これは抜本的な改革が必要になります。


「マリアンヌ! フランツィスカ! 今ここにいる手の者を全て集めなさい!」

『はい!』


 予想以上の人数が集まり面を食らいましたが、人手が多いに越したことはありません。


「今から貴女方に指令を申し付けます。明朝までに回答を持ってここに戻りなさい。重要なのは彼等に拒否をさせてはなりません。必ず許可をもぎ取って来ること。多少強引になっても構いません。宜しいですね?」

『ハッ!』

「宜しい。詳しいことは、後程彼女達の指示を仰ぎなさい。解散!」


 彼女達が姿を消すと、急ぎ書類の作成に入る為にマリアンヌとフランツィスカを伴い馬車に戻ります。


「……陛下、一体何をなさるおつもりですか?」


 フランツィスカ達が心配そうにしてついてきます。


「別に大したことではありませんよ。明日以降の準備をするだけです。それよりも貴女方にも働いて貰います。明日から忙しくなりますから覚悟をなさい」

『はい!』


 ……ふぅ……これが他の国であればこんなことをしなくても済みますのに……本当、面倒臭い国ですね……。

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