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其の15.5 見つけた

 ───バレました!


 思わず顔を上げ、レイと顔を見合わせます。


 必死になってレイが首を振っていることからも出所は彼女ではない様子です。ならアリシアから?


 どう反応すればよいか分からずに顔を顰めていますと、「フフフ、やっぱりね」ツィスカがわたしを見て微笑んでいます。


 ……釜をかけられましたか?


 ───どうしましょう! 


 痛恨の失態です。


 特に金銭のやり取りをしている訳ではありませんから問題にはならない筈ですが、それを証明するものはありません。寮監に知られてしまうとことです。またあのお説教を聞かなければならないのかと思わず震えが来ました。


「そんなに脅えなくても大丈夫よ、誰にも言わないから。それに、寮監はもう知ってるんじゃない?」


 ───えっ⁉︎


「なんせ、アレ程までに寮内の雰囲気が変わっちゃったからねー」


 マリーが笑っています。


 わたしやレイ、アリシアも、わたしの魔力が込められた部屋にいましたから全く気が付きませんでしたが、他の者達は昨晩に突然、寮内に漂う魔力が変わって驚いたのだそうです。

 ただ不快には感じず、むしろ心地良いものであったことから問題にはせず、むしろみな好意的だったとか。


「あたし達もそれにすぐ気が付いたから、誰がやったのかツィスカと一緒に調べ回ったのよ。そしたら魔力を感じながら微妙な顔をしている寮監を見かけてね『……まぁ、仕方がありませんか。あの娘も大変でしょうし……』って呟いていたのを聞いて、それでピンと来たってわけ」


 昨日の実学の講義で大変そうにしていたレイを思い出し、彼女が一人部屋であることから推測し、この騒動に困惑していない者を見定めると隣室であるわたし達に目星を付け、魔力の質的にアリシアは除外され、残ったわたしであると結論付けたのだそうです。


 ……なんですかその推理力は! 商人には必須なのですか⁉︎


 バレてしまったことよりも、むしろ彼女達の洞察力にシャッポを脱ぎました。


「一人で寮内全体の魔力を上回る量も凄いけど、その質も中々のものよね。みんな誉めていたわよ」


 ……褒められるのは悪い気はしませんが、落ち着きません……。


 お目溢しを頂いているとはいえ、これが公になると寮監から厳しい指導が入るやも知れません。


「……一応……その……他の方には黙っておいて頂きたいのですが……」

「あら、当然でしょ?」


 ……え?


「あたし達が自分で掴んだ情報よ。そんな大事なこと、タダで人に教える訳ないわ。情報は値千金なんだから」


 ……おおぅ……流石は商人の卵……いえ、もう立派な商人ですね。


「だからあなたにも目を掛けているのよ。魔法は使えないみたいですけど、魔力量は秀逸なのですね。素晴らしいですわ。いずれひとかどの者になりそうな方とは早めに縁を作っておかなければね」


 ……その細い目を光らせてわたしを見るのはやめて下さい! ツィスカの獲物を捕食する様な目付きは心臓に悪いです!






「……貴族子女とは、恐ろしいモノなのですね……」


 ……いやレイ、貴方もその一人ですよ? それにあれはむしろ商人かと。


 お茶会を終え、わたしの部屋で反省会です。


 八つから始まったお茶会は結局七つ過ぎまで続きましたが、その間、他に何を言われるか気が気ではなく生きた心地がしませんでした。


「それにしてもお腹が空きましたね……」


 後半は緊張のあまりお茶ばかり飲んでお菓子に手をつけていません。

 お土産にと、残ったショコラを持たせてくれたのですが、先程のことが思い出されるので今は手を付けたくないです。アリシアにでもあげましょうか。


「取り敢えず、食堂に行ってお腹を満たしたら、浴場に寄って今日は早めに就寝しましょうか」


 二人してフラフラになりながら部屋を出ました。






 食堂は朝と打って変わって人でごった返していました。


「どうしてでしょう?」

「みなさん、寮に帰って来たからではないですか?」


 レイの言うことは最もだとは思いますが、見知らぬ顔が散見されます。明らかにとうが立った者がいるのです。


 不思議に思いながらも料理を取りに向かったのですが、人混みで中々料理まで辿り着けません。これは参りました。ただでさえ背も低いので人を掻き分けるのは苦手ですのに、更に精神的に疲れていますから押しのける気力もありません。どうしたものかと困っていましたら「あれ、ミリー。遅かったじゃない」背後から声を掛けられ振り向くと、そこには声の予想通りアリシアが立っていたのですが、その装いは予想通りではなく、少し驚きました。


「アリシア、そんな格好をして何をしていらっしゃるのですか?」


 食堂ですから食事を摂りに来るの場所なのは当然なのですが、彼女の装いは、むしろその食事を提供する側、厨房服に身を包んでいるのです。


「いやー、今日は一日ここで料理をしてたのよねー。アタシの作った新作の評判は上々よ! あ、大丈夫、ちゃんとミリーの分は別に用意してあるからこっち来てよ。一緒に来ると思ったからレイの分あるえわよ」


 レイと共に、狐に摘まれた顔をしながらアリシアに誘われるがままに厨房の中へと入りました。


 厨房の隅に案内されてそこに座らされると、アリシアが「二人とも、量は多い方がいいよね?」料理を運んできます。


「さ、食べてみて! アタシの故郷……? の味よ!」


 出された料理の内、一つはわたしも知っているオムライスとの話しですが、少々違う様に見えます。卵がお米に撒いてあるのではなく、半熟になって載せてあるのです。味を変えるようにと幾つかのソースまで用意されていました。

 もう一つは下の部分は丸いパンでしょうか? それが二つ並んでいます。バンの上にはベーコンやらアスパラガスなどが乗せられている様ですが、更に何かこんもりとした物が乗っており、黄色がかったソースが掛けてあります。


「これは一体、何なのですか?」

「ほら、ここってさ、いやこの国かな? 料理自体はとても美味しいんだけどね、わたしからしたらちょっと古臭い料理ばかりなのよ。だからね、わたしが食べたくて知ってるヤツで出来そうなのを作ってみた!」


 ……そういえば以前、自分の持つ知識をひけらかして周りから尊敬されたいなどといった旨を仰っていましたが、これがその一環なのでしょうか?


「なるほど。するとこれはその新しい料理なのですか?」

「元々コッチにある料理を組み合わせただけだから、新作料理っていっていいのかな? それにアタシのオリジナルじゃないしね。でも同じのってコッチにはないみたいよ」

 

 わたしが田舎者なので、これらの料理を知らなかっだけではなさそうです。厨房の方々もわたし達を見ながら嬉しそうに頷いています。


「いやー、今朝いきなりやってきた時は驚いたけど、こういったのならいつでも大歓迎さ!」


 アリシアが厨房の方を見て「実際はほとんどやってもらったんだけどねー」などと恥ずかしそうにしていますが、考えを提供しただけでも凄いことです。素直に賞賛します。


(ほおー、これは見事じゃな! 美味そうじゃ!)

(ホント! 美味しそうねぇー)


 ───いきなり話し掛けないで下さい! 驚きました!


(ちゃんとわたしを通して味わえるのですから、大人しくしてお待ち下さい!)


 本当に食い意地が張った困った方々です。わたしがよく食べるのもこの二人のせいでしょう。きっとそうに違いありません。

 

 さて、気を取り直していただます。


 これはふわふわオムライスと言っいてましたか? なんとも安直な名称ですね。

 ご飯の上に半熟のオムレツを乗せて真ん中から切っただけだから簡単だ。などと言っていますが、見た目も華やかですし、半熟の卵が酸味のあるお米とも良く合って美味しいですね。わたしは普通のよりもこちらの方が好みですよ。味も変えられますし。是非とも食堂の献立に取り入れてほしいものです。厨房の方から、そう手間ではないとの声が聞こえてきますので、それは叶いそうですね。楽しみです。


 それでこちらはエッグベネディクト……ですか? 聞き慣れない言葉ですね。

 この上に掛かっているソースが、おらんでー……なんとかというやつなのですか。……ふむふむ、見た目よりサッパリとしているのですね……あっ! 潰してしまいました! これは……卵の黄身? 上に載っていたのはポーチドエッグでしたか。……はぁ、これは真っ二つに切って、更に小さくして全部混ぜ合わせて食べるのですか。 

 ───っ! 酸味とコクが混ざり合い複雑で濃厚な味わいです! えぇ、もちろんおかわりをお願いします!


「どう? 美味しい? まだまだあるからイッパイ食べてね!」


 得意満面で誇らしげなアリシアに思わず拍手を贈りたくなりましたが、直ぐにもその顔が悪魔の笑みに見えてきました。


「デザートもあるから!」

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