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其の158 学園の食堂

「思ったよりも人が多いですね……」

「はい。この時期にしては珍しいことです」


 それでも全く席が無い訳でもなく、レイと共に端の方の席を確保出来ました。学生が増えたからでしょう。学園の食堂は大盛況でした。これは昨年までにはあまり見られなかった光景です。


 ここ学園内にある食堂は、学園に関与する者であれば誰もが使用出来る場所になり、それなりに大きい施設になるのですが、学生達はお昼時は学園の食堂を使う者はあまりいませんでした。その理由は各寮毎に食堂がありますので、授業は午後と午前で切り替わることが多く、その間に一旦寮に戻って準備をしなければならず、その際に寮で昼食を済ます者が多くいた為です。かつてのわたしもそうでした。その為、ここが主に使われて混む時期は繁忙期。寮の食堂が閉まっている時間帯でもここは一日中開いていますので、深夜でも起きてやらなければならないことがある学生や教師がよく使っていました。当時のわたしも常連です。


 ……嫌なことを思い出してしまいましたね……。


 そんな苦い過去を思い出しながら食事を口に運んでいたのですが、料理は相変わらず絶品です。気を取り直してあまり余計なことは考えない様にします。


 元々ラミ王国は、諸々の兼ね合いから食に関しては他国の追随を許さない程に発展していました。


 ……これは魔力を搾り取る為のアンナさまの功罪と考えるべきか、それとも功績とするべきか難しいところですね……。

 

 何にしても美味しい食事は心を豊かにしてくれます。難しいことは考えずに甘受しましょう。

 

 わたしは料理人ではありませんから詳しいことは知りませんが、それに胡座をかいて一時期あまり発展していなかったそうです。しかしここ数年目で徐々にまた発展して来ていました。これはアリシアのお陰ですね。


 彼女の考案した料理が評判となった柳緑寮が端を発し、学園内の食堂や他の寮の食堂が触発され、更には王都中に美食の熱が再燃し広がっていました。アリシア曰く、停滞していた期間を飛び越えただけだとのことですが、何にしても美味しい食事にありつける機会が増えたことには感謝です。今やアリシアの知らない料理も増えて来ていました。


 ……最近では小麦の代わりに米など他の穀物の粉を使った物も増えているのですが……これはこれで美味しいですね。


 調理場からの見知った者達の視線を感じ、彼等に満足していますよと目配せしながら食後の甘味に舌鼓を打っていると、隣の空いている席に食事を持って座る者が。


 わたし達の座っている席は食堂の端で不便な場所。更にわたしのことを知っている学生達は、わたしの微妙な立場を理解している為にそもそも近寄りもせず同じ卓につく様な者はいませんでした。レイが警戒していないことからもわかりますが、そんなことをする者はわたしの関係者だけです。


「陛下、先程の者の件につきましては、わたしがお伝え致します」

「この場でその呼び方はお辞めなさい。しかしベルナ……貴女が来たということは……」

「はい。失礼致しましたミリセント先生。お察しの通り、例の彼女はパンラ王国側の者になります」


 今目の前に座った彼女、ベルナはわたしの元同寮で、元々パンラ王国側の者でしたが、今はわたしの部下の一人になります。懐かしい制服を着ているのは周りに馴染む為なのでしょうが、却って周りからは、「陛下のお側に座る者は誰だ?」と不審がられていました。


「急ぎでは無いのですから後でも良かったですのに」

「まあまあ、久しぶりにせっかくミリーと食事が出来る機会だしね」

「そうですね。ほんの少し前ですけれども、昔しに戻った様です」


 最近は君主としての立場に追われていた為に、この様に友人と食事を取るのも久し振りです。彼女が砕けた態度に変わるとホッコリとした気持ちになりました。


「それに丁度良かったしね」

「え?」


 ベルナにいわれるがまま、悟られぬ様に辺りを見渡すと、食堂内に例の彼女の姿がありました。


「実際に彼女がどういった立場なのかとか見てもらった方が早いかと思ってね」

「立場ですか?」


 例の彼女の名前はセドラというそうです。「本名じゃないけど、こっちの国での呼び名ね。家名は省くわ」ラミ王国貴族の男爵家に養子に入っている様ですが出自はパンラ王国。


「彼女の目的はね……」


 魔法巧者でもあり優秀だったアリシアをパンラ王国に引き込む為に派遣された者になるそうです。


「彼女がですか?」

「そうそう。だからあんな見た目してるでしょ?」


 あんな見た目といわれて改めて確認しましたが、真っ黒ではないものの黒みがかった長い髪をしており、顔立ちは可愛らしいといった感じで、先程も感じましたがどこか寂しげで庇護欲を誘う娘であるとしか印象を受けません。


「どこにでもいそうな娘としか思えませんが……強いていえば二学年だそうですが、それにしては少し小柄ですね。それがどうしたのでしょう?」

「だってほら、アリーってばいっつもミリーと一緒にいたでしょ? だからソッチ系なんだと考えて、ミリーに似ている娘をってね」


 ───ッ!


 それを聞き、頭の中の三人が大爆笑しています。


 思わず目を見開いて驚いてしまいましたが、隣に座るレイは澄ました顔で軽く頷いていました。


 ……わたし達の周りの評価はそうだったのですか……。


 ここに来て衝撃的な事実を突き付けられ唖然としてしまいます。


 わたしが驚いている顔を見てベルナがニヤニヤと笑っていましたが、まだ続きがある様でしたから気を取り直して顔を戻し聞く体制を作りました。


「……それで?」

「……うん……」


 先程とは打って変わって悲しそうな顔になり話しを続けます。


「だってほら、アリー亡くなっちゃったじゃない? だからあの娘も仕事が無くなっちゃって、その……立場的にね……」


 今のセドラはこの学園に於いて中宙に浮いている状況なのだそうです。その為、同じパンラ王国側から送り込まれている者達の間では疎まれ者の扱いなのだとか。


「だからお昼なのに一人学園の食堂にいる訳ですか……」

「彼女、寮には居づらいのよね……」


 この国での養子となっている親の位は同じ様なものでも、元々の国での位が上の者が同じ寮には幾人か居おり、その者達から陰湿な対応をされているとのことです。


「虐めですか……それは可哀想ですね……」

「でしょ?」


 しかしそれを思った所で他国の者達の問題です。仮に形的には自国民であり学園内で起こっていることだとして、これを我が国の問題だと考えるのだとしても、それを諌めるのは各寮監や寮生の代表者です。そんなことは常識。彼女もよくわかっている筈です。


 しかしベルナのわたしを見詰める目付きはそうではありませんでした。

 

「……まさか貴女……」

「お願いミリー! あの娘を助けてあげて!」

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