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其の157 研修会の後で

 研修会は思った以上に白熱し、予め準備して来ていた教師達からの質問攻めにあいました。嫌そうにしていた学園長までもが熱心に聞いて来たのが意外です。いかにこの会が切望されていたのがよくわかりました。そうなれば俄然わたしもやる気を出して付き合わざるを得ません。


 ……まぁ、ほとんどアンナさま任せですけれどもね……。


 とはいえアンナから聞いて喋るのはわたし。これが結構大変でした。


 ……しかしみなさん、途中から明らかにわたしではなくアンナさまに向かって話し掛けている感じではありませんでしたか?



 ……ほんと、しんどいですね……。







「陛下、本当に宜しいのですか? 午後から会議では……」

「構いません。とても王城まで持ちませんよ。学園の食堂でお昼にしましょう」


 時間的にお腹が空いているのもありますが、かなり披露している為一刻も早く座って休憩したく思います。流石にそれ位はマダリンも咎めないことでしょう。そう願います。


「畏まりました。では……」


 ……ん?


 わたしの先を歩くレイが真っ直ぐではなく横に逸れようとしました。


 ……食堂へ向かう道ならば、このまま真っ直ぐ行けば近い筈では……?


 何故その様なことをと考えて尋ねるも、少しいいにくそうに「……あちらは……」と、視線を泳がせています。


 ……あぁ、そうでしたね……。


 この道の先には、かつて魔工学が入っていた講義棟があった場所になります。今はもうその場には新たに建物が建っていますが、講義棟として使われることはなく倉庫棟として使われていました。


 ……人死が出て縁起が悪い場所ですから、これは仕方がありませんね……。


 わたしに取って因縁のある場所ですからレイが気を利かせてくれたのでしょう。確かにあまり気分の良いものではありません。魔工学の講義棟が建っていた頃からあまり人の寄りつく場所でなく、今や事情を知っている者達は尚更寄り付きません。しかしこれからも研修会は続くそうですから、その都度大回りをして行く訳にもいかないでしょう。


(……アリシア……)

(ん? アタシはべつに構わないわよ?)


 ならばわたしも構いません。そのまま真っ直ぐ道を歩きました。







 人が増えれば荷物も増えます。当然収容する場所が必要になりますからこれは順当な使い方でしょう。


 ……書類上では確認して判も押していましたが、この目で見るのは初めてですね……。


 以前は三階建でしたが今回は五階建てになっています。倉庫として使用しているのですから人気がないのは当然としても、新築ですのにどことなくうらびれた印象を受け、遠目からでも不気味に感じました。


 ……例の件が無くとも、近寄り難いですね……。


 それを横目に通り過ぎていると、ふと建物の側に佇む一人の少女の姿が目に入りました。よく見れば手を組み熱心に祈っています。


 こんな所で何を? と訝しみましたが、その彼女の足下を見てすぐにそれは払拭され納得しました、


 ……新しいお花もありますね……。


 白い花が目立ちます。全て献花でした。


 すぐに事情を察し、邪魔にならない様に心の中で彼女に御礼をいいつつ、静かにその横を通り過ぎ様としたのでしたが、彼女に気が付かれてしまいました。


「え!? じょ、女王陛下ッ!」


 わたしを見て驚いた彼女は慌てて礼を執ろうとしましたのでそれを手で制します。


「学園でのわたしの立場はあくまで一教師です。それに即した対応で構いません」

「……し、失礼いたしました。ミ、ミリセント先生……」

「構いませんよ。制服からすると貴女は二学年の者ですね? それにしても随分と熱心に祈られておりましたが、アリシアとはお知り合いでしたか?」


 生前、アリシアはかなりの人気者でした。


 魔法が巧みで剣術の腕前も秀でており、勉学に関してはお察しでしたが、目鼻立ちも整っていて気立ても良く、その持ち前の愛嬌さからも特に同性からの受けが良かったです。


(ご存じの方で?)

(さあ? でもアリガトねー!)


「……いえ……わたくしが一方的にお慕いしていただけでして……」


 ……流石人気者ですね。


「そうでしたか。この様に慕われて、彼女も草葉の陰で喜んでいることでしょう」


 ……正確にはわたしの頭の中で、推測ではなく本当に喜んでいますがね。


 そういいながら軽く微笑むと「……で、では失礼致します……」お辞儀をしてすぐにその場を去っていってしまいました。


 暫くそのまま彼女の後ろ姿を見送り、完全に見えなくなると真面目な顔付きに戻します。


「どなたかいらっしゃいますね?」

「はい」


 音もなく背後から声がしました。


「彼女の素性を調べて下さい。少々胡乱です」

「はっ!」

 

 すぐに気配がなくなります。


「……? 陛下、先程の者が何か……?」


 レイが不思議そうにするのも無理はありませんが、少々気になる娘でした。


 ……彼女が一学年の時、わたしたちは三学年です。その時期はわたしもアリシアも教師業で忙しくしていました。その際でもアリシアはたまに魔法や剣術の講義に顔を出していましたが、今の彼女の立ち振る舞いを見るに、とても剣を握る者には思えません。それと特に魔力量も多そうには見えませんでした。現に妖精達もあまり近寄っていません。ならば一体どこでアリシアと接点があったのでしょうね?


「思い過ごしだとは思いますが、念の為です」


 最近の学園は方々から人が増えていますから、小さいながらもいざこざは絶えません。騒動は大きくなる前に収めておくことが肝心です。


 そして幸いにも国外ならいざ知らず、ここにはわたしの手の者が多くいます。遊ばせているのは勿体無い。精々彼女達には働いてもらいましょう。


 ───決して嫉妬心や、わたしだけが忙しいのは不公平だと思っている訳ではありませんよ? これはあくまでこの学園、この国の為の予防策です!

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