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其の156 印鑑

 判子、押印の文化は今や大陸中に広がっていますが、その大元はラミ王国から広まったとされています。その理由はもちろんアンナの……以下略。


 わたしが使う印は主に三つ。


 一つは最も重要な物で滅多なことでは持ち出さない国璽。これは国家間の締結事項等に使われる物で普段は執務室に置かれており、君主であるわたしでも一人で勝手に持ち出すことは出来ず、必ず立ち会い人が必要となる代物。基本的にその任を負う者のはその際の宰相にあたる者になります。


 逆に普段使いの認めは君主になる以前から所有していたものを今も使用しています。最後に三つ目の印なのですが、これは今の立場になって初めて使うことになたラミ王国君主の承認印。これは基本的に認証の時に使用しますが、国璽と同じく使用する際は普段使いの物の様に朱肉は使用しません。その代わりに己の魔力を使用するのです。


 これは偽造防止に本人以外の者が使えない様にする為と、押された印影ですぐに判別がつくようにする為です。因みにわたしの印影の色は桃色。これもある種の術具ですね。その為、書類が多ければその分魔力が必要になります。最近では垂れ流し状態。国家の代表となる者は魔力量が多い者が望ましいといわれていますが、これはその為でもあるのでしょうかね。


 幸いにもわたしは魔力に関しては人並み以上にありますからその点は問題ありません。しかし肉体は普通の者と対して変わらないのです。酷使すれば疲れますし、眠くもなります。


 ……その結果がこれですか……。


「陛下、この度はご承認頂き有難う存じます」


 ……うっ……ハイディ先生の笑顔が眩しいです……。


「では早速こちらへ」


 レイと共に案内されて部屋に入ると、そこには史学科の教師お歴々が待ち受けていました。もちろん学園長の姿もあり、わたしと目が合うと恨めしそうにしています。


 ……貴方だけではないのですから諦めて下さいな。


「さ、これで全員揃いましたね。ではこれから会議を始めましょう。先ずはお手元にある資料をご確認下さい……」


 結局逃れられませんでした。







 わたしの予定管理はマダリンがしており、政務はもちろん教師の仕事も管理しています。


「陛下、今日は午後から学園に行かれる予定になっておりますが、準備は宜しいのでしょうか?」

「え? 今日の魔工学の講義はわたしの番ではなかったと思いますよ?」


 まだ専門課程の講義が始まる時期ではありません。今は一学年の共通講義が中心の時期です。二、三学年の者はこの間にこれから行う講義の準備期間。一学年の魔工学の講義はアラクスル達に任せていますからわたしの出番ではありません。


「魔工学ではなく、史学の教師会になります。今日から始まる予定と伺っておりますが?」

「えっ!?  初耳です! 何ですかそれは!」


 マダリンがため息を吐きつつ差し出して来た書類には、確かにわたしの名前も載っており、わたしの承認印も押してありました。


 ……こ、これは……。


 思わず書類を持つ手が震えます。こんな物騒な物は承認した覚えはありませんが、心当たりがなくもありませんでした。


 連日の執務は多忙に追われ休む暇もありませんでした。特に学園が完全に動き出すまでに終わらせなければいけないことが山のようにあり、日夜夜遅くになっても執務室で作業をする日々。そんな時はせめて精神だけでも休ませます。


(アリシア、アンナさま、後はよろしくお願いします……グゥ……)


 身体をアリシアに託し、アンナの指示で執務を遂行してもらっていました。流石にアリシア一人に任せるのは難しいですが、元君主であったアンナがついていれば問題ありません。腐ってももと女王。これは中々便利で多用していましたが、恐らくこれが原因でしょう。


(アンナさま! しっかりと内容を確認して頂かなくては困りますよ!)

(ちゃんと見ておったぞ!? 必要じゃと思ったからアリシアに判を押させたのじゃ)

(……え?)


 今年から「教」の指導要領を変更させていますが、史学にもその必要がありました。何せこの国の成り立ちからここまでの歴史について歪んで伝わっていたことが公となった為です。しかしそれを抑える側の教師達がそれに追いついていません。その為、教師達向けの研修会が必要であるとの要望書でした。更にその一員としてわたしの名前までが入っていたのです。


(ワシを保有しとるお主が参加せねば何も始まらぬじゃろ?)


 痛い所を突かれました。


 アンナは文字通り生き字引。この国の表も裏もずっと見て来ています。わたしとしても歪んでしまったこの歴史観を是正することは賛成です。その必要性を感じていますから何もいえません。それがわたしがこの地位にいる正当性を示すことにもなるのですから。


 ……仕方がありませんか……。


 史学の教師は免れたものの、史学科教師達の教師の座は免れませんでした。


「研修会が終わりましたら午後から王城で会議となります。わたくしは先に行き準備をしておりますので、終わりましたらすぐにお戻り下さいませ」

「わかりました……」


 ……そろそろ本当に倒れてしまうのではないですかね?

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