其の154 メイの望み
例え貴族でなくとも婚姻は家同士の繋がりになりますから、そこには色々と思惑が生まれます。
タレスとエイミーの件もそうですが、貴族社会では特に家同士の繋がりはとても重要で、今後のその立ち位置を左右するといっても差し支えありません。
……わたしは嫌いな考え方ですけれどもね……。
それは例えウチの実家の様に貴族の端くれであっても逃れられないのが現状です。幸いにも上の兄と姉の二人は既に愛でたく結婚をしていますが、一番上とその下の兄達は、それはもう大変そうにしていると聞いています。
何せ田舎ですし底辺ですから、最近までは二人とも相手を探すのが困難だったそうです。しかし今では方々から釣書が舞い込んでおり、逆に選ぶのが大変なことになっているのだとか。
……これはわたしのせいですね。申し訳御座いません。ですが出会いがないよりはマシですよね?
ミアの様に家格なぞ気にもせず、伴侶には強者を求めるといった割り切った考え方も良いでしょう。周りに迷惑を掛けないのであればどうぞお好きに。
……しかし、彼女のお眼鏡に適う者なぞいるのですかね?
なのでメイが「なら、あたしがの結婚に協力して!」とのお願いは微笑ましく思え、思わず頬が緩んでしまいました。しかしよく考えてみると別に我が家は婚姻に関して難しく考えていません。現にうちの両親は縁故に関係なく恋愛結婚だと聞いています。その言葉からは兄達の様に求婚で困っている訳でもなさそうです。少々引っ掛かりを感じました。
「……貴女……既に心を決めた方がいらっしゃるのですか? いえ、まだ早いだとかわたしも未だなのにとかはいいません。そうですね、貴女ももう立派な大人です。その気持ちは汲み取りましょう。しかし、ならばすぐにその方をわたしに紹介なさい。姉として見定めます。その後で出来うる限りの手を使い身上調査を行い、貴女に相応しい相手なのかどうか見極める必要があります。これは絶対です。拒否は無し。それで、その方はどの様な方ですか? 年上? 年下? 同い年? 学園の者? わたしに頼む位ですから王城の者ですか? えぇ、もちろん別に市井の者でも構いませんよ。貴女が望むのであればどなたでも。微力ながらも協力は惜しみません。……それともそれは余程に難しいお相手なのですか? ……もしや既婚者? 同性? 別にそれでも構いませんが……」
この手の話しは嫌いではありません。イザベラ程ではありませんがむしろ好物。
……自分に縁がないと、人の話しが殊更興味深く感じるものなのですかね?
わたしが前のめりに捲し立てると慌てて手を振りそれを遮って来ました。
「え? ちょ、ちょっと待って。まだそんな人いないって」
「え? そうなのですか? ……ならば何故……」
「だってミリねえが君主なのって、この先ズッとじゃないんでしょ? ライナにも継がせないんでしょ? なら権力がある今の内に良い人紹して欲しくって。貧乏はもうイヤだからお金持ちの人がいいな! それともちろんミリねえが辞めた後でもその地位に立っていられそうな人ね!」
「……あ、貴女という子は……」
流石にわたしも婚姻に夢を見る様な歳ではありませんが、これはあまりにも打算的過ぎます。こうも育ってしまったのは一体誰のせいなのでしょうか。開いた口が塞がりません。少なくともわたしのせいではないと思いたいです。
わたしが言葉に詰まり目を見開いて驚いていても、それに構わず話し続けていました。
「……それか……あたしがミリねえの養子になるって手もアリかな? それならそれで色々とやりようがあるしね……フフフ……」
……妹でも手を焼いているのに、こんな娘なんかいりません! 勘弁して下さい!
不的な笑みを浮かべているメイを見ながら、どうぞライナは真っ直ぐ育ってくれますようにと、必死に祈らざるを得ませんでした。
一先ず誰か良さそうな者がいたら紹介するとだけ約束をし、メイを執務室から追い出しました。
「……陛下……どなたか探しておきましょうか?」
「マダリン、あの子のいうことを間に受けないで下さい。あれはここだけの口約束です。放って置いたらすぐ忘れますよ」
「……しかしあの様子では……」
帰り際に真面目な顔で「言質取ったからね!」と、何度も繰り返しながら去って行きました。確かにあの様子ではことあるごとにいわれてしまいそうです。今からうんざりして来ました。
「まあ気にだけは留めておきましょう。いずれ彼女も理想の相手に巡り会え、今日のことなぞ忘れて紹介しに来るかも知れませんよ? 何せ今や学園は人が増えていますからね。出会いも多いでしょうし」
そのお陰で現在わたしは大忙し。
机の上に積まれている未処理の書類の束を見てため息が出て来ました。メイの妄言に構っている暇なぞないのです。
……自分が蒔いた種ですから仕方がないとはいえ、これは想定外でしたね……。




