其の147 学園寮
学園の寮は、問題ごとを避ける為にもそこに入れる者を予め選別していました。男女が別れるのはもちろんのこと、親の位や本人の気質等、様々な状況を踏まえた上で振り分けられています。
尚、わたしが居た古くて小さな柳緑寮は主に男爵令嬢の集まりで、中でも一癖も二癖もある者が入れらる所として有名だったとか。
……そのお陰で色々と助かっていますけどもね……。
同寮の者は今でも大切な仲間達。殆どの者が卒業後わたしの下について働いてもらっています。
良くいえば突出した者の集まりで、悪くいえばはみ出し者が集まる場所。設備も古く敬遠されがちであった我が寮ですが、わたし達がいた時期から随分と変わり、今では逆に人気な寮になってしまっているとのことでした。
「……今年は柳緑寮に入寮希望者が殺到してしまった様でして……」
メイはあぶれてしまったそうです。
それならば仕方がありません。幾らわたしの妹とはいえ、贔屓にしてはならないといいつけたのはわたしです。むしろ横槍を入れられなくて助かりました。別にどこの寮でも構いません。柳緑寮にこだわる必要は無いのです。彼女が伸び伸び楽しく学園生活を送れることが重要なのですから。
「それで、どこの寮になったのですか?」
学園は全寮制。必ずどこかの寮に所属します。
「……それが……」
エイミーが話しを持って来たことからもすぐに気がつくべきことでした。
「……青藍寮なのです……」
───あちゃー……。
生徒達は事前に精査された上で各寮に振り分けられますので、そこには自然と特色が生まれます。中でも青藍寮はそれが色濃く出ており、教の信奉者の集まりでした。
「何故よりにもよってそんな所に……」
「どうもこれは妹君、メイさんを守る為でもある様です」
「……守る?」
マダリンから詳しいことを聞いて頭が痛くなってきました。
この国唯一の宗教で国教でもある「教」ですが、その派閥は幾つもあります。
かつてイザベラが所属していた王道派は最大派閥でしたが、その教義は基本的に古くからの考え方をそのまま引き継ぎ、ただ宗主を祀り敬うだけのもので特段厳しい誓約や厳格な考え方などはなく、基本的に無害いで緩いものなのですが、わたしが派閥に関係なく毛嫌いする理由はその宗主として崇められている者がアンナになるからです。
…… 国民を豊かにして幸せに暮らす為に更なる発展を望むこと自体は、わたしの考えとも合うのですけれどもね……。
そこから別れた原理主義派が少々厄介になり、女王、即ちアンナを強く信奉し過ぎており、いずれまた彼女が再来しこの国を導いてくれると信じて疑わない集団です。最近では他の過激な派閥を取り込み台頭して来ていました。
特にわたしは自分の中にアンナが居ることを公言してはいません。常にはぐらかしています。
……変に祭り上げられるのは勘弁ですからね。
わたしの目的は彼女を自分の頭の中から排除することに尽きます。共存は望んでいません。そしてその暁には君主の地位も他の者に譲り、静かな生活を送るのが目的としていました。彼等の願いとは真逆。その後も付き纏われては堪りません。
しかし自重しなかったわたしが悪いのですが、王城内にある石室の件だとか諸々の行動で、わかる者にはわかられていました。既に公然の秘密。それが原因になっているのだそうです。
そんな中でわたしの実の妹の入園。
既に各寮には原理主義派に影響されている者がおり、これを好機と見て彼女を取り込もうと画策する者達が多くいるのだそうで、下手な寮に入れてしまうと彼女が大変な目に遭ってしまうことだろう。ならば予め一番害の少ない王道派の者が集まる青藍寮に入れて仕舞えばおかしな接触は少なくて済む。と、エイミーの姉であるベスが画策した結果なのだそうです。
「確かに彼女も今やわたしの部下で、主に教関係の問題を任せていますが、他にやりようがなかったのですかね」
「陛下の妹君ですから、隔離する意味も含めて、アラクスル王子達が入られていた特別寮にとの意見もありましたが……」
元王子であったグレイラットや留学生の王子であるアラクスルなど高貴な身分で親にお金の余裕がある子女は、使用人も置ける広い寮を別途差額を払うことで選択することが出来ました。
しかしグレイラットも父親があの様になってしまった結果、今年からは上級貴族子女が集まる普通の寮に入っており、彼だけでなく既に特別寮を使う者はいなくなっているとのことです。留学に戻って来たアラクスルも彼一人では寂しいのか、若しくは父であるランバリオンの意向なのか、今年からグレイラットと同じ寮に入っています。
本来でしたら学年が変わっても同じ寮に住み続けるものですが、残念ながら親の事情でそれも叶わないこともありました。
「そこに彼女一人住まわせるのもどうかとの意見もあり、恐らく陛下はそれを望まれないだろうとの意見が多くありました」
……周りの者はわたしのことをよく知っていますね。
確かに無駄な出費は勘弁して欲しく思いますし、何より折角の学園生活にも関わらず、一人で過ごす時間が多くなるのはあの子の為にもなりません。
「それが最善の選択ということなのでしょうね」
こうとなってしまった原因は全て自分の行いにあります。周りの者は責められません。エイミーもわたしの教嫌いを良く知っていますから苦渋の選択なのでしょう。
「はい。メイさんご本人ともお話しした上で決定したそうです。陛下のお耳に入るのが遅くなりましたのは、メイさんの意向になります」
「わたしに反対されると思ったのでしょうか」
「はい」
本人の意向の結果でしたら仕方がありません。メイももう十三歳。子供ではないのですから好きにさせましょう。しかし例え幾つになってもわたしの妹に変わりはありません。姉として心配することとは別です。
「わかりました。寮の件は構いません。ですがメイに、一旦寮に入り荷物を置いて落ち着いたらすぐ王城のわたしの元へ来る様、言付けをお願いします」
彼女には聞いておきたいことと、話しておきたいことがあります。姉なのですからその位のお節介は許されるでしょう。
「畏まりました」
マダリンがエイミーにその旨を告げると、彼女はわたしに一礼しすぐに動き出します。
その後わたしは会議に書類整理といつも通りの仕事をこなしつつメイが来るのを待っていましたが、結局夜遅くになっても彼女はやって来ませんでした。




