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其の146 春到来

 わたしの仕事はなにも書類と格闘するばかりではありません。もちろん魔獣と闘うことなんておまけです。昔はいざ知らず、君主自らが武器を持ち最前線に立つなんてこと本来であれば早々はありません。平和が一番。


 春ともなれば色々と動き出して人前に出る仕事が多くなります。主に式典。


 終始作り笑顔で愛想を振る舞い、それでいて堂々と偉そうにしていなければならないのは辟易としてしましますが今日だけは違いました。朝からやる気に満ちています。


 今日は学園の入園式。なにせ今年は上の妹のメイが入園するのですから、これは姉としては気合が入りざるを得ません。








 三回の捨て鐘が鳴り、その後で時刻を知らせる鐘が四回鐘が鳴りました。入園式の開場です。


 ……懐かしいですね……。


 同じ場所であるのに、たった三年で立場ががらりと変わっていました。


 同じく壇上に並ぶ顔ぶれは以前とあまり変わりませんが、王族はわたしのみ。これは仕方がありません。そしてわたしがここにいることで微妙な顔をしている学園長側の者や、逆にホクホク顔の教の者達に囲まれ、少々気まずい思いをしながら出番を待っています。


(どうです? ちゃんと居ますか?)

(ちょっと待ってね)


 ここにいるのは当たり前なのですが、思わず壇上からメイの姿を探してしまいました。場所はわたしの時と同じく集団の後方ですので、残念ながらわたしには見えませんからアリシアに探してもらっています。


 実は周りの者から「幾ら男爵家子女だとしても、陛下の妹御なのですから前列の方へ」との声が上がっていたのですが、それは却下しました。贔屓はいけません。後々遺憾を残すことにもなりかねませんしね。代わりにアラクスルの兄弟達が前列にいるのですが、所在なさげにしています。


 この場で彼女の晴れ姿を見れないのは残念ですが、それは後でゆっくりと確認しましょう。


(あ、いたいた。ちゃんとおしゃれもしてるよ。カワイイね!)

(良かったです。後でお養母さまにもちゃんとお礼をいっておかねばなりませんね)


 彼女にはわたしの時と同じ様な惨めな思いをさせたくありませんでしたから、ちゃんと良い服を着せています。流石にわたしのお古では貧相で可哀想ですからね。丈的にも着れませんでしたが……。


 なのでアリシアのお古です。これならば大きさも合いますし、仕立てがしっかりとしていてもあの場で華美過ぎて浮くこともありません。その為もあって今日は王城からではなくカーティス家から行かせました。綺麗に着飾ってくれた様で感謝です。


 冬の間王都に来ていたわたしの実の母であるメアリは今はもういません。出掛けています。


 本来ならミア達に持って行かせる予定だったゼミット国への信書ですが、彼女はルトア王国からまだ戻っていません。ならば他の者でもと考えていましたが、向こうとの関係上、わたしの身内が持って行くのが望ましいとのことで、流石に弟妹達だけでは不安でしたから母に頼みました。序でに寮内の様子を見てくるといっていましたから、暫くはこちらに来ないでしょう。


 それもあって今ではホルデが弟妹達の母親代わり。忙しいわたしに変わって諸々の手続き等をしてもらいて助かっています。


 ……わたしはライナ一人でも手一杯です……。

 

 改めて親の偉大さを痛感した次第です。


 そんな親達に見送られて新しく入園した子達が今ここに集まっているのですが、しかし流石貴族子女。教育が行き届いており、騒がしくする者など一人もおらず、みな大人しくして式は厳かに粛々と進行して行きいました。


 しかし流石にわたしが壇上の中央に立つ番になると少しざわつきます。


 ……これは無理もありません……。


 周りから話しを聞いていてわたしのことを知ってはいても、実際目にするのとは違うでしょう。いえむしろ話しを聞いているからこそなのかも知れません。


 ……どうせチビですよ……。


 しかしそんな反応にはもう慣れました。行く先々で同じ様な反応です。気にせず慶事の言葉を述べるとすぐに戻り、大人しく他の者達の話しを拝聴しました。


 その内容はわたしの時と同じく、退屈で当たり障りの無い冗長としたものしかいわないかと思いましたがかなり違いました。


 当然ながらこの三年間で学園もこの国も色々と変わっています。それに則した内容になるのは当然としても、その端々にわたしの名前が出てくるので居た堪れません。特に教の者の熱の入り様。顔が赤くなるのを抑えるのが大変でした。


 ……そろそろ本当にコイツらはどうにかしなければいけませんね……。


 教はアンナを信仰しています。その為、好むと好まざるに関わらず、わたしが何か騒動に巻き込まれる度にそれを元に力を付けて勢力を伸ばしてきていました。今日もわたしの入園式の時よりも壇上にいる者の数が多いような……。


 解体出来るものならば今すぐにでもそれを行いたい気持ちを抑え、一刻も早くこの羞恥から抜け出したく思いながら座り続けていました。








 入園式が終わると、生徒達は後方から順に講堂を出て行きます。


 新しく学園生になった彼等はそのまま各寮へと赴くのですが、その様子を見ていると懐かしく感じ、ふと久々に柳緑寮の寮監であるデリアに会いたくなってきました。丁度わたし達の代が卒業する為、入れ替えとなり寮に居る知り合いは彼女のみです。

 

 ……妹が厄介になるのですから、姉として挨拶が必要でしょう。それとも、そんなことをするとメイに嫌がられてしまいますかね?


 そんなことを考えながらこの後の予定をマダリンに確認をしていると、エイミー・プレンダが申し訳なさそうな顔をしてやって来ました。

 

 彼女はベス・ブレンダの妹で最上級生の三年になっています。マダリンの弟タレスの婚約者でもありますから、わたしも顔は知っていますがあまり彼女とは絡みがありません。それもあって彼女はわたしに用がある様でしたが直接わたしにではなく、その前にマダリンに話し、その後でマダリンからわたしへとその内容を伝えるのです。


 彼女から話しを聞いているマダリンの顔がどんどんと険しくなっていくのを見て、嫌な予感しかしませんでした。


「……陛下、少々手違いといいますか困ったことが……」


 メイが入る寮のことで問題が起きてしまっていました。

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