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其の139 娘と共に

 例え勢い成り行きで決めたといえども責任は持ちます。


「その様な訳ですから、今後この子ライナはわたしの娘として扱って下さい。みなさん、宜しいですね?」


 久々に強権を発動。我儘なのは百も承知。みなの諦め顔を見ると少し胸が痛みましたが、わたしの可愛い娘の為です。我慢して下さい。


 ……あら?


 よく見ればミスティ以外にも喜んでいる者がいました。レニーです。孫が増えたと相好を崩していますね。ならきっと彼の妻であるホルデも喜んでくれることでしょう。いずれちゃんとご挨拶に伺いますね。


「ミスティ、貴女は今日この場でライナの叔母になる訳ですが、一先ずこの子の面倒は貴女に任せます。姪として接するのではなく妹として扱い、リモ家の娘として恥ずかしくない様、教育なさい」

「はい!」


 ……宜しい。良い返事ですね。頼もしいことです。それに引き換え他の姉弟の顔は何ですか? 何故その様な可哀想な者を見る目でライナを見ているのでしょうかね? 解せません……。







 今朝はマダリンに起こされることなく日の出と共に目覚められましたが、今日も身体が重く感じました。


 よく寝れた筈なのに疲れが取れていないのかと思いながら目を開けると、視界に入って来たのは黒い髪とそれよりも少し薄い栗色の髪をした二つの小さな頭。


 ……またですか……。


 同衾するのは構いませんが、二人共、わたしの上で寝るのはやめて下さい。困った子達です。しかしライナももうウチの子。甘やかしはせず二人共叩き起こすと、すぐに朝の支度を始めさせました。


「さて、わたしは午前中仕事がありますので、朝食を取り終えましたらミスティはライナの面倒をお願いします。昨晩は他の家族とあまり話せなかったでしょうから、改めて紹介してあげて下さい。午後からは時間が取れると思いますので、色々と揃える物もあるでしょうから一緒に出掛けましょう」

『はい!』


 色々とありましたがやっと落ち着きましたので、早速ここへ来た本来の目的を進めます。


 ……扶養家族が出来ましたからね。お母さんは頑張って稼ぎますよ!


 ライナ達に見送られ、マダリン達を伴い意気揚々と商談の席に着いたのですが、相手側に座っている者の中にランバリオンの姿はなく、アラクスルを中心とした者達が待ち構えてるのを見て嫌な予感がしました。

 

 結果、予想通惨敗……。


「陛下、我が国は既に貴国に属しております故、それ相応の対応でお願い致します」


 ……うっ……そう来ましたか……。


 自国に配備するのと同じ様に考えろといわれても、部品代に制作費、輸送費等、それなりの金額が掛かっています。制作したグレイラット達に渡す分を差し引くと、最終的にわたしの手元に残る分は雀の涙。


 更に……。


「此度の騒動で、陛下ご自身もこの術具の有用性につきましてはご理解頂けたかと存じます。つきましては今後の納品について……」


 今やルトア王国がラミ王国の一部になったとはいえ、妖精が溢れ返る様になり魔法を使える者が多くなるにはまだまだ何年も掛かります。アラクスル達がそれを知っているのかどうかは知りませんが、確かにまだこの無線機の術具はこの国にとっては必要不可欠。


 彼の提示する台数を見て目を剥いてしまいました。


 ……これはとてもグレイラット達だけで回せる数ではありませんね……。


 彼らだけで製作させることで希少価値を持たせ、わたしが少しずつ売り利益を得る計画はここで頓挫してしまいました。


「……わかりました。わたしが戻りましたら各所と相談し、量産体制を整えましょう」

「有難う存じます。そうなると一台辺りの金額の方も、もう少し抑えられそうですね」


 そう和かに笑い掛けるアラクスルの顔が、商人貴族であるマリアンナやフランツィスカ達と被り、震えが来ました。


 ……わたしはどうもこの手のことには向いていません……。

 

 完全に手玉に取られてしまいました。


 無線機の術具を買い叩かれたのはとても残念でしたが、それがここの為になるのですから良いことなのだと考えます。これは負け惜しみではありません。これ以上ライナみたいな子を増やさない為にも、広く復旧させることが必要なのだと割り切って考えることにして留飲を下げました。


 心の内はそっとしまい込み、笑顔でもって商談を終えようとしたのでしたが、打ちひしがれているわたしに更なる追い討ちが。


「それと陛下、先日の討伐に掛かりました費用につきましてですが……」


 ……えぇ、確かにあの時わたしが出すといいましたよ。二言はありません。ですがもう勘弁して下さい!


 掲示された金額を見て、思わずその場に崩れ落ちそうになってしまいました。







 午後からは約束通り、ライナとミスティと一緒に街へ出掛けました。お共はレイ。


「仮にも君主がその様な人数で街に繰り出すのは……」


 ルトア側の者から苦言を呈されてしまいましたが突っぱねます。


「女子供が出来歩けない程、王都は危険な土地なのですか? それならば見過ごせませんね」


 煩わしいのは勘弁です。それに非戦闘員はライナだけ。この子はわたしが責任持って面倒をみますから問題ありません。特に大きな買い物をする訳ではありませんから人手も不要。


 ライナはわたしがラミ王国に戻るのと一緒に連れて行きますので、その準備と今の内に祖国の思い出作り。余計な者は遠慮して下さい。


「二人共、どこか行きたい所は御座いますか?」


 考えてみれば、折角王都に来たというのに満足に街を見ていません。見せ物にされて連れ回されはしましたが、実際歩いて内側から見るのとは違います。わたしもこの子達も見聞を広める良い機会でしょう。幸い潤沢とはいえませんが軍資金もあります。


 ……しかし本当に何とかなって良かったです。危なかったですね……。


 危うく周りの者か、自国に対して借金をする所でした。


 結局わたしが払うと豪語したお金は、最終的に結構な金額になっていました。例えあの無線機の術具をそれなりな値段で卸したとしても、持って来ていた分ではとても賄いきれない金額です。それこそ桁違い。


 ……めったなことはいうものじゃありませんね。調子に乗っていました。


 しかし捨てる神あれば何とやら。


 先だって行われた試合の賭け金、アレの配当金額が最終的に恐ろしい結果になっていました。


 ……道理であの時のランバリオンの態度が尋常じやありませんでしたよ。


 今回の経費と相殺してもかなり余る程でしたが、結局残りの纏まった額は、魔獣被害の復興資金として寄付することにしました。


 ……流石に受け取るのは心苦しいですからね。


 あの催しが無ければ、軍が王都に集中することなく魔獣の討伐も早く済み、被害が抑えられたかも知れません。そもそもわたしがこの国へ来ることを予め知られていて、それに合わせて……。


 たらればをいい始めるときりがありませんが、少なくとも気持ち良く受け取れるお金ではありません。ここに住う者の為に有効活用して下さい。


 それでもこの子達に使う分は少し残してあります。この子達に使う分には誰にも文句はいわせません。色々と活躍してくれましたからね。


 ……そういえばレイも大活躍でしたね。折角ですからお礼に何か贈りましょう。


 道すがら何か欲しい物はないかと本人に尋ねるも「お気持ちだけで結構です」辞退されてしまいました。欲のない娘ですね。

 

 彼女の分は追々考えるとして、先ずはライナの着替えが必要だと考えながら服屋を探していると、突然道端で知らない者に呼び止められました。


「おっ! オレ、コイツのこと知ってるぞ! 女王陛下さまだろ? なぁ、アンタって強いんだろ?」


 昼間っから赤ら顔で酔っ払ってる輩に絡まれてしまいました。


 ……あぁ、そういえば昨晩は、街を上げてのお祝いになって大騒ぎでしたね……。


 街中はまだそのお祭り騒ぎが続いています。それもあって街に出てみようと思ったのでした。


 恐らく彼は夜通し飲み続けていたのでしょう。前後不覚です。よく見れば一人や二人ではありません。いつの間にか集団に囲まれてしまいました。


 ……こうならない為にも、周りを人で固めておけという意味だったのでしょうかね。


 忠告は素直に受け取るべきでしたと少しだけ後悔しました。

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