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其の13 隣室の者 後編

 入園してまだ間もない内から既にわたし達には「柳緑寮の黒いのと白いの」として有名なのだそうです。

 そんな二つ名を頂いていたとは知りませんでした。少し誇らしい気持ちになり詳しい話しを聞いてみようとしたのですが、目を逸らされ言い淀んでしまい言葉を探しているところを見るに、どうにも教師の方々に目を付けられているといった悪評みたいです。解せません……。


 頭の中でも笑い声が聞こえてきましたが、今回は無視することなく苦言を呈し、大人しくさせてから改めてレイチェルに向かいます。


「まぁ、そんなことはどうでもいいですね。それよりもしっかりと養生して下さいませ。まだ動くのがお辛いのでしたら暫くこのままこちらで寝てらしても構いませんし、動ける様でしたらご自分のお部屋に戻られますか? それでしたら今日のところは、わたしが魔石に魔力を込めておきますけれども……」


 わたしの魔力を褒めて下さったのです。そう何度もは困りますが一度くらいでしたら無償で奉仕するのは構いません。


 わたしの提案にレイチェルは少し考えこんだ後、申し訳無さそうな顔で「大変に有難いことなのですが……」今後も魔力の供給はしなければならないので、これも練習と思い、もう少し休んだら自分で供給するとのことです。それまでの間、もう少しこの寝台を使わせて下さい。迷惑を掛けして申し訳ないとの旨を言い謝られました。


 ……見上げたものです。凄いですね。自分を甘やかさず、その律する心持ちは正に貴族子女の鏡です。是非ともアリシアには見習って欲しいものです。


 感心しながら、わかりました。構いませんよと返答し、そうそう、食事が足りない様ならお持ちしましょうか? と尋ねようとしたのですが、突然アリシアがそれを遮る様に横から口を出してきて、その言葉を聞いてギョッとしました。


「そうそうミリーってば、古いモノが好きなのよ。レイチェルの家ってケッコー古いんでしょ? ナンカ良さそうなモノがあるんじゃない?」


 ───そんな物乞いみたいなこと言わないで下さい!


 ……なんという厚顔無恥! 恥ずかしくって顔から火が出そうです! 例え親しい間柄であっても言って良いことと悪いことが……そもそも出逢ってまだ少ししか経っていないのですよ? なのにそんな……。

 

 顔を青くしてアリシアに掴みかかろうとすると「ふふふ……大丈夫ですよ」レイチェルは何でもない様子でわたしを手で制しました。


「何か有れば良かったのですけれども……お恥ずかしい話し、確かに我が家は剣にてこの国に古くから仕えているのですが、ご存知の通り、剣は既に国力に於いては旧態依然としていますので……」


 確かに今や国家間の戦では剣の出番は無くなり、魔法や魔術が主流になっています。剣は最早己を磨く鍛錬か、伝統芸能としての意味合いしか残っていません。アリシアが以前目指していた無法者でもなければ必要とされていないのです。


「その為、今や当家の没落は甚だしく、もう財産と呼べる様な物は何も残っていないのですよ……」


 悲しそうに笑っています。


 思った以上に深刻な状況にある様です。彼女はこの学園を優秀な成績で卒業し、お家の復興を望んでいるのだそうです。


(おぉ、そういえばクラウゼ家の名は覚えておるぞ。勇猛果敢な者を多く輩出しておったな)


 かつてはその武勲でもって繁栄していた家柄だとわたしも知っています。勉強しましたので。栄枯盛衰は悲しいものですね。

 

 何とも言えない空気が漂い、お調子者のアリシアさえも大人しくなってしまいました。そんな中、レイチェルが口惜しそうに零します。


「……先々代の祖父が、これからは魔法・魔術の時代だと、古い魔術書を買い漁らなければ、まだここまで窮することもなかったのですが……」


 気になる言葉が出てきました。


 重苦しい雰囲気の中ですがそれを気にせず尋ねます。


「もし、その魔術書とはどのような物でしょう?」


 わたしの突然で不躾な問いに、軽く目を見開きながら驚いたレイチェルでしたが、不思議そうな顔をしながらも答えてくれました。素直な良い娘ですね。


「……そ、そう、ですね……。確か、主に力を求める代わりに、己に制約を掛ける魔術や魔法なのだと聞いています。更に剣術を極めんと己の力を向上させるのが目的だったそうです。古い言葉で書かれていますから詳しい内容は分かりません。術具とは違いますから魔力を相当使いますので、先先代も上手く成せたかどうかも……」


 あまり魔力量の多くない一族のようですね。しかし重要なのはそこではありません。これはもしや……。


 期待値が上がり、興奮しながら話しを聞いていたのですが「なら、そんなのサッサと売っちゃえば良いんじゃない?」と、アリシアが脳天気に口を挟むのでしたが「無理なのです」とレイは悲しそうに首を振りました。


「なにせ今や魔術は術具を行使するものになっていますし、そもそもそのような不合理な制約があるものは使いどころがなく、無用の物だと言われてしまいました。売るにも売れないような代物だと……。もういっそ国の研究機関にでも寄贈しようかと父が申しております」


(……アンナさま、コレどう思われます?)

(さて……。これだけでは何とも言えんが……じゃが、オババが掛けておった術と同系統には違いなさそうじゃな)


 それを聞くとわたしは目を輝かせながら素早くレイチェルの手を取ります。


「レイチェル、いえレイと呼ばさせて下さいまし! わたし達、もうお友達ですよね? わたしのことは是非ミリーと。仲良くしましょうね!」


 何事かと目を見開いて固まってしまいましたが気にしません。


「そんな大事な物手放すなんて勿体ないです! いえ別にそれを欲しいという訳ではありませんよ? 見せてくれるだけで結構です。是非ともお願いしたく! 今後、貴女の部屋の魔石はわたしにお任せ下さい。大丈夫です。魔力は有り余っていますので! 困った時はお互い様じゃないですか!」


 そんなわたしを見ながら笑うアリシアは無視し、困惑するレイの目をジッと見続けるのでした。





「ミリーは今日、ドコも出かけないのね? じゃ、アタシ出かけてくるからー」

「……ふぁい……お気を付けて……」


 薄目を開けて寝台から見送ります。朝も早い内からアリシアは元気に出かけて行きました。


 昨日は興奮し過ぎてレイの部屋の魔石に魔力を込め過ぎてしまいました。魔石が壊れてしまわないかと心配する程に。そのお陰で疲労感も酷いですがお腹もだいぶ空いています。

 このままずっと寝ていたい気持ちよりも空腹が勝ち、仕方なく寝台を出て身支度を整えると、部屋を出て階段を降りる前に隣室の戸を叩きます。


「レイ、おはようございます。起きていらっしゃいますか? お加減は如何でしょう? 朝食に行こうかと思うのですが、何かお部屋にお待ちいたしましょうか?」


 昨日の惨状を見ているので心配をしていましたが、程なくしてハリのある声が帰ってきました。


「おはようございます、ミリー。お陰様でもう大分良くなりました。もう起き上がっても大丈夫ですので、折角ですからご一緒させて頂いても宜しいでしょうか?」


 そしてすぐに扉が開くと元気そうな顔をしたレイが現れ、共に食堂へと向かいました。

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