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其の135 討伐翌日の台地 前編

 わたし達が野営地としていた場所は、広大な台地になります。


 草地が広がり、普段は専ら放牧に使われている場所なのだと聞きましたが、今は冬ですので時期的に放し飼いの家畜はいません。その為、魔獣共を迎え撃つのに適切な広さがあり、周囲に人がいなく被害を及ぼしにくいことからここを選びました。


 ……こんな広大で肥沃な土地、我が国にあったら全て農作地にしているでしょうね。これはやはりお国柄なのでしょうか。


 その台地の少し盛り上がっている場所に天幕を張って野営地としていました。そしてわたしのいた周辺には、昨晩には確かに所狭しと天幕が張ってあった筈でしたが、今はわたしの天幕以外見当たりません。

 

 それ自体はわたしの起きるのが遅くて、みんな既に撤収準備を済ましていたとも考えられますから別に不思議なことではありません。驚いたのは別のこと。


 わたしのいる小高い丘を中心に、視界に入る所全てに……いえ、恐らくわたしの視力では見えていない地平線の先にまでにも、夥しい程の人で埋まっていることです。


 ずれ落ちた眼鏡を戻しながらもう一度よく見ました。


 昨晩いた筈の者達の何倍もの人数。これは明らかに百や二百ではききません。数千……いえ万の単位でしょうか。


 ……こ、これは一体、何事ですか……?

 

 その光景には、慄く以外の反応は出来ませんでした。


(いや〜すごい人ねー。色んな人がいるみたいだけど、ほとんどここの軍人さんかな?)


 確かにわたしにもそう見えます。寝ぼけて見間違いをしている訳ではなさそうです。

 

 一瞬、寝ている内に王宮へと連れて来られて、演習場にでもいるのかとも思いましたが、その群衆の中には明らかに兵士以外の者達の姿も見えます。

 

 とはいえその殆どが兵士です。服装が微妙に違うことからも各部隊が集まっているのがわかりました。


(今更、魔獣の討伐に来たのかな?)

(流石にそれはないと思いますよ)

 

 昨日の内に、討伐完了の報はアラクスル側からもわたしからも入れてあります。今頃来るとしたらそれの確認作業位なものでしょう。しかし、それだとしてもこの数は異常です。


(ハハッ! お主、一体何をやらかした? 此奴らはお主を捉えに来たのではないのか?)

(冗談でも怒りますよ!)


 しかしわたしはこの国の法律に明るくはありません。知らない内に何か法律を犯していないとも限らないのです。その点については自信ありません。


 ……他国にも関わらず、好き勝手に暴れましたからね。


 倒した魔獣の魔石も勝手に使いましたし、地形も大胆に変えてしまっています。


 ……一応、その点は王族に許可を取った筈ですが……大丈夫ですよね? それとも他に何かありましたか?


 城壁の扉を壊したりとか、思い当たる節がない訳でもありませんので、ラャキ国での失態を思い出し、不安になって来ました。


(あら? でもみんな、武器は持っていなさそうよ。どちらも違うのじゃないかしら?)


 確かにイザベラのいう通り、よく見れば彼等は武装をしていませんし、周りには彼等自慢の兵器の術具も一切見当たりません。


 ……物騒な目的では無さそうですが、本当、一体何んなのでしょうね……。


 いずれにしても気味が悪く、今すぐにでも逃げ出したい気持ちで一杯でしたが、残念ながらそれは出来ません。


 そもそも四方を囲まれており逃げ場はありませんし、更に視界に入る者全てが、黙ってわたしのことを見つめているのです。これでは下手に動くに動けません。


 正に蛇に睨まれた何とやら。その場に立ちつくすしか出来ないでいたのですが、暫くするとその群衆に動きがあり、中から一人出て来ました。


 ……あ! あれはアラクスルですね。あら? 何か手に持っていますよ?


 ここからでは何を持っているのか、何をしようとしているのかはよくわかりませんが、知り合いの姿が見えただけで少し安堵しました。


 彼はこの状況をわたしに伝えに、そのままこちらへ来るのだとばかり思っていましたが、全くその素振りはなく、群衆から少し離れるとその場で翻ってしまいました。


 ……ん?


 そして突然。


『みなの者ーッ! 女王陛下に敬礼ーッ!』


 ───ヒィッ!


 彼が持っていたのは拡声器の術具でした。


 辺り一帯に、耳をつんざかんばかりのアラクスルの声が響き渡り、驚いて心臓が飛び出しそうになりました。しかしそれ以上に驚いたことがあります。その声に従って群衆が一斉に動いたからです。


 ───えっ?


 この場にいたのは兵士ばかりではありません。身分も職種も異なる様々な者のがいます。


 その為、それぞれその作法は違いますが、跪いたり頭を垂れたりと、共通してみな一斉に敬意を込めた礼を始めたのです。もちろんわたしに対して。

 

 ───えぇっ!


(いや〜壮観じゃな。こりゃ懐かしい)

(スゴイネ! ルトア王国の軍人さんまでミリーに敬礼してるよ!)

(あらあら、まあまあ)


 君主になって以来、一度にこんな大人数から礼をされたことがありませんから、それで驚いたのもありますが、それも他国の、ルトア王国の兵士に自分の主君に対して敬意を示す正式な礼を向けられたことにとても驚かされました。


 ……す、すると、これは……。


 視線を群衆より少し上に移します。


 それを見て、これに至るまでの事情については全くわかりませんでしたが、こうとなった状況についてはとても良く理解が出来ました。


 先程天幕を出た際に、夕方まで寝ていたのかと勘違いしたのは辺り一面に広がる暖色の煙の様な光景が見えたからです。それは明らかに朝日に照らされて輝くモヤとは違いました。

 

 しかしこの目の前に広がる光景は、夕日に照らされて赤く染まったモヤなどではありません。全てここにいる者達から立ち昇っている魔力でした。

 

 ……あの桃色の魔力も、これだけ人が集まって重なるとこんなにも赤くなるのですね……。


 新たな発見に感心したのと同時に、暑苦しい国民性が魔力にも出ている感じがして、少し気持ち悪く思ったのは内緒です。


 もちろんそんな顔はしません。微妙になった気持ちをひた隠し、作り笑顔で泰然を装いながらゆっくり周りを見渡していると、みんなと同じく敬意を示す態度を取っていたアラクスルが徐に立ち上がり、こちらへと向かって来ました。

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