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其の134 討伐の日の夜から朝にかけて

「おーい! 生存者だー! 誰か手を貸してくれー!」


 人手が増えたお陰で、完全に日が落ちる前に村の捜索を終えられて、生存者の救出作業が出来ました。


 運の良い者が多かったのか、そこは流石ルトア王国の国民なのだからかは知りませんが、思ったよりも生存者がいました。ともかく、幾らかでも命を救えることが出来たのは幸いなことです。


 救出した者の内、この場での治療では間に合わない者は、日が落ちていても構わずに急いで治療の為に馬車で王都に向かわせます。それ以外の軽傷者等は、ここの野営地で一夜を明かせることに。夜間の移動は危ないですからね。それを事前に踏まえていたのか、水や食糧、天幕、着替え薬品等々……潤沢に用意されていました。


 ……もうこの際です。準備の良過ぎるマダリンのことや、お金のことは気にしませんよ!


 そう考えさせる為に用意されていたのかと思わざるを得ないほどに、美味しい料理にお酒、更にお菓子までもが用意されていました。


 ……完全に掌の上ですね……。







 ここがいくら温暖な地域とはいえ、夜ともなると流石に冷える時期。方々に焚き火や篝火が焚かれ、さながら昼間の様。そこに大量の料理やお酒が運び込まれる訳なのですから、当然自然と騒がしくなり飲めや歌えやの大騒ぎ。とても先程まで死闘を繰り広げてい者達とは思えません。元気ですね。


 ……寝ずの夜番の方、ご苦労様です。後でちゃんと差し入れは持って行かせますね。


 この大騒ぎは、危機が去り命を繋いだことをお互いに喜び合うのと同時に、死者を弔う為なのでしょうか。泣きながら笑い合っている者達の姿も見えます。なるほどこれが国民性。ならばわたしも郷に入ってそれに従いましょう。


「みなさん! お好きなだけお飲みになってお食べ下さい! まだまだいくらでもあります! 今日は色々と大変なことがありましたが、今この時この場に居られることを感謝し互いに讃え合い、故人を偲び、後のことは明日以降考えましょう! 今は今! 今宵は無礼講です!」

『オーッ‼︎』


 マダリンがこの場にいたら確実にお説教されること間違いなしですが、幸い今は居ません。わたしも気兼ねなく羽目を伸ばしました。







 流石に昨日はかなり疲れていた様です。


 あの晩は、しこたま食べて痛飲し、すぐにあてがわれた天蓋に入って寝てしまいました。

 

 外からは騒がしくする音と、日の光が差し込みが顔に当たって目が覚めました。匂いまでは届いていませんが、朝食の準備が出来たのでしょうかね。


 天蓋に入ってくる日の角度からして、普段起きている日の出よりもだいぶ経ってしまっているのがわかります。これは思っていた以上に疲れていたのでしょう。確かに今もまだ身体が少し重いです。


 身の回りの世話をしてくれているマダリンがいないお陰で寝坊が出来ました。しかし流石にそろそろ起きなければいけません。お腹も空いて来ましたしね。


 ……あら? 見知らぬ子がいますね?


 身体が重く感じたのは、わたしの上に乗って寝ていた二人の幼子が原因でした、ミスティと、それよりも少し小さな女の子。


 ……この子は……? 


 そうそう、思い出しました。あの村で孤児になった子です。泣き止まないから一緒に寝ていたのでしたね。

 

 彼女達を起こさない様、そっと横に退けて寝台から起き上がると、朝食を取る為に外へ出ようと幕に近付いたのですが、そこに人影が。


「おはよう御座います、陛下。お目覚めでいらっしゃいますね?」


 ───えっ!


 知っている声でもいきなり声を掛けられて驚きました。何せここにはいる筈のない者の声なのですから。

 

 わたしが入札の許可を出すよりも前に勝手に幕が開くと、その声の主が入ってきました。マダリンです。


 驚いて固まっているわたしをジッと見つめると、彼女は眉を顰めながらため息を吐きました。


「……ふぅ……やはり着の身着のままでしたか。それにしても酷い格好ですね。仮にも一国の君主たる者が、そのような格好で人前に出てはなりません。すぐにお着替えをなさって下さい」

「……お、おはようございます、マダリン。早いのですね……別に着替えは朝食を取ってからでも……」

「なりません」

「……わかりました……」


 彼女、既にわたしが人前に出られる格好ではなくなっていると予想し、朝も暗い内から飛んで来たのだそうです。忠義の鏡ですね。


 着替えどころかお湯まで用意してありました。


 昨日は何度も血まみれになり、その都度身体全体の洗浄はしていたものの、お風呂に入った訳ではありません。着ていた服も今回持って来た服の中で二番目に仕立ての良かった物でしたが、戦闘のお蔭で最早その面影はありません。ボロボロです。このまま雑巾行きですかね? 色々と叱られそうです。


 しかし彼女は渋い顔をしながらも、服のことについては何もいわずに黙って脱がされ、そのまま頭を洗い身体を磨かれると、ガサガサになっていた髪に櫛を入れて艶を出し、用意された服に着替えさせられました。


 ……ふぅ……さっぱりしました……。


 文句はいっても綺麗になるのに越したことはありません。これでも乙女ですからね。


 ……しかしこれ、今回持って来た物の中で一番良い服ではないですか?


 綺麗に整えられた王宮でならばいざ知らず、ここは野営地です。朝食を取るのに外へ出るだけで、ここまでするのは流石にやり過ぎでは……と、思わず口から溢れ出てしまいましたが「そんなことはありません」これでも不足だと叱られてしまいましたので、その後は口をつぐんで大人しくされるがままに。更に化粧まで施されてしまいました。


「……まぁ、これで良いでしょう……」


 ようやくマダリンから及第点の合格が出て、外へ出る許可が下りました。これでやっと朝食にありつけます。


「わぁー! おねえちゃん、おひめさまみたい!」

「ミリねぇ、かっこいいよー!」

「あら、お二人共、ありがとう存じます」


 ……昨晩のわたしの格好では、とてもそうには見えなかったでしょうが、どうです? 実はそうなのですよ? 正確には女王なのですけれどもね……。

  

 最近、特に昨日は色々とあり過ぎて自信を失いつつありました。


 ……格好から入るのも大事なのですね。


 綺麗で窮屈なお仕着せも、煩わしくしか思えませんでしたが、幼子達から賛美を受けたことで少しづつ気持ちが上向いて来ます。


 すっかり気分を良くして、ミスティと一緒に寝ていた女の子に見送られながら意気揚々と天蓋を出るのでしたが、外に出た瞬間、すぐにも中へと戻り寝台に潜り込みたくなってしまいました。


 ……実はまだ寝ていて、夢でも見ているのですかね? それとも寝過ぎて今は夕方? だとしても色々とこれはおかしいですよ……。


 思わず眼鏡がずり落ちてしまいました。少なくとも、外はゆっくりと朝食を取れる雰囲気ではありません。目に飛び込んで来た光景に、訳がわからず混乱してしまいました。


 ………わたしが寝ている間に、一体何があったのですか?

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