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其の133 恒例の後始末

 ミアから奪い取った竜もどきの大きな魔石は、崖の中央で一番岩の厚い場所に使いました。他の魔石を誘爆させる為でもあります。


 ……しかし、アラクスルが大人な対応を取ってくれて助かりましたね。彼も随分と成長しました。教師としてわたしも鼻が高いです。それに引き換えウチの姉ときたら……身内として恥ずかしい……。


 結局、竜もどきの魔石の権利を主張して騒いでいたミアでしたが、それに見兼ねたアラクスルが自前の剣を持ち出し「これは魔力を通すことにより、刃を硬化させる術式が刻んであります。あの魔石の代わりといってはなんですが、此度の討伐の御礼に如何でしょう?」それで大人しくなりました。現金ですね。


 ……ともあれ、有難う存じます。……と、お礼をいいたい所なのですが……。


 後でこっそりと、その見返りに通信機の術具の代金をまける様、暗にいわれてしまいました。しっかりしている子ですね。


 聞けばその術式を刻んだのはアラクスル本人だとか。腕を上げたようで何より。教師としては生徒の成長を見れて喜ばしいことなのですが、ルトア王国と取引をしている身としては、とても歯痒い思いをしてしまいましたよ。


「それはそれとして、本当にこれ、持って帰るのですか?」

「はい。此度の討伐を広く民に喧伝したく存じますので……」


 アラクスルに是非にと頼まれてしまっては断れません。

 

 竜もどきの死骸だけは、この場で処分せずに一纏めにして状態保存の魔術を掛けておきます。


 ……流石にそろそろ魔力もキツいですね……。


 持ち帰る手配は頼みましたよ?







 轟音と共に崖が崩れ、西陽で赤く染まった台地に小山が築かれました。


 ようやくこれで終わりました……。いえ、まだ全て終わった訳ではありません。


 ……ですが流石に生存者の確認作業は今日中には無理ですね……。


 そろそろ完全に日が落ちて真っ暗になってしまうのと、自分も含めてみんな体力的に余裕がありません。

 

 目の前にある出来上がった山を見ていると、やり切ったという開放感と後悔がないまぜになり、どっと疲労感が押し寄せて来て、今にもこの場に座り込みたい気持ちになりました。


 しかしまだ座り込むわけにはいきません。踏ん張ります。


 土煙が収まったら死骸の埋め残しが無いかの確認をしなければいけませんし、それにもう完全に魔獣共を駆逐出来ているのか、周囲の安全確認もしなければいけません。それらをやらせる人員の振り分け等を考えていましたら、不意に後方から何かがやってくる音が聞こえて来ました。


「おーい! 大丈夫かー!」


 少なくとも魔獣や敵だとかでは無さそうです。








「陛下、お疲れ様で御座いました」

「レイ! 貴女方がどうしてここに? 王都周辺で避難民の誘導をしている筈では……」

「はい。実は……」


 わたし達が早々に魔獣共の群れに遭遇したお陰なのか、想定よりも避難民の数が少なくて済み、レイ達の作業も早く終わって、その為に用意していた物資が余ったこともあり、そろそろ日没だというのに討伐終了の知らせも、わたし達が戻ってくる様子もなく、まさか魔獣共にやられてやしないだろうが、これではわたし達はその場で一夜を明かす羽目になるだろうと、マダリンの指示で、その余った物資等を持ち、わたし達の為に野営の準備に来てくれたとのことでした。


 ……マダリン……相変わらず如才ないですね……。


 遺恨を残しますので、近くの村で挑発活動なぞは行わないだろうことまでお見通しです。完全に見透かされていますね。今もどこからか見られている気がしてきて、今日一怖くなりましたよ。


「わたし共は戦闘に参加は出来ませんが、体力は十分。後のことはお任せ下さい」


 そういいながらザッと周りを見渡し、竜もどきの死骸や出来立ての山、わたし達の状態を見ただけで「……陛下、流石ですね……」状況を全て察した様で、尊敬の眼差しで微笑んだ後、すぐに真面目な顔付きに戻り、共にやって来た者達に対してきびきびと指示を下し始めました。


「一班とニ班はあの山に赴き、魔獣の死骸の埋め残しがないか確認を。二次災害には十分気を付ける様に! 三班から五班は周囲の安全確認に赴け。馬だけでなく足も使い念入りに! 六班から十班は魔獣の進路上にあった村へ赴き、生存者の確認及び救出。周辺の村々の確認も怠るな! 残りの者はここで野営の準備。陛下達はご活躍でお疲れである。迅速に用意せよ!」

『ハッ!』


 レイの号令で、百人以上の者達が一斉に動き出しました。


 ……あら? なんかわたしが王都を出た時よりも増えてやしませんか?


 確か、出かける前に見た時は五十人にも満たなかった筈の部隊です。不思議に思い聞いてみた所、避難民を回収中に、レイ達だけに任してはおけないと、有志の者がどんどんと集まっていったのだそうです。


「ここに来ている者以外にも、今でも王都近郊で陛下のご指示通り対応に務めている者が多数おります」


 近隣の村や町からも有志の者が現れて、更には自警団の様なものまでが出来上がり、警戒や避難民の誘導を継続して行っているとのことです。


 ……それって、大丈夫なやつなのですかね?


 王都に戻ったら、勝手なことをするなとランバリオンに文句をいわれてしまいそうな気がします。それに、その為の活動資金はきっとわたし持ちなのでしょう。色々と震えが来ます。


 ……大きなことをいい過ぎましたかね……。


 しかし後悔しても始まりません。悪いことではないはずです。後のことは後で考えましょう。そんなことよりも、今は想像以上の働き振りを示してくれているレイを褒めなければなりません。

 

 ……男子三日会わざればとはいいますが、女子は半日でこうも変わるものなのでしょうかね?


「不甲斐ない主人に代わって、貴女は随分と立派にこなしてくれている様ですね。とても喜ばしいです」

「ご謙遜をなさらないで下さい。全ては陛下のご指導の賜物です」


 そんな教育をした覚えはありませんが、本人が納得しているのでしたらそれで良いでしょう。変に水は差しません。そのキリリとした顔付きを見てしまうと何もいえなくなります。立派過ぎて、彼女の方が女王に相応しいのではないかとすら思わせられてしまいました。


 ……これは自信無くしますね……。

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