其の132 対処
この時以上にアンナのポンコツぶりを恨んだことはありません。
「ミアねーさまーっ‼︎」
わたしが叫ぶのと同時に竜もどきが大きな炎を吐きました。
その炎にあわやミアが巻き込まれるかと思った瞬間、ミスティが投げ込んだ例の術具がその間で炸裂しました。
目も眩む様な眩い閃光を発しながら魔力が拡散し、それが魔力で作られた炎と相殺されていきます。
「アッチィーッ!」
流石に全てを防ぐのは無理だった様ですが、見た感じでは大きな火傷までには至っておらず、彼女の無事な姿を見ることが出来ました。
───ミスティ、良い仕事です!
辺りに髪の焦げる嫌な匂いが広がる中、声には出さず心の中で彼女を褒めつつ胸を撫で下ろしました。
「ミア姉さま、そいつ火を吐きます! 気をつけて下さい!」
「よーくわかったよ! だからそういうことは先にいえっ!」
ごもっとも。文句はアンナにお願いします。
「文句は後で聞きます! ともかくそいつの風の魔法は封じました! 今なら接近出来ます! まだ魔力は十分にあると思われますので、火に気を付けて今の内に攻撃を!」
わたしも急いで鞭を握りなおすと、目の前にある竜もどきの横腹目掛けて振り下ろそうとしたのでしたが、少し引っかかるものを感じて一旦距離を置いて確認しました。
(……アンナさま? もうわたしにいい忘れていることはないですよね?)
(ん? ……う、うむ。もう無いと思うぞ……)
(……本当ですね?)
今一不安が拭えないものの、ミアが攻撃を再開をするのに合わせてわたしも加わりました。
まだ竜もどきの魔力は十分に残っている様ですから、危ないので火の魔術も封じてしまいましょう。ミスティに渡してある術具も数に限りがあります。これでは安心して攻撃出来ません。
「ミア姉さま! わたしがこの炎を封じますので、その間、引き付けておいて下さい!」
「はやくしろよ!」
(アリシア、お願いします!)
(オッケー!)
風の魔法で竜もどきの上を横切りる様に飛び越え、その間に狙いを付けて鞭を払います。狙う場所はアンナの指示通り、背中側の中央部首の付け根。見事削り取れました。
「これで大丈夫な筈です!」
下も上も傷付けられ、竜もどきは雄叫びを上げながら暴れて出しました。しかし所詮は図体の大きなだけのトカゲです。首から上は派手に暴れていますが、本体自体の動きは緩慢。これなら巻き込まれない様多少距離を取りつつ、頭を一つ一つ丁寧に潰していけば時間の問題でしょう。さて、わたしも参戦をと考えていましたら……。
「アチィー!」
───え? まだ炎を吐けるのですか⁉︎
またもミスティに助けられて大火傷は免れましたが、また髪が焦げています。
「おい! 全然ダメじゃ無いか!」
(どうなってるのですか!)
(……あー……すまん。ワシが知っとるヤツは、頭が一つしかなかったからの……)
───勘弁して下さい!
慌てミアに謝ると、早速他の頭の首元も削ぎに掛かりました。
……大変でした……。
もちろん魔獣だって生きていますから痛いのは嫌です。
先程と同じ様に風の魔法で飛び回り、上に回って攻撃を仕掛け様としたのですが、竜もどきもそれに必死に抵抗してきて中々上手くいきません。全てを削り終えるまでには思った程に時間が掛かってしまいました。
(ミア姐さん、ショートカットも似合うね! プププ……)
それでも何とか彼女が黒焦げになって丸坊主になるまでには、全ての火の魔術を封じることが出来ました。
……お疲れ様でした……。
(しかし、それにしてもあの竜もどき、わたしよりもミア姉さまの方を狙っていた様な……)
ミアも魔力量は多い方ですが、断然わたしの方が多い筈です。ならば狙うのはわたしかと思っていたのでしたが違いました。
(やっぱり、お酒の匂いに釣られたんじゃない?)
もうこの手の魔獣を相手するのは勘弁ですが、もし次の機会が有るとするならば、お酒を大量に用意しておく必要があるかも知れませんね。
しかしこれで全ての魔術を封じることが出来ました。
……本当にもうないですよね?
ならば後はもうただの大きな魔獣。ひたすら切り刻むのみ!
爆砕は一度試みましたが、「前が見えなくなるからやめろ!」試しに頭一つに弾き飛ばしてみると、思った以上に血肉の雨が降り注ぎ、周りの被害が甚大になってしまった為に封印。大人しく地道に切り刻みます。
ようやく全ての頭と手脚を切り落とし、動かなくなったのを確認してから魔石の回収をしていると、崖の方からアラクスルと王妃や、左右から挟撃に回っていた者達の戻って来る姿が見えました。どうやら残り全ての魔獣共も討伐し終えた様です。日も暮れて来ましたが、日没迄には間に合って良かったです。
後やらなくてはいけないのは魔獣討伐後のお約束、お片付け。
魔獣の死体は放っておくと獣や魔物がついばみ、また新たな魔獣を生み出す恐れがあります。とても疲れてはいますが、これは迅速かつ適切に処理をしなければいけません。
少ない数であれば燃やしてしまうのも手ですが、これだけの数となると肉の焼ける匂いで変なモノを呼び寄せてしまう恐れもありますし、燃やし切るまでに時間も掛かります。類焼も怖いですしね。ならば土の下深く埋めるしかないのですが……。
「どなたか、この死骸を全て埋められるほどに土魔法を使える者はいませんか?」
丁度わたしが作った窪みがあります。あそこに置いて上から土を被せれば良いのですが、流石にわたしも魔力を使い過ぎています。一晩寝れば回復すると思いますが今はもう無理。当然ながら名乗りを上げる者はいませんでした。かといって人力でやるのはもっと無理。みなへとへとです。
……仕方がありませんね……。
「アラクスル、王妃さま。あの崖を崩してあそこに山を築いても構いませんか?」
地形を変えてしまうことをわたしの一存で勝手にやるのは良くありません。既にだいぶやってしまった後ですが、あの時は緊急事態。今とは状況が異なります。一応、この国の責任者の立場にある者達へ許可を取りました。
あの崖の下でしたら、丁度魔獣の死骸も集中していますし、他に散らばった死骸を集めるのもそんなに手間ではありません。後は崖を崩して蓋をすれば良いだけ。
二人ともわたしの考えていることをすぐに理解してくれ、二つ返事で了承してくれました。
「ではみなさん! 大事な後始末です! これで最後ですから頑張って下さい! あの崖の下に魔獣の死骸を集めて下さい! その際に魔石を抜き取ることを忘れずに! その魔石は崖を崩す為に使用しますので、アラクスルの所まで持って来て下さい! 褒賞はちゃんと用意しますから勝手に懐に入れない様に!」
もう崖を崩す魔力も残っていません。それにこれだけ人が集まると術具を持っている者も多いですので、妖精自体も減っていますから崖を崩すのは術具頼り。
「アラクスル、貴方が術具作成の指揮を取って下さい。作り方は教えます。難しくはありません。暗くなる前には終わらせましょう」
……ミア姉さま、その竜もどきの魔石はとても大きく、特に破壊力が高そうなので是非とも使いたいのですが……。
彼女から魔石を取り上げるのに一苦労でした。




