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其の129 魔獣討伐

(ミリーちゃん! そろそろ二人の矢が心許ないわ)

(わかりました)


「ミスティー!」


 アラクスル達の持って来た物も含め、矢は全てミスティに管理させています。


 弓を射って攻撃する者は、何も同じ場所で射続ける訳ではありません。魔獣の攻撃を避けて逃げる時もありますし攻撃し易い場所に移動もします。アラクスルの様に、時には剣に持ち替え打って出ることもありますから、大量の矢を持っての行動は出来ません。それにこの矢は特殊な術具。下手に魔力を流してしまうと暴発の恐れもあります。なので管理が必要。頃合いを見計い、身軽なミスティに文字通り飛んで射手に届けさせていました。


 視線で彼女にミアと王妃へ矢を届ける様に促したのでしたが、わたしを見ながら首を振っています。


 ……矢が尽きましたか……。


 弓矢は遠方の相手にまで攻撃が届くのは良いのですが、数に限りがあるのが難点ですね。


 仕方がありません。ならば弓は捨て、みなで接近戦で闘うしかありません。わたしも前線に復帰しましょう。彼等のお陰で体力もだいぶ回復しました。


 今度は周りに引かれない様、淑女らしく気を付けなければいけませんね。


 ……しかし……淑女らしく闘うなんて、どうやれば良いのでしょうね?


 先程みたく返り血を浴びぬ様、気を付けるのは鉄則だとしても、鞭を振るう際にも険しい顔でなく笑みを絶やさずにとかですかね? しかし返ってそれは不気味な気がします……。


 思わず高笑いしながら鞭を振るい、魔獣共を蹂躙していく自分の姿を想像して軽く震えが来ました。

 

 そんなことを考えていましたら、突然頭上を矢の雨が通り過ぎ魔術共に向かって降り注ぐと、爆音と共に魔獣共の断末魔が上がります。


 驚いて振り向くと馬に乗ったレニー、その背後には大勢の軍勢に弓を構えている者達の姿がありました。


 ───後続隊の到着です!


 助かりました。これでかなり楽になります。


 レニーはわたしの元へ来る前に、何やら周りに指示をしています。そのまま見ていると一団は三つに分かれて二つの軍勢が左右に分かれ離脱しました。恐らく崖を迂回し挟撃する為でしょう。残りの軍勢を伴いレニーがやって来ます。


「陛下、お待たせ致しました」


 すぐにも前線の交代です。


 アラクスル達を下がらせ、ミア達にも上から降りてもらう様指示します。


「……それにしても、アラクスル達もそうでしたが、よくここだとわかりましたね?」


 予測される魔獣共の進路上とはいえ、迷いなくこの場に来なければこんなに早くは来れなかったと思います。


「流石にこれだけ地形が変わっていましたから……」


 遠目でもよくわかったとのことでした。


「この様なことをなさるのは陛下位のものです。しかしこれなら討伐もだいぶ楽に済みますな」


 多少腕に難ありな者でも、一度に多勢を相手にしなければ、多少時間は掛かってもこちらの被害も最小限に済み、全滅させられるのは時間の問題だと感心しています。


「怪我はまだしも、命を落とされてしまっては元も子もありませんからね」

「仰る通りかと」

 

 軍勢を率いる軍人のレニーとわたしでは少し意味合いが違うかも知れませんが、そこに大きな乖離はありません。


 ……危なくなったら助けに行きますから頑張って下さいね!


 そのままレニーと共に戦況を伺っていました。





 

 風の魔法による連絡がし辛い地域ですから、各所との伝達は馬と人力による伝令頼み。


「ミスティ、貴女は前線に近づき過ぎない様気を付けて、上手く立ち回り各所を巡って戦況を知らせなさい」


 上がってくる報告はいずれも快勝。大きな怪我を負った者もいなさそうで、場所によっては飛翔体の魔獣には手こずっている所もある様ですが、これは予想の範疇。後続隊に持って来させた矢にはまだ余裕があります。時間が掛かってもなんとかなるでしょう。


「平民には例え一頭でも魔獣は厄介な存在です。撃ち漏らしがない様、徹底させて下さい」


 一頭残らず殲滅させなければ、魔獣共に飲まれてしまった村の生存者の確認には行けません。なんとか日が暮れる前にはと、 気もそぞろに報告を聞いていました。


「ミリねぇ、まじゅーはもうだいぶ少なくなったけど、なんか村の方からおっきいのが一匹きてる」


 大型の魔獣を見慣れているこの娘が大きいといってことからも嫌な予感がしました。続いて早馬が到着し、慌てながら報告して来たのを聞いてそれが確信に変わります。


「報告します! 魔獣の群れの中に、大型で術具の矢が通じない個体が現れたとのことです!」

「何ですって⁉︎」


 あの王都を囲う強固の魔術を施行した城壁だとしても、あの術具の矢で同じ所を何本も射れば傷位はつきます。なのに効かないとなると余程に硬いのか、それとも爆発する前に矢尻の魔力を吸収してして無効化してしまうのか……いずれにしても厄介な魔獣に変わりはありません。


 レニーと顔を見合わせ、互いに頷き合います。


「前線にいる者全てに通達! その個体には手出し無用! こちらで対処します! 中央の部隊は一旦ここまで撤退! 左右の部隊はそのまま残りの魔獣を倒すことに最善を尽くす様伝えなさい!」

「ハッ!」


 伝令はすぐ馬に乗って駆けっていったのですが、隣でレニーが渋い顔をしてこちらを見ています。


「陛下……この様な不慮の事態には、全ての兵士を一旦撤退させるのが定石では……」

「駄目です。魔獣共は一匹たりとも見逃す訳にはいきません。くどい様ですが、魔獣は平民にとっては脅威です。いくらここがルトア王国内だとはいえ、わたしにとっても大事な民。それを守る為であればわたしは尽力を惜しみません。覚えていますよね?」


 わたしがいずれこの大陸全土を治めるつもりだといったことを思い出した様で、一瞬目を見開き、本気だったのか! と驚いた様子になりましたが、すぐに諦めた表情になると、手を胸にやりその場に跪きました。


「出過ぎた発言、誠に申し訳御座いません。女王陛下の御心のままに」

「構いません」


(お主、相変わらず容赦がないのう……)

(ここにいる者はみな自らの意思でいるのですから、怪我位は自己責任です。死にさえしなければ良いのです)


「それにその魔獣もどうせここへ来るのですからね」


 そういいながら崖の谷間をジッと見つめてその魔獣の対処方法を考えていました。


 ……わたしの魔力に釣られてくるのでしたら、ここを通りますよね? なら崖の上から大人数で一斉に攻撃を……いえ、防御が堅いのであれば無駄かも知れませんね。なら……。


 いっそのこと崖を崩して足止めし、外さない様動かなくしてから同じ箇所を何度も確実に攻撃した方が良いのかも知れません。流石に状態保存の魔術より堅牢ではないでしょう。


 そうと決めればその準備。


 魔法で作った崖なのですから魔法で崩そうと思いましたら、アリシアから(今は妖精が少ないのでムリかな?)とのことで拒否されてしまいました。この場にある大量の術具の矢のせいでしょうかね?


 ならば弓で崩すか爆発物を設置するかですが、その人選はどうしましょう? どのくらいの量を用意します? 考えなければいけないことは沢山ありました。それにそもそも大型だそうですが、この崖の間を通って来てくれなくては意味がありません。通れない大きさなら、場合によってはわたしが広くなる奥まで行かなければ、左右のどちらかに迂回されてしまう恐れもあります。


「ミスティ!」


 彼女を呼んで、件の魔獣はこの細くなった崖の間を倒れる位の大きさだったのかの確認を取りました。


 少し考えた後、「ん〜せはたかいけど、たためばとおれる」とのことです。ならば問題は無さそう。後は迎え撃つ準備を……。


 ……? タタメバって、何ですか?


 再度確認を取ると「ほそくなれば」と返って来ました。


 意味不明がわかりません。


 困っていますと、アリシアが(わかった! 鳥みたいなヤツのことだ!)と。


(あの説明でよくわかりましたね)

(うん。だってまだちょっと遠いけど、アソコに飛んでるもん)

(───えっ!)


 慌てて空を見上げてみれば、そこには確かに他のモノとは比べ物にならない程に大きな魔獣の姿がありました。

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