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其の126 出陣前の準備

 そうと決めれば即行動。


「マダリン、わたしの装備をすぐに持って来なさい。シャルロッテ、馬の手配と魔獣についてわかる限り詳細な情報を。レニー、護衛の者達に集合を掛けなさい」


 そして、はしたないですがまだ試合中の壇上に向かって声を荒らげます。


「ミアーっ! いい加減遊んでいないでサッサと終わらせなさい! ミスティーっ! みんなを連れてすぐこちらへ! 疾く‼︎」


 呼んでいない者も含め、すぐに全員集まりました。







「レイは留守番ですね」


 とても悔しそうな顔をしていますが駄目です。先程の傷が思ったよりも深く、光の魔法で癒しても限界があります。これでは流石に連れて行けません。ミスティを除く他の弟妹達も同様でした。困った子達です。ミアは疲労の色が濃いまでも傷は浅く問題なさそうでしたので、疲れているからと嫌がっていますが連れて行きます。姉なのですから我慢なさい。


「それで、わたしはこれから外に出て魔獣の退治に向かうつもりなのですが……。アラクスル、貴方はそれを承知の上でここにいるのですか?」

「はい。あの鐘が鳴り、先生がご姉弟に召集を掛けたことで察しはついております。わたし目は立場的にこの国の王子ですが、まだどこの所属でも御座いません。ですが同時に先生の生徒でもあります。如何様にも御命令なさって下さい。微力ながら我が国民の為に是非共お力添えをさせて頂きたく存じます。軍部は王の命令下にありますが、わたし目の護衛をしている部隊でしたら動かすことが可能ですので、お役に立てるかと存じます」


 宜しい。見上げたものです。その心意気は買いましょう。頼もしい生徒で先生は嬉しく思いますよ。これは将来が楽しみですね。しかしその言葉とは裏腹にその暗い顔付きが気になります。


「……何か問題が御座いますか?」

「……はい。既に王都を囲う城壁には防御の魔術が発動しております。その為、すぐ外へ出ることは叶わないかと……」


 状態保存の魔術程には堅牢でなくともその守りは完璧で、一度発動してしまうと効力が切れるまで、外に繋がる扉すら開くことも出来なくなるとのことです。


「効果の時間はニ刻程になりますので、次に掛け直すその合間を狙って外へ出るのであれば可能なのですが……しかしその……それでは間に合わないかと……」


 それは困ります。悠長に待っている暇などありません。


 ならば城壁の上から? そこから降りるにしても馬も一緒となると厳しそうです。そもそも馬が登れるのか……なら徒歩で?


 さてどうしましょうと困っていましたら、アンナから(あんな簡単な術式、問題なかろう)との助言がありましたので、彼女に任せることにしました。


「問題ありません。その件についてはこちらで何とかします。貴方方もすぐに出立する準備をなさい」

「はい!」


 呆気に取られているランバリオン達を他所に、わたし達も急いで動き出しました。







 ……寄せ集めでも、これだけ揃うと壮観ですね……。


 王宮の広場に、向かう者を全て一旦集合をさせたのですが、集まったバラバラの出立ちの者達を見て、思わず嘆息してしまいました。


 アラクスルが率いる部隊はルトア王国の兵士ですし、わたしの護衛で来ている者達はラミ王国の兵士ですから共に装備が異なるのは当然なのですが、更にそれら両方の兵士を合わせた以上の様々な格好をした者達達の姿がここにあります。これはもう混合部隊といって良いでしょう。


 この者達はあの会場にいた催しの参加者達。統制が取れていないのは一抹の不安が残りますが、戦力は期待出来るでしょう。期待しますよ?


 ……自ら名乗りを上げたのですから、死なない程度に頑張って下さいね。


 あの後、急いで会場の出口に向かったのですが、そこで捕まりました。


「なあ! アンタら、あの魔獣を討ちにに行くんだろ? ならオレも連れて行ってくれ! ヤツらの進路上にはウチの村が……タダ働きでも構わないから頼むよ!」

「……ここで一旗上げねば、何のためにわざわざ王都までき来たのか……手ぶらのままじゃクニに帰ることが出来ん! 是非!」

「ミアの姉御が行くんなら、及ばずながらアッシらも力になりやすぜ! なぁ、おまえら!」

『もちろんでさぁ!』


 ……ミア姉さま、貴女この短時間で一体何をしたのですか?


 ともあれ動機はそれぞれですが、みなやる気だけは伝わりました。それに時間もないので一々相手に出来ません。なので手を挙げた者は全て使います。


「わかりました。来るのでしたら構いません。それに見合う褒賞も用意致しましょう。但し、死ぬ気でことに及ぶ必要がありますが、死んでは意味がありません。無様な死に様を見せる様なことがあった者には、死ぬよりも恐ろしい目に遭わせますよ。それを踏まえた上で参加をする者は今直ぐ王宮の広場に向かいなさい」

『ハッ!』


 いうことを聞かせる為に、少し魔力を込めて話したのが良かったのでしょうか。みな良い返事をして素直に直ぐ動いてくれました。







 今すぐにでも向かいたいのですが、その前に準備が必要です。


「整列! まず班分けをします。風の魔法が使える者は前へ!」


 風の魔法で馬を駆り先陣を切る先発隊になります。


 列から進みでた者の数が少なかったのは予想の範疇。精霊が少ないこの国のならではなので仕方がありません。しかし予想外の者が一人。


「……あ、貴女さまは、王妃さまでいらっしゃいますよね? ……宜しいのでしょうか……」

「……は、母上……」

「今のわたくしはこの国の王妃ではなく、そこのアラクスルのいち母親としてここにいます。同じこの国の民を案ずる者同士、どうぞ女王陛下様のご指揮下に入れて下さいませ」


 元ラミ王国の者だから魔法に長けているのかは知りりませんが、風の魔法も得意だし、まだまだ腕は衰えていない、昔取った杵柄だと、完全武装でとても王妃とは思えない姿で現れました。

 

 側に控える彼女の側近が恨めしそうな顔付きでわたしを見ています。


 ……申し訳ないですが諦めて下さい。この手の者がいい出したら聞かないことをわたしはよく知っています。自分もそうですからね。自覚しています……。


 結局側近から視線を逸らして了承をしましたが、彼女の参加に首を縦に振った理由はもう一つ。


「魔獣は飛翔体を含むそうです。その為、上空への攻撃が必要となりますので、弓を使える者は予め申し出て下さい。弓の用意と術具の矢をお渡します」


 術式を施した矢は、今回この国に納品する予定だった物を拝借します。これはまだ受領印を貰っていないそうですから、現在はラミ王国の物。それをわたしが使うのですから文句はいわせません。国に戻ったら各方面から苦情の山でしょうが知りません。有事の際です。超法規的処置。


 その手を挙げた者の中に、先発隊に入るアラクスルと王妃がいたことは行幸でした。一応、わたしの護衛の中に魔導隊の者がいるので、その者と弓隊を一つの馬に乗せて先発隊に組み込むことも考えていましたが、それをやらずに済みました。


 ……中途半端な者は、足を引っ張りかねませんからね。


 彼と王妃ならば大丈夫でしょう。


「馬は多めに用意しましたが、乗り切れない者は相乗りか馬車に分譲して下さい」


 後発隊はレニーに指揮を取らせます。残りの殆どの者がここに入りますので、今この場にいる者で大人数の指揮を取れる者をわたしは彼にしか心当たりがありません。護衛がどうのこうのといっていましたが、わたしの速度について来られないのであれば意味がないと突っぱねました。


 ……お養父さま、我儘な娘で申し訳御座いません。


 馬はシャルロッテに軍馬を掻き集めさせました。

 

 ランバリオンに「打って出ないのであれば今は必要ないでしょう?」と、いくばくかの金銭と脅しで王命をもぎ取り、急ぎ徴収させました。それでも全員には行き渡りません。


 ……馬と馬車はいくらあっても足りないのです。


「最後に出る部隊の者は決して無理をせぬ様!」


 負傷しているレイがどうしてもというので、同じく負傷していても参加したいという者達には、レイの指揮の元、逃げて来くるはずの民衆達の保護、回収をさせる予定です。その為にも馬車が必要になります。


 一通り準備が終わると、改めて全員を見渡し最後の指示をします。


「さてみなさん。時間がありません。すぐにも出発します。日が暮れてしまうとこちらが不利になりますし、遅れれば救える命も取りこぼしてしまうかも知れません。迅速に行動する様に。それと、目的は魔獣の駆除ですがあくまで人命優先。そこは履き違えない様留意して下さい。宜しいですね?」

『オー!』

「では出陣します!」


 アラクスルの案内の元、急ぎ王都内を馬で駆け抜けました。

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