其の125 トーナメント戦 後編
わたしも人のことをいえません。身内が出るものだからとつい頭に血が上っていました。
……気をつけましょう……。
マダリンに嗜められましたので、今後賭け金は控え目にします。
……ランバリオン陛下は、先程から幾らお賭けになっているのですかね?
「あ! 次はレイですよ!」
相手は見るからに正統派の兵士でした。結果は残念ながら結構粘ったものの負けてしまいます。
……良い勝負をしていましたよ。
見た感じかなり負傷していますが、すぐに治療が必要な程ではなさそうなので安堵しました。
続くアラクスルの試合でしたが、相手は腕に覚えのある市井の者。結果勝ちはしましたが辛勝でした。まだまだ鍛え方が足りませんね。チラリとランバリオンを見ると、拳を握って静かに喜んでいます。
……賭けに勝ってなのか息子だからなのか、どちらでしょうね?
父親として後者であることを願います。
これで本線出場選手が一巡しましたので、次は更に勝ち残った者同士の対決となるのですが……。
……本当にちゃんとクジで決めているのですかね?
対戦表を見て、思わずランバリオンを睨んでしまいました。どう考えても作為的なものを感じるからです。何せメイとベルトが対決するのですから。
互いによく知る者同士。得手も不得手も知り尽くしています。その結果、一日の長であるメイが辛くも勝利。ただ互いに大きな負傷をしてしまい、次の試合は辞退になりました。
……全ての試合が終わったら治してあげますから、そのまま大人しくしていなさい。
多少出来る様になったとはいえ、二人ともまだまだ子供です。これで後のことを考えて闘うことの重要性を思い知ったことでしょう。反省を促す意味も込め暫くの間放置です。
その後も試合は続き、アラクスルはレイを破った兵士に相手に敗退。最終的にはその者とミアの闘いになりました。
「それにしてもあの方は、ここまで危なげなく勝利した所を見るに、さぞかし名のある兵士なのでしょうね?」
「うむ。彼は第一近衛師団の団長でな、アレを負かせる者はこの国にはおらんだろう」
この国に於ける最強の戦士とのことです。ランバリオンの鼻が伸びています。
思わず同じ近衛職にあるレニーに期待を込めた目付きで見上げてみれば「とてもじゃありません」と首を振られてしまいました。
……結構良い勝負をすると思うのですけれどもね。
流石に歳には勝てないということでしょうか。
この試合の下馬評はやや団長寄り。残す所最後の試合ということで客席の盛り上がりも最高調。当然わたしはミアに賭けています。もちろん控え目ですけれどもね。
決勝は混戦を極めました。
魔法も使い何でもありの闘いでしたらミア程の強者をわたしは知りません。勝つことに対する執念は我が姉弟随一。わたしじゃ相手になりません。むしろしつこいので相手にしたくありません。しかしその闘い方はほぼ我流。所詮剣術も田舎剣法。正規に習った正統派の者を相手にするのは苦手とします。
強引な力任せと速さで打ち込む彼女に対し、団長は盾を持たずに剣一本で相対していますが、上手くそれを捌き彼女に決定打を許しません。それどころか返す剣で打ち込み、攻防一体の見事な闘い方です。
力のミアに対して技の団長。なかなか決着がつきません。この試合に時間制限はありませんので、幾ら体力がある二人でも徐々に疲弊していき刀傷も多くなっています。
そんな手に汗握る試合中に突然「カーン! カーン!」と鐘の音が響き渡りました。音の出所は会場内ではなく外からです。
一瞬場内がさわつきましたが、一部の者を残し殆どの者が試合に意識を戻して平然としています。ですがわたしはその一部でした。
「マダリン。何があったか早急に確認を」
「はい」
側に控えるランバリオンの側近に尋ねなかったのは、鐘の音と共に彼の姿がなくなっていたからです。
訝しがっていると、隣に座るランバリオンが試合から目を離さず笑いながら話し掛けてきました。
「そう警戒せんでも良かろう。先程のは王都外で魔獣が出たとの知らせになるが、この王都の守りは堅牢そのもの。安心してこのまま試合をご覧んになっていればよろしい」
───魔獣⁉︎
そんなことをいわれて落ち着いていられる訳がありません。
わたしが驚いていると、すぐにもマダリンがシャルロッテを伴い戻って来ました。
「陛下、彼女の話しによると、王都の西側から魔獣の群れが発生し、徐々にこちらへ向けて進行中とのことですが、ここに居れば安全とのことです」
ランバリオンも近くにいるからか、シャルロッテが隣で緊張しながら頷いています。
「王都内が安全なのは良いのですが……魔獣の進行途中に村や街はないのですか? 大丈夫なのでしょうか?」
「……それが……幾つか御座います……」
シャルロッテが顔を伏せ、絞り出す様な声で答えました。
既に巡回中の兵士達が対応に向かっているとのことですが、おそらく住民の避難は間に合わず、状況的にその住民たちは見捨てて、ここ王都で待ち構えて退治をするのだそうです。
「───何故すぐに向かわないのですか!」
ルトア王国にはこんなにも兵士が溢れているのに、対応が受け手に回るだけとは信じられません。
その言葉はランバリオンと、戻って来た彼の側近に対してでの言葉でもありました。
「……先程の鐘の音は、外敵襲来を知らせると共に、城壁の強固化魔術発動を知らせる合図でもあります」
わたしの大声に驚いて、ランバリオンの側近が説明してくれました。
現状ルトア王国軍の殆どがここ王都に集まっていることもあり、打って出るには戦況的に宜しくなく、ここで迎え撃つのが得策なのだということです。
「城壁は、現在魔術部隊が魔力を込め強固の魔法を発動させており、内外からの侵入は一切出来なくなっております。またその城壁の上には砲兵隊及び弓隊などが配置を進めており迎撃体制に入っておりますのでご安心下さい」
むしろ今外に出ている部隊は、魔獣を殲滅させるのが目的ではなく、迎撃しやすい様にここへ誘導させるのを目的としている様です。
「そ、それでは魔獣の進路上に住う者達は……」
その言葉にすぐ答えてくれる者はいませんでした。
その沈黙を破ったのはランバリオン。重々しく口を開きます。
「……ワレには多くの王国民を守る義務があるのだ……」
彼は、時には小を捨てて大を就くことを断腸な思いで決断せねばならぬのだと、顔色を変えることなくいってのけました。
それを聞き、腹積りが出来ました。
「……成程。それがこの国、ルトア王国の君主の考え方という訳ですね……」
……果たして、わたしは今、君主らしく冷静な顔で彼を見ていることが出来ているのでしょうか?
頭の中が騒がしく、周りの様子が少々おかしいので多分駄目なのでしょう。仕方がありません。
「わかりました。では、わたしは勝手にやらせて頂きます」
すぐに席を立つと、わたしの周りの者は諦めた顔付きでため息を吐くだけでしたが、ランバリオンとその側近は慌てた様子で騒ぎ始めました。
「な、何も女王陛下のお手を煩わせることなどは……」
「ここは我が国の兵士の優秀さを……」
「黙りなさい! ここは貴方の国ですから貴方のやり方に口は出しません。同じ君主として一殺多生の考え方も理解は出来ます。ただ、わたしはわたしの手が届いて救える命があるのならばそれを全力で拾い上げます。黙って見過ごすことは出来ません。我儘なことは十分承知。これがわたしなのです」
……大事なわたしの国民「予定」の者達ですからね。無駄にはしませんよ!




