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其の122 トーナメント戦 前編

 ミアが参加しているのはその性格的にもわかります。問題ありません。良い大人ですから何があっても自己責任。知ったこっちゃない。好きにして下さい。ここで良い所を見せて、そのままこの国に骨を埋めるのも良いかも知れませんね。その方が彼女のためになるかも知れません。しかし弟妹達は別です。

 

 いくらこの催しが年齢性別国籍を問わずとはいえあの子達はまだ子供。参加者の殆どがこの国の兵士ばかり。大人が相手です。今はわたしの責任下の元にあるのですから何かあったら大問題。母からのお叱りが……。


 ……道理でみんな、朝から姿が見えないと思っていましたよ……。


 わたしに話すと止められると思ったから黙っていたのでしょう。


 かなり驚きましたが、冷静を装いつつミアを睨み付けるも目を逸らすどころか笑い返して来ました。


 ……貴女が一緒にいながら……。


 仮に貴女も姉ならば、一緒になって面白がって参加するのではなく止めて欲しかったです。


 しかしよく見れば二人程足りません。会場に現れた弟妹達は全てではありませんでした。

 年長のメイ、ベルト、最年少のミスティの三名のみで、間二人のミンダとビックスの姿がありません。こういったことは常に五人で行動するあの子達です。ならば恐らくその二人は予選落ちしたのでしょう。


 ……情け無い……これは鍛え直さねばなりませんね。


 黙って勝手に参加したことも問題ですが、それよりも勝ち残れなかった方が問題です。それに気付くと既にあの子達の身の安全を危惧することよりも、わたしの教育が足りなかったのだと自戒しきりでした。







 わたしの葛藤は他所に催しは進行して行きます。


 壇上には決勝に残った全ての者が揃いましたので、開始前にまずランバリオンの挨拶があるのですが、そこに並ぶ者達を見て彼が一瞬驚いていました。しかしそこは仮にも人の上に立つ者。すぐに平然とした顔で動揺を見せることなく朗々と彼等を讃えると、そのままわたしと共に席へ戻ったのですが、その際の彼の顔付きは明らかに動揺していました。

 

 席に着くや、わたしに聞こえるか聞こえない位の声で独りごちるようにポツリ。


「……不甲斐ない……」


 ……それには全く同意です……。


 彼の吐くため息と共にわたしも思わず声が漏れてしまいました。


「……これには色々と考えさせられます……」

「……致し方なし……」


 互いに鎮痛な面持ちで深いため息を吐いていると、「……陛下、僭越ながら……」マダリンがそっと耳打ちして来たのですが、それを聞き、思わず彼と顔を見合わせてしまいました。見れば彼と彼の側に控えている側近までもが一緒に気まずそうな顔になっています。


「……ランバリオン陛下……わたしは本線に勝ち残れなかったであろう弟妹達のことをですね……」

「……ワレはウチの兵士共のことをだな……」


 互いに違うことを考えていた様です。


 互いの側近が助言をしてくれていなかったら、このまま勘違いしておかしな雰囲気のままでいた所でした。


 ……危ない危ない……。


 ランバリオンは、事前にあの子達の話しは聞いていた為、懐疑的ではあったもののあの子達が本線に残っていたこと自体には納得というよりも諦めのだったそうで、問題は予想以上に兵士以外の者達が勝ち残っていたことに不満だったそうです。


「市井の者達の中にワレの知らぬ腕の立つ者がいたこと自体は、この国を治める者としては喜ばしいことなのだが……我が国の兵士であるのにも関わらず遅れを取った者が多くいたことが情け無い……」


 とのことでした。


 頭の中でアリシアが(え? 冒険者? 武道家? やっぱいるじゃん!)と騒いでいますが無視です。もうそろそろ諦めて下さい。


「こちらが簡単になりますが、予選の様子を書き留めたものになります」


 彼の側近が用意していた紙をマダリンが受け取り、それを渡してもらいました。


 それによると、兵士達は各団内で予め選抜が行われており、各団の二、三名が代表となっているのが見て取れます。また平民やわたしの姉弟などといった外部からの参加者の名前や、各勝負事の結果が書かれていました。


「これによると、ミンダとビックスはくじ運が悪かったといえますね」


 予選は総当たりで負けた者からどんどんと敗退して行くのですが、ビックスは二回戦で、ミンダは四回戦目でミアと当たっています。これは流石に無理でしょう。あの子達が少し可哀想な気がて来ました。


 ……特にあの二人はミア姉さまから教えを受けていましたからね。


 気になっていたミスティはと見ると、初めの何回戦かは市井の腕に覚える者達を相手に闘った様ですが、子供だからと侮られたのか、何も危なげなく勝利しています。その後は彼女のことを知っているであろう兵士達を相手にしていた様ですが、こちらも問題なく勝利しています。これは魔法を上手く使って逃げ延びた結果なのでしょうか?


 ミスティは幼いながらも風の魔法を得意にしており、その機動力は大したものです。しかし攻撃力に関しては他の弟妹達に今一歩及びません。その為熟練の兵士相手では厳しい結果になるかと思うのですが、結果は勝利しています。それ自体は喜ばしいことなのですが、残念ながら気になっていた点のどの様な闘いだったのかまでは書いてありませんでした。


 ……まあ、どの様に戦うのか楽しみに待っていましょう。


 





「御前試合となるこの本戦も、形式は予選と同じになりますが、ここで目立った成績を残した者には褒賞が授けられます」


 それが金銭だったり爵位だったりと希望によって変わるそうですが、そのことも含め、その後に続く側近の説明には色々と引っ掛かりました。


「魔法や術具の使用は禁止なのですか?」

「はい。あくまでもその者の練度を競うものになりますため、硬度化などの術式を施した武器・武具等の使用は許可しておりますが、広範囲に影響を及ぼす殺傷能力の高いものは禁止しております。殺し合いではありませんからね」


 それだけでも大変危ない試合だとは思いましたが、それなのにミアはともかく、ミスティがよく残ったものだと感心しました。


 ……流石わたしの妹です。


 手塩に掛けて教育した成果が出ていますと鼻が高くなりましたが、もう一つ気になることがあり手放しには喜べませんでした。


 ……ミア姉さまはともかくとしても、弟妹達は駄目ですよ。


 しかしよく考えて見ると、ミアに釣り合いそうな年齢の王族といえば……アラクスルのことを義兄を呼ぶわたしを想像してしまいゾッとしました。


 流石にそれは勘弁して欲しく思いますので、ここは俄然レイとアラクスルの応援に力が入ります。彼女の優勝だけは阻止して下さい。もちろん弟妹達が優勝するのなら大歓迎。


 ……ですが、例えここで良い成績を残したとしても、あの子達にはお菓子でも与えておけば良いでしょう。それで十分。結婚やら婚約だなんて早過ぎます。わたしがまだなのに許せません!

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