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其の121 演習の締めに

 大物術具による演習の視察が終えましたので、次はいよいよ君主同士の会談に移る筈ですから、気を引き締めると共に持参した無線機の術具をどこに運んでもらおうと考えていたのでしたが……。


「さて、最後に女王陛下には自慢の兵士共の勇姿を見て頂きますかな」


 視察はまだ終わっていませんでした。






「先程行われていました模擬戦は各団毎に分かれての集団戦になりましたが、これから行われますのは、各団から選りすぐりの者が選出され、その者達による勝ち抜き戦になります」


 これは不定期ながらも歴史のある催しなのだそうで、こういった各団が集まる機会にはよく開催されるのだそうです。今朝も早くから予選が行われていたらしく、残すは最後の本選。


「むろん、これにはワレも参加しておった」


 ランバリオンもかつて若い頃はこの催しで活躍し、その名を轟かせていたのだそうで、そのお陰で今の地位があるのだと誇らしげにいっています。


「必ずしも優勝をしなくてはならないことはないが、この場で己の力を見せつけれねば、周りからの指示も信頼も得られん」


 とのことで、次代の君主候補であるその息子アラクスルも当然参加している様子です。

 

 なんとも完全実力主義のルトア王国らしい催しです。


 ……大変でしょうが頑張って下さいね。応援だけはしてあげます。








(おー! トーナメント大会だー! 燃える展開だね〜!)


 頭の中でアリシアが、一人妙に盛り上がっています。


(い〜なぁ〜アタシも出たかったな〜。ねー、ミリーは出ないの?)

(何を仰います。出る訳ないじゃないですか。そもそもわたしはルトア王国の者ではないのですからね)


 馬鹿なことをいわないで下さい。などといいましたが、側近からの説明を聞いていると、どうも年齢性別国籍に関係なく広く門戸が開かれているとのことで、他国民でも参加することが出来るのだそうです。


「ウチは、強き者であれば出自は問わず歓迎するぞ!」


 ランバリオンが会場を見詰めながら懐かしそうにしています。


「王妃と出会ったのもここでな……」


 人の、それも知り合いの親の恋愛話しなぞ聞きたくもありませんが、これも仕事と割り切って、笑顔を作り黙って聞いていたのですが、残念ながらそのまま大人しく笑顔を維持することは叶いませんでした。


「彼女は中々強くてな……」


 ……え?

 

 この催しで彼女と出会ったのは会場内ではなく、ランバリオンとの対戦相手としてなのだそうです。更に彼女はそのまま彼を倒すと、最終的には好成績を残し、その褒美として王族入りを果たしたのだそうでした。


「え? え? ……ではその……王妃と仰ると……あの、アラクスル殿下のお母上ですか?」

「そうじゃぞ。彼女は元々ラミ王国の出身でな……」


 元ラミ王国貴族の令嬢で、その家柄は武を重んじていた家系だったらしく、彼女は強者を求めるあまりその勢いでこの国までやって来きてこの催しに参加したのだそうです。


 わたしは自分が不勉強なのは知っていますが、一切興味がないので知ろうともしませんでしたが、このルトア王国で行われるこの催しは、その手の者達の間では他国の者でも知っている有名なものなのだそうです。


 ……しかし、何処かで聞いたことがある様な方ですね。我が国では時折りその様な破綻者が現れるのでしょうか?


 しかしそうなると、ルトア王国の王族と縁戚関係にある貴族家がラミ王国にいるということになりますが、それ自体は同盟国同士ですから血縁を築くのはよくある話しですので驚きはしません。驚いたのはその経緯です。


 ですが一番の問題は、その件を知らずにわたしがここにいるということです。彼女とのお茶会の前に知れたことは幸でしたが、しかしそういったことは事前に教えて貰えませんと困ります。外交の場で恥をかくのはわたしなのですからね。これは戻ったらエルハルトを詰問しなければいけない事案です。決してわたしの不勉強なだけではありません。習ったのかも知れませんが覚えていないのは彼の責任です。そういうことにしておきます。


 さてどうやって彼を責めるか考えていましたら、マダリンがそっと近寄って来て耳打ちをして来ました。


「……かの家はシャルロッテの実家です……彼女から聞いていらっしゃいませんでしたか?……」


 確かに当人から聞いてはいませんでしたが、それを聞いて腑に落ちるというか納得は出来ました。


 ……もしや、あの寮には彼女と似た様な者が他にも沢山いるのでは……。


 これは改めて一人一人確かめる必要性を切に感じました。


 国へ戻ったら忙しそうです。しかしそんな暇ありません。ならば誰かに任せて仕舞えば良いのですが、どなたが適格でしょうね?


 誰が良いか色々と考えていましたが、周りが騒がしくなって来ましたので、一先ずこの件は頭の片隅に留めておくことだけにして、他人のどつきあいなぞは見たくもありませんがこれも仕事と割り切って会場に集中することにしました。








「女王陛下。これから会場に上がる者達は過酷な予選を勝ち抜いて来た者達になります。宜しければ本選の開始前に陛下と共に彼等にお姿をお見せ頂き、お手などをお振り頂いて彼等を褒して頂けませんでしょうか?」


 既にその件については側近とマダリンとの間で話しが済んでいる様で、彼女が軽く頷きましたのでそれに従います。


「構いません」


 ランバリオンと共に席を立つと前に進み出ます。


 眼下に見える会場には、本戦へと勝ち進んだ者達が順に上がって来たのですが、みなまちまちの格好をしています。恐らく異なる団なのでしょうが、中には兵士らしき者でもない者もいます。

 暫くすると栗色の巻毛をしている者の姿が見えました。だいぶ苦戦していた様で豪華そうな衣服が傷だらけです。しかし表情は済ました顔で何でもない風を装っていました。


 ……アラクスル、本戦に残れて良かったですね。で、レイはいるのでしょうか……。


 今日は演習の視察でしたから朝からレニーを護衛に付ける予定でしたので、「では、彼等の訓練に参加してもよろしいでしょうか?」とのレイの要望を聞き入れ好きにさせていました。わたしはこの催し自体を知りませんでしたので、彼女が参加するとは聞いていませんでしたが、彼女のことならば必ずこの催しを聞き付け参加していることでしょう。果たして本戦に残っているのか……。


 ……あっ! いました!


 予想通り参加していました。わたしのことに気がつくと誇らしげに目礼をしながら上がって来ます。


 ここから見た感じでは特に目立った怪我もなさそうです。元気そうな彼女の姿を見れて思わず笑みが溢れて来ました。


 ……どちらも応援しますからね!


 ともあれ目的の二人の無事な姿を確認出来てホッとしました。


 これで後は全員が揃うのをこのまま待ち、ランバリオンの開催の宣言が終わるまで一緒に並んで立っていれば良いだけなのですが、続く現れた者達の姿を見て、思わず杖を持つ手に力が入りました。


 ───ミア姉さまはまだしも、なんでお前達までいるのですかーっ!

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