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其の120 兵器の術具

「続きましては、砲兵隊になります」


(え? この世界に大砲があったの?)

(タイホウ? ……とは何ですか?)

(金属の球を火薬で打ち出す武器よ。火薬があったなんて知らなかった。……硫黄も硝石らしき物も見つからなかったのに……)


 アリシアが驚いているのを他所に大人しく見ていると、大きな黒い筒を載せた荷台が出て来ました。


 今回は飛来物に対しての注意事項はありません。しかし「狙う的はあちらに見える建物になります」とのことでしたが、わたしには遠過ぎる為、当たったかどうかの判断が難しそうです。アリシア達にお願いしましょう。


 今度はその術具に対して屈強そうな四人の男が控えています。


「放てー!」


 掛け声と共にポンと軽い音を立て黒い塊がものすごい速さで飛び出すと、大きな音を立てて建物が崩れていきます。


(ん? あれ? 火薬じゃないの?)

(どの様な構造になっているのでしょうね?)


 どうもアリシアの知っている物とは少し様子が異なる様です。

 レニーにこっそり聞いた所、筒の下部に術具が仕込んであり、魔力でもって鉄の球を打ち出しているとのことでした。


「……それでもしやアレも、我が国産ですか……」

「……はい……」


 あんな術具ならば目立ちますからわたしでも知っていそうなものでしたが、見たことも聞いたこともありませんでした。確か砲兵隊自体もラミ王国には存在していなかった筈です。

 不思議そうな顔をしていると「……我が国では必要がないですからです……」とのことでした。


 その威力を見ての通り、主に攻城戦などに用いる兵器なのだそうですが、それと同じことをするには魔法でことが足りるし、何よりあの術具はその扱いが大変なのだそうです。


「……魔力を大幅に使用する上、持ち運びに難がありまして……」


 撃ち終わった砲の場所を見てみると、二人程魔力切れの為か膝をついています。残りの二人で砲を押して片付けていたのですが、あんなに力がありそうな彼等でも大変そうでした。


 ……鉄の塊ですからね。確かにアレは我が国には向きません。


 もしウチの兵士達が運用するのならば、あの倍以上の人数が必要となることでしょう。


 






「如何でしたかな? 貴女にとっては用いている術具自体は珍しくはなかったと思いますが、我が国の兵士達の練度は中々のものでしょう」

「ええ。とても素晴らしかったです。頼もしい限りですね」

 

 その後も弩弓やら炎筒やらと色々と見せられましたが、何も術具と力技で魔法による大規模攻撃に対抗する手段でした。


 ……しかし、その全ての術具がラミ王国産とは驚きましたね。


 ルトア王国はうちのお得意様というか、兵器の術具は現在この国にしか下ろしていません。同盟国ですから当然です。しかし最近ではそれも変わりつつあります。昨今の情勢を鑑みて、他国からの引き合いがよく来ているのだとマダリンがこっそり教えてくれました。


 ……どうするかは現在検討中とのことですが、いずれはそんなこと考える必要なんてなくなるとは思いますけれどね。


 しかしそれもあって、わたしに対して如何に有効的に活用しているのかとの主張と、自国の兵士達の優秀さを誇示するのを兼ねた演習だったのでしょう。


 ……彼も色々と大変ですね……。


 豪快そうに見えて、実は案外と繊細で思慮深い者であったのだと認識を改めた次第です。


 その後も続く彼の長々とした自慢話を聞き流しながら視線を泳がせていると、マダリンとランバリオンの側近達が共に、近くに置かれている術具の兵器を見ながら何かを話し合い、互いに書類の束を渡し合っている姿が見えました。


 程なくしてマダリンがわたしの側に戻って来ましたので、そっと尋ねます。


「何をなさっていたのですか?」

「はい。彼らから受け取った物は、あれら術具の兵士達による所感や要望書になります」


 代わりに渡した物は、今度うちで新たに作られる新型の兵器の術具の案内書になるそうです。


 ……成程。流石ですね。しっかりしています。


 わたしの外交に合わせて他の仕事もこなしていました。


 ……これはわたしも見習って、例の通信機の術具の売り込みをしっかりとやらなければいけませんね。

 

 そう決意をすると共に、この国が何故ここまで術具の兵器に固執するのか気になりましたが、魔法が使える者が少ないのだからだということを思い出し、ならば何故? と更に疑問を感じたのですが、理由はわからずとも原因はすぐに思いつきました。


 ……この国には、妖精が少ない所為ですね。


 わたしの中にアンナが入って来た時から、彼女を敬うばかりにわたしには全く妖精が寄り付かなくなってしまい、結果として魔法が使えなくなりましたが、アリシアが入って来た途端、それまでとは真逆に、今では煩わしい程妖精達に纏わり付かれていました。


 よくよく思い出してみれば、それがルトア王国に入った途端、なくなっていたのです。


 ……それもあって、道中が快適だったのもあるのでしょうね……しかし何故?


 疑問に思ったことはそれを知っていそうな者に聞けば良いのです。折角丁度都合の良い者がここにいるのですからね。それ位しか役に立たないともいえますが。


(アンナさま、何故でしょう?)

(そりゃ決まっとる。これだけ魔術に溢れとる土地なんじゃからな。妖精共が嫌がるのも当然じゃろう)


 魔法も魔術も本質的には変わりません。

 

 そこに介在するモノが妖精か術式かの違いでしかなく、結局は魔力を用いて、こことは異なる位相から力を行使するものです。


(妖精共にとって魔術は……そうじゃな。ほれ、想像してみろ。もしも人の魔獣がおったとして、それが目の前に現れたら、お主どうする?)


 そんなモノは見たことも聞いたこともありませんが、もしそんなモノと遭遇でもしたら、元が獣の魔獣と違って人なのですから対処するのに躊躇してしまうことでしょう。


(そんな気味の悪いモノに出会ったら、一目散に逃げ出しますよ)

(それと一緒じゃよ)


 妖精達にとって、術式は同じ位相に存在する異質なモノとして感じる様です。


 ……妖精たちは自然現象から生み出されたモノですから、人が作り出した術式には違和感があるのでしょうかね。


 そんな繊細で臆病な軟弱者の妖精達の心の内までは分かりませんが、それならばそれで更に疑問が湧いてきます。

 

(なら、何故術具溢れるラミ王国には、妖精達が溢れているのでしょうね?)

(むろんそんなのは決まっておろう。ワシのお陰じゃ!)


 自分のの魔力に溢れているラミ王国だからこそ、妖精達も安心して、術式に厭うことなくいられるのだと自慢そうにしています。


 ……だとすると、この国もいずれは妖精達で溢れかえるのでしょうかね?


 それを聞いて考えていたことは、結果としてそれが良いことになるのか悪いことになるのかは別としても、ならばそうとなる前に、出来るだけ早く多くの無線機の術具をこの国に売り付けなければということだけでした。

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