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其の118 後処理

 頭の中から彼女達の笑い声が聞こえて来ます。


 ……後で覚えていらっしゃいな……。


 目の前では、口には出さないまでも是非ともわたしと一戦交えたいと、ランバリオンの目が輝いていました。


 ……勘弁して下さい……。


 彼は実力主義のこの国の君主です。仮にも同盟国の君主たるわたしの力を見定めることは重要なことなのかも知れませんが、恐らくただの自己欲求でしょう。そんなのには付き合いたくありません。

 わたしは何も闘いを求めてここへ来たのではないのです。あくまで平和理にことを進める為に外交来たのですからね。


「ホホホ……ご冗談はそれ位にしておいて下さいな。なにぶんわたしは不自由な身ですからね」


 ご期待には添えられません。嫌です。無理です。申し訳ないですが、その矛先は他の者達に変えさせてもらいましょう。


「それよりもこの者達の実力はわたしが保証致しますよ。我が国でも指折りの者に違いありません。後日、ルトア王国の兵士方の訓練を見させてもらう時に一緒にお見せ致します」


 荒事は得意な者に任せます。


 ……あまりこの手の話しは膨らまさないで欲しく思います。ほら、折角大人しくしているミア姉さまの目が爛々輝き始めました……。


 これ以上は勘弁です。この話しはもう終了したいのだと彼の隣に座る王妃に目配せすると、彼女はすぐにその意図を察してくれた様で、ニコリと笑いながらランバリオンに話し掛けました。


「そうですよ陛下、今はお食事中です。おかしなことばかり仰らないで下さい。お酒が過ぎていますよ」


 彼を嗜めてもらい話題を変えてもらいます。


「それよりも女王陛下。わたくし、アラクスルの学園でのお話しを聞きたく存じますの。確か陛下はこの子の教師も成されていたとか?」

「はい。短い期間でしたが、魔工学の講義で教鞭を取らせて頂いた際に、アラクスル王子も教えさせて頂いております。一応、互いに未だ席は残っておりますので、今でも教師生徒なのですよ? ……そうですね、彼は中々優秀な生徒でした。少々陽気過ぎる所が玉に瑕でしたが。フフフ……」

「まぁそうなのですか⁉︎ この子ったら自分のことはあまり話さないもので……宜しければその辺りのことをもう少し色々と教えて頂けませんか?」


 ……あら、アラクスル。冷静を保ちつつも眼が泳いでますね……。


 流石に実の母親の前では色々と恥ずかしいのでしょう。大丈夫。弄るのはこれ位で勘弁してあげます。


「流石にそれはご本人を目の前にしては憚られますよ。そうですね、続きは後日お茶の席ででも如何でしょうか?」

「是非そう致しましょう! 殿方がいない所でないと、女同士でしか話せないことも色々と御座いますからね」


 結局、他の夫人達や娘達も交えてのお茶会の約束を決め、ランバリオンとは君主同士の会談や、兵士達の訓練の視察についてどの様にするかを話し合い、晩餐会を無事終えました。


 ……これは思った以上に忙しくなりそうですね。







「陛下、お話しが御座います」


 食事を終えて部屋に戻った途端、マダリンが語気を強めに睨んできました。


 状況から察するに、先程の晩餐会のことだと思いますが今は少し魔が悪いです。恐らく彼女は二人っきりなっているのだと思っているのでしょうが違います。


「申し訳御座いません、マダリン。お話しの前に少々手を貸して頂けますか?」


 不思議そうにしながらも素直にいうことを聞いてくれ、杖を持ったままのわたしを抱き上げます。


「こ、これで宜しいのですか?」

「はい。もう少し上までお願い致します」


 そして徐に天井へ向けて杖を一突き。


「ダン!」

 

 鈍い音が響きました。


 ……思ったよりも薄い天井ですね。


 穴が開かなくて良かったです。


「そこにいらっしゃる貴方、聞こえていますか? この様なことは不要だと申し伝えている筈です。即刻そこから退きなさい。さもなくばわたしもそれ相応の対応をとりますよ」

 

 暫くそのまま待つと、人の気配が遠のくのが確認出来ましたので、目を丸くして黙っったままのマダリンに「もう結構です」降ろしてもらいました。


「……陛下……また何者かがいたのでしょうか……」

「そうですね、例の護衛でしょう。そこと、あちらの端に二人程いた様ですが今はもういません。もうこの場はわたし達二人だけです。どうぞ、お話しなさって下さい……」

「……コホン。……そうですか、わかりました。では……」


 案の定お説教が始まりました。


 ……こんなみっともないのは、誰であっても聞かれたくないですからね……。






 

「あの様な取り決めは、殿下達だけで勝手になさらないで下さい!」

「……申し訳御座いません……」

「良いですか? 陛下達程の身分の者がひとたび動かれると、必然的にそこには幾人もの人が動くことになります。それは十や二十ではありません。桁が違います。しいては国民全体に影響が及ぶのです。それを穏便に調整する為にわたくし達がいるのですからね」

「……はい……」

「あの場合は、必ず互いに控えている者に話しを託す様になさって下さい。そうすれば互いの君主の意向を汲み取り、その場でなく後程調整を致します」


 思い起こせばわたし達が食事中、話しが進むにつれてランバリオンの背後に控えていた年配の男性が、どんどんと険しい顔になっていました。恐らく彼がわたしにとってのマダリンに当たる方なのでしょう。


 ……彼にもご迷惑をお掛け致しました。後日、マダリンを通して何かお詫びの品を届けさせましょう。


 その時は同じ様にマダリンもわたしの背後に控えていて、時折彼女から注がれている視線の圧を感じましたが、それは敢えて無視していました。


 ……お酒のせいで気が大きくなっていたのでしょうかね。


 彼女の性格は、父である宰相のエルハルトに良く似ていて、細かい所まで良く気がつくというよりも神経質で生真面目です。そのお陰で助かっていることが多いのですが、折角彼が居ないというのに気が休まりません。


 しかしお説ごもっとも。反論は出来ません。急造君主でその常識をよく知らず、らしくないわたしのことを思って忠告してくれているのです。ここは有り難く拝聴致します。


「……陛下が思われている以上に、貴女様の発言は重く影響力が強いのです。そのことは努々お忘れなきようお願いしたく存じます」

「肝に銘じます」


 その後は、ここぞとばかりに君主たらんとする心構えから普段の生活態度に至るまでお説教は多岐に渡り、結局就寝するまで続きました。


 ……こんなことなら魔獣を相手している方がまだマシです……。

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