其の114 外交に向けて
周りから散々お叱りと文句とはいわれましたが、決まって仕舞えば後のことは早く進みます。
ルトア王国までの行程は基本的に陸路になりますが、古くから交流のある国になりますのでそこに至る街道は整備されており不便はありません。道中の治安も良いらしく、うちのリモ領へと続く道とは段違い。如何に彼の国が重要視されているかがわかります。
今回はいきなり決めた訪問でした。なので大人数で押し掛けるのも悪いと思いますので同行する者は絞ります。
「兵士達の訓練がありますから、レニーと……」
「あたしは行くよ! あそこの国は強い奴が多いんだろ?」
当然ながら置いていく気だったミアがいきなり主張してきたので驚きました。
彼女には母と共に引き続き兵士達の訓練をしてもらいたかったのですが行く気満々です。同行せずとも勝手に行ってしまいそうな勢いです。
同行することが決定しているルトア王国出身のシャルロッテがそれを聞いて「そうですよ!」力強く頷いているのを横目にアンナに尋ねました。
(本当でしょうか?)
(そんなことはないぞ。ただ暑苦しい奴らが多いだけだ)
多少、認識に齟齬があるみたいです。
しかしそんなことを彼女にいっても無駄でしょう。既に未だ見ない強敵に目を輝かせています。
その様子を見ながら困っていましたら、母が「こっちは今の所、あたし一人でも大丈夫」といいましたので、渋々同行を許可しました。ですが一応は釘を刺しておきます。
「連れて行くのは構いませんが、わたしの護衛としてです。姉として、ラミ王国民としても恥ずかしくない行動を常に心掛けて下さい。遊びに行くのではないのですからね?」
「わかってるよ!」
ミアが行くといい出したら、それを聞き、それまで大人しくしていた弟妹達の目が輝いてしまいました。
……うっ……視線が……。
「……お前達も……行きたいのですか?」
『うん!』
考えて見ればこの子達を本格運用させるまでにはまだ一月程あります。今は暇。ならば今の内にご褒美の先払いも兼ねて連れていってあげるのも悪くありません。福利厚生の一環です。
……しかしそうですね、名目はどうしましょう……。
「お前達もわたしの護衛ということでしたら、連れて行ってあげなくもありません。いいですか? 仕事ですからね!」
『はい!』
後はレイは当然として、マダリンを同行させます。
「父に変わりまして交渉ごとはお任せ下さい。それと陛下の身の回りも」
流石に宰相であるエルハルトは城を何日も空けられません。わたしの代わりに執務を行なってもらうこともありますからね。
これで全員。
護衛ばかりの様な気もしますが気にしません。これくらいの人数であれば有事の際にも身動きも取りやすくて良いと思ったのでしたが、「……陛下、さすがにそれはいくらなんでも……」周りの者からするとそうでもないようでした。
「えっ! レニー、貴方も一緒に行くのですか? 近衛の方はどうするのですか?」
「そちらは息子に任せます。そもそも私は引退した身でしたからね。それに今は陛下のお母上もいらっしゃいますから問題ありません。それよりも殿下が心配です……」
安全面については特に言及されませんでした。
お忍び旅行でもないのに、仮にも一国の君主が君主同士会談をするための外遊だというのに、たったそれだけの人数では格好がつかない。そんなことでは下に見られてしまう。まとまる話しもまとまらなくなると駄目出しです。
「他の人員に関しましては、当日までにこちらで選定しておきます」
「……お願い致します……」
ラミ王国は、現在軍事に関してルトア王国頼りになってはいますが、その規模は小さくとも常在軍はあります。代わりに傭兵制度は採用していません。
「近衛からはこの二名になります。こちらの四名は騎兵からで、弓隊、魔導隊……」
方々の隊から総勢十名程が選出されて来ました。初めて会う方ばかりで名前を覚えきれません。
わたし的にはこれで結構な大所帯になったと思ったのですが、レニーにいわせると「これでも足りない位です」とのことでした。
「それにしても、随分と偏った人選な気がしますね……」
わたしを含め主だった者は女が多いですから、女兵士がいるのはわかりますが、男の兵士はレニー程ではなくとも年配の方ばかり。
「彼等はお母上の特別訓練を免除された者達です」
ならばそれなりに腕の立つ者達なのでしょう。それとも逆に匙を投げられてしまった者達なのでしょうか。前者であることを祈ります。ですがやはり今回はうら若き乙女達ばかりですから、色々と心配のない既婚者を中心に選んだのでしょうね。
……お養父さまには気苦労をお掛けします。
ともあれこれで出発が出来ます。もちろん無線機の術具も忘れずに馬車へ積み込みました。
……今回、わたし的にはこれが一番の目的ですからね。
国内の移動は快適そのものでしたが、道中の宿泊場所は常にその土地の領主の館。その為、いつもそれなりな格好をしておかねばならないことが精神的に苦痛でした。
「わたしとしては、気軽に街道筋の宿でも良かったのですけれどもね……」
「さすがにそれをすると、なぜ寄ってくれないのだと通過する土地の領主から苦情が上がってしまいますし、安全面から考えてもそれはあり得ません。父達から叱られてしまいます。それに、そもそもこれだけの隊列ですから、普通の宿では捌ききるのは大変です。わたくしとしましては、毎日殿下を磨き上げることが出来て光栄ですよ。嬉しいです」
普段からわたしの身の回りのことをお願いしているマダリンですが、わたしは執務中は人前に出ることがなければ簡素で地味な格好をしています。動き易さ重視。その為、腕の見せ所がないといつもぼやいていました。
ですから今回は良い機会だと張り切っています。何せ馬車一台分がわたしの衣装で埋まっていますからね。
……そんな物を積むくらいなら、無線機の術具をもっと積みたかったですね。
今回は完成している三十台の内、十台だけ持っていきます。別に馬車の空きがなかった訳ではありません。
「殿下、全てを持って行くのはよしましょう。せっかくの価値が下がります。こういった物は小出しにするのが良いのですよ」
マリアンナとフランツィスカ達の助言があり、その数になりました。
……それと、アラクスルは絶賛していましたが、ルトア王国の他の者の意見は直接聞いていませんしね。
実際見せてみてどうなるかわかりません。大丈夫だとは思うのですが、今回もしもルトア王国と折り合いが付かなければ、急いで他の納品先を探さなければなりません。それに道中壊れてしまうことも加味して幾つかは残しておきました。
……これ以上、金欠が続くのは勘弁ですからね。




