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其の112 更にもう一仕事

 ……お金がありません……。


 別に国家予算がない訳ではありません。そちらの方は幸にしてわたしが多少無茶なことをしても揺るがない程には潤沢にあります。特に重税を課している訳ではありませんが、術具の権利やらなんやかんやで国庫は潤っています。しかしそれとわたしの懐事情とは関係ありません。最近何かと物入りで厳しいのです……。


 ……これは何か金策をしなくてはいけませんね……。


 一国の君主が執務中にそんなことを考えていられるのも、今が一時でも平和だからこそです。


 流石に年明けすぐはどこも大人しく、魔獣出現の知らせもパンラ王国のちょっかいの報告も聞こえて来ません。

 わたしの今やっている仕事内容も平和そのもので、各国から届いた新年の挨拶や君主信任のお祝いの親書の確認作業。その為、余計他のことに気が行ってしまっていました。


 そんな中、書類の中にあったルトア国からの親書を見て、色々と忘れていたことを思い出します。 


 ……そういえばあの件、随分と放置したままでしたね……。 


 思い立ったが吉日です。すぐにそばに居るエルハルトに声を掛けました。


「エルハルト。相談なのですが、今は時期的にも余裕が御座いますよね?」

「……陛下……また何か思い付きでことを進めるのはおやめ下さい……」


 あからさまに嫌そうな顔をされてしまいました。


「そんなことはありませんよ。何時も状況がひっ迫して仕方がなく動いているだけです。わたしのせいではありません。それに、今ちゃんと相談しようとしているではないですか」


 丁寧な口調で、伺いましょうとはいっても、その目は全くわたしを信用していません。


 ……日頃の行いのせいですから仕方がないですね……。


 とはいえ些か傷付きました。


「わたしの件ではなく、彼等、元王族達の件です。まだあの者達にその処遇を通達していませんでしたよね?」


 忙しくしていたのと面倒なのもあり、あやふやなまま棚上げにしていました。そろそろハッキリさせてあげませんと彼等も可哀想です。


「新年になりましたし、丁度良い頃合いかと」

「……確かに、法務の者達も今は差し迫った仕事も片付いているでしょうし……では、早速元王族の代表者を……」

「あ、お待ちを。呼び集めるのは今王城に住う元王族全てでお願いします」

「……また何かやらかすおつもりですか……」

「失礼ですね。みなにその自覚を持ってもらいたいだけです」


 ……ついでに他の用事も済ましますけどね。


 丁度良いお金稼ぎを思い付きました!







 元王族等との謁見の場は、城内で最も広い大広間で行われたのですが、その集まった者達を見てその理由に納得です。


 ……こんなに居たのですか……。


 これまでの王位は世襲制。一族を絶やさぬ様に励んだ結果がそこに現れていました。


 思わず無駄飯くらいがこんなにもいたのかとうんざりしてしまいます。


「……貴殿達は陛下の温情により傍系一族とされるが、爵位は伯爵位に統一され……」


 みな神妙にしてエルハルトの言葉を聞いています。


 いくら伯爵位といえども彼等には直接納めている領はありません。その為無収入。なので一年は猶予を設けました。その間はこのまま王城に住んでもらって構いません。衣食住保障します。いきなり放り出したりはしません。しかしその後は手に職を付けて頑張って働いてもらいましょう。


 ……一応、城勤めの道も用意してありますし、その際の家族寮もあるのですけれども、元王族であったという自尊心が邪魔をして、果たしてどの位の者がその道に進むやら……。


 ここで困る者は王族であったことに胡座をかいて努力をしてこなかった者です。甘やかしてはいけません。そんな者まで面倒見きれません。


 しかし未成年は別です。未来ある若者に対しては、成人するまで、正確には学園を卒業するまではここにいて構いません。親御さんが引き取るのであれば別ですけれどもね。


 そう。子供達に罪はありません。姉を拗らせている身としては、どうしても庇護欲が働いてしまい、甘くなってしまいますね。


 卒業までには自分の進路を見つけられることでしょう。もちろんその手助けは惜しみません。相談してくれれば力になります。それに他の者達はみなやっていることですからね。王族であってもグレイラットの様に魔工学に目覚める者がいる位ですからなんとかなるでしょう。


 ……そうそう。そのグレイラットに用があるのでした。


 鎮痛な面持ちで話しを聞き終えた者達が足取り重く解散して行く中、彼を呼び止めます。


「ご無沙汰しております。陛下、御用でしょうか?」


 先生と呼ばれなくなってしまったことに距離感を感じ、少し寂しさ覚えてしまいましたが、彼の意外にも晴れやかな顔を見て安堵しました。


 ……この子は大丈夫そうですね。


 現状に腐らず、どの道に進むことになっても、迷わず真っ直ぐ進むことでしょう。鍛えたかいがありました。ならば微力ながらその手助けをしてあげましょう。もちろんわたしの為でもあるのですけれどもね。


「久しぶりですね。お元気そうで何よりです。例の頼んでいた無線機の術具の件になるのですが……」








 確かにわたしは製作を急ぐ様にといいはしました。しかし期日や数については何もいっていませんでした。


 ……まさかこんなことになっていたとは……。


「現在も魔工学を挙げて製作に取り掛かっております。完成している物はニ十台。組み上げ中の物は十台ほどになり……」

「ちょ、ちょっとお待ち下さい。エルハルト!」


 ……嫌な予感がします。


「はい。陛下のご命令で緊急にとのことでしたから、通過するまでに時間の掛かる閣議での予算の計上はせず、直ぐに作製の許可を下ろしておりますので、その為、掛かる費用は国庫からではなく陛下の動かせる予算の内から出しております」


 ……最近、特に金欠な理由が分かりましたよ。


 しかしこれから量産体制をさせる手間が省けたと喜ぶべきでしょうか。それにわたしが出資者なのでしたらその分取り分も多くなります。災い転じてなんとやらと思うことにしましょう。


「それで、後は如何程作れば宜しいのでしょうか?」

「……今製作途中の物を完成させて頂ければ今の所はそれで十分。一先ずそこで一旦止めて結構です。この短期間にそれだけの数を作ったのならば、貴方方も大変だったでしょう。暫くはお休みなさい」

「お心遣い有難う存じます。ですがまだ私共はいくらでも作業に入れます。何時でもご用命下さい」

「……その気持ちは受け取っておきます……」


 楽しそうで何よりですが、それがグレイラット一人だけなのか、他の者もそうなのか気になる所です。しかし今はそれを気にしている時ではありません。

 

 グレイラットを下がらせると急ぎエルハルトに支持します。


「直ぐに通話具でルトア王国に連絡を取って下さい」

「承りました。どなた宛でしょう?」

「わたしの教え子であるアラクスル宛です」

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