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其の10 二日目の講義、午前中

「ミリー、そろそろ起きないとマズイんじゃない?」


 今朝は中々起きられませんでした。身体も疲れていましたが、それよりも昨日のことを引きずり精神が疲弊して寝つきが悪かったからです。

 昨日とは異なり、意趣返しが出来て嬉しそうなアリシアに起こされ、モソモソと寝台を出ると朝の支度をし始めました。


 ……昨日は散々でしたが、気持ちを切り替えましょう。今日から新たに頑張りますよ!


 



 

 昨日は初日でしたので特別講義となり、午前中を通して試験が行われましたが、普段の午前の講義は前後に分かれ、前半は必修の教養座学。これは各寮毎に分かれた全体講義になり、後半は各々の進展具合によって振り分けられ、他の寮生と合同に大教室の講堂で行われる講義となります。

 わたしは当然史学が赤点でしたので、これから半年間はみっちりと講義を受けさせられることになるでしょう。考えると今から気が重くなってきました。


「昨日の試験の結果、今寮生の中で補講の必要が無い者はレイチェル・クラウゼ嬢のみです。貴女はその時間は自習となりますので、よく予習をしておく様に」


 講義開始の前に教師が教壇に立ちそう言い放つと、教室内にどよめきが起きました。


「すごいねー、あの子満点だったんだ」

「……そうですね。凄いですね……」


 ……あれ、わたしがなりたかったやつです……。


 予定では基礎課程をサッサと終わらせて、残った時間を実学の講義の準備に充てるつもりでした。ですが現状は……。


 特に嬉しそうな顔も見せず、さも当然な様な顔をして金髪の巻毛を誇らしく揺らす彼女を羨ましそうにして、暫し見入ってしまっていましたのは仕方がないと思います。しかしそれを一緒に見ていたアリシアは渋い顔をして、こっそり話しかけて来ました。


「……昨日、下の階の部屋のミーシャって娘に聞いたんだけどね……」


 流石です。昨日の今日でもう寮内に友達が出来ていた様です。わたしがハイディ教師に捕まっていた時でしょうか。それにしてもその直ぐ人の懐に入り込める人当たりの良さは最早才能でしょう。


「その子、兄弟からイロイロと聞いてたんだけど……」


 わたしにも上の兄妹がいるのですが特に学園について何も聞いていませんでした。精々食事が美味しいということ位しか……。別に仲が悪い訳ではありませんので、お話しをしてくれたことがあったのかもしれませんが、聞き流していたのかも知れません。如何せん自分の勉強のことで頭が一杯でしたから。


「その方は何と?」

「補講は出るものなんだって」


 ……?……


 まさかみなさんワザと補講に出ているとは思いませんでした。


「ほら、午前中の二つ目の講義は他の寮の人たちと一緒じゃない? だから補講は他寮の人たちとの交流の場になるから必要な時間なんだって。二学年になると専門課程のコースに分かれちゃうでしょ? だから今の内なんだってさ。取りたい講義にはワザと手を抜くらしいよ」

 

 ……確かに、面倒ごとが起きない為にも各寮は親の位毎に区別されて基礎の講義も同じです。専門課程に進めばそれも違いますが、常に同じ面子ばかりになりますからね……


「貴族の子女だっていっても、出身も地位もみんなバラバラでしょ? そーいったのがらあるから、情報交換? みたいなコトが必要なんだってさ」


 階級や地域の垣根を越えて、情報の交換や互いの親密度を上げていこうといったところでしょうか。そのためにも補講の時間が必要なのですね。得心がいきました。


「そうでしたか。そういった側面もあるのですね」

「中でも、王族や上級貴族が必ず受ける史学や法律の講義が特に人気なんだって。講堂は一緒だから」


 わたし達にとっては補講でも、上の者達にとっては必修だそうです。


 これはまた随分と情報通になっていたものです。補講の件よりも、アリシアの方に感心して驚いてしまいました。



 


 四つの鐘が鳴り、みなそれぞれの講堂に移動します。


「わたしはその……汗顔の至ですが成績が思わしくなく当然の結果なのですが、アリシアもですか?」

「アタシもだよー。他はラクショーだったんだけどねー」


 法律は基礎的な設問ばかりでしたからまだしも、歴史となると過去の知識が邪魔をしてしまったのだそうです。


「だって千年くらいあるんだよ? むかしの王さまの名前や起きたことなんて、覚えきれないよ」


 ……確かに覚えるのは大変でした。わたしも記憶力の良い方ではありませんから……なのにまた覚え直しをしなくてはならないのですね……。


 同じ講堂に向かう他の者達は、王族方に会えると嬉しそうにしていますが、わたしは対照的に暗い顔をして歩みを進めていました。





 講堂は入園式で使っていた所程ではありませんが、それなりに大きな部屋でした。前列は当たり前のように王族達が座っており、わたし達は後ろの席に着席します。暫くすると教師が入って来くると講堂の騒めきが鳴りを潜めました。


「では講義を始めます。後ろの席、聞こえますか?」


 ……あっ……。


 史学の教師はハイディです。目が合ってしまいました。これは完全に目をつけられていますね。


 講義の内容はこの国の成り立ちから始まります。今後一年かけて現代まで進むのでしょう。大人しく話しを聞いていると、ちょくちょくアンナから聞いていた話しと違う所が出てきました。何方が正しいかは最早あまり関係がありません。今はこれをしっかりと覚えなければならないのですから。


 わたしが必死になって筆を動かす横で、アリシアは寝息を立てています。こんなことで大丈夫なのかと心配しましたが、過半数の生徒もみな同じようなもの。前列の王族達以外

、あまり熱心に聴き入る者はいませんでした。


 半刻程経ちますと「今日の講義はここまでです」ハイディが教壇から降りてしまいました。まだ時間は半分残っています。どうするのかと様子を伺っていますと。


「残りの時間は各自集まり、自由討議の場にします」


 喧騒が戻って来ました。みなこの時を待っていたとばかりに席を立ち上がると前方に群がって行きます。


「……ん〜……終わった?」


 その音に目覚めたアリシアが寝惚け眼で呟きます。


「この後は、時間まで生徒が各々勝手に討議する場になる様ですよ。みなさん、王族方に縁を求めに集まって行きましたが、アリシアも行きますか?」

「ん〜メンドイからアタシはいいや。終わりまで寝てるから、鐘がなったら起こして……」


 そのまま、また寝てしまいました。


 ……確か、王族か上位貴族の妃の座を狙うと仰っていませんでしたか? そんなことで良いのでしょうか?

 

 しかしそんなことは彼女の問題です。わたしが心配する必要はないでしょう。放っておきます


 わたしは別に王族方に興味はありませんので、他の方同様に群がるつもりはありません。ならば今の内に他寮の方と交流を深めた方が良いのでしょうか? 適当な方がどこかにいらっしゃいませんか? と辺りを見渡していたのですが。


「今から名前を呼ぶ者は、隣の準備室まで来る様に」


 騒がしい教室の中、ハイディの良く通る声でわたしの名前が呼ばれてしまいました。



 


「さて。貴方方は、なぜ自身がなぜ呼び出されたのかわかりますか?」


 ハイディは蛇の様に目をぎらつかせながら、わたし達を舐め回す様に見つめています。


 呼び出されたのはわたしを含めて10数人ほど。その中にアリシアも含まれていることからもおおよそが知れます。

 見知らぬ男子生徒がバツの悪そうな顔で「……点が、悪かったからでしょうか……」と、オドオドしながら言うとハイディは殊更大きく目を見開き「悪い。ではなく最悪です!」一喝して睨み付けました。


「貴方方はこと史学に対し、貴族たる水準に全く達しておりません! ですから暫くの間、講義の後半はこちらで特別講義を行います。良いですね!」


 ……アリシア、残念でしたね。お昼寝の時間は無くなりましたよ。一緒に頑張りましょう……。

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