其の106 討伐
───全く処置なしです!
……あれだけ灸を据えたというのに、あのバカ姉は……。
───勘弁して下さい!
しかし愚痴をいっていた所でなにも始まりません。
「メイ、ベルト、行きますよ!」
慌てて後を追い掛けました。
「ミア姉さまは、どうせあの大きな魔獣が狙いですから放って置きましょう。怪我をしても知りません。メイとベルトは手分けしてあの猿もどきを。わたしは狼もどきを集中に倒します。いない可能性が高いですが、生存者には十分気を付けて下さい。その為、広範囲の攻撃はなるべく控える様に!」
『はい!』
二人は返事を返すと、すぐさま機動性を良くする為に馬から降りて走り出しましたが、わたしはそのまま乗って村まで駆け降ります。
当然ながらいきなりの闖入者に魔獣達は色めき立って向かって来ました。
馬上から鞭で一頭一頭打ち据えていくのですが、次第に面倒になり、馬から降りると例のアリシアと一緒に作った術具を放り投げながら、ゆっくりと歩いて移動することにしました。
手持ちの術具が無くなれば、鞭を振るって魔獣を蹴散らし投げた術具を回収し再度魔力を込めて再利用。自画自賛してしまいますが、これは何と便利な物ですね。
……このままアリシアと共に、武器の術具を中心に開発していったならば……。
この術具もアリシアが知っていた手榴弾? とかいうものを元に作りました。この手の物はまだまだあるそうです。
彼女の持つ知識量と発想力は規格外。この世界に兵器の革命を起こせることでしょう。本気で行えば武力で持ってこの大陸を総べることは難しくないかも知れません。むしろその方が手っ取り早く済むかと……。
……おっと、危ない危ない……。
戦闘で気が昂り、どうも思考が物騒な方へといっていました。そもそも人を減らして仕舞っては意味がありません。本末転倒です。
しかし幸か不幸か、魔力の奉納に魔獣は含まれていません。可哀想だとは思いますが、これ以上わたしの国民(予定)の者を減らされては困りますから、この場でしっかりと数を減らしておきましょう。
そもそもこの魔術具は命までとるものではありません。精々気絶させるだけ。行動不能になった魔獣に杖を突き立てると息の根を止めます。
……申し訳御座いませんね。
これも自然の摂理と諦めてもらいm後でなるべく魔石は回収し、有効活用をさせて頂くことで供養としましょう。
……さて、メイ達はどうなっていますかね?
視界の中に動いている狼もどきがいなくなったのを確認すると、弟妹達の様子を確かめます。
猿もどき達と同じ様に倒壊した屋根の上を飛び回わり、二人掛かりで共に剣を振るい一頭づつ確実に倒している姿が見えました。
……しかし、あれではどっちがどっちだか……。
猿もどき達よりもよっぽど俊敏に動き回っていました。
たまにわたしに向かって来る猿もどきを鞭で打ち据えながら、二人に大事ないことを確認すると、今度はミアの姿を探すのでしたが、わざわざ探すまでもなく村の中心辺りで例の魔獣と楽しそうに闘っていました。
(……えっ⁉︎ ……ナニアレ……)
アリシアが気味悪がるのも無理ありません。
そのナリが小さければ蛇かと見まがうほどにギラギラと光る鱗を纏っていて細長く、その顔に当たる部位は鳥の様に先細っていますが、鋭い歯を蓄えていることからも肉食なのでしょう。そんな頭が三つもあります。あんなのは見たことも聞いたこともありません。
(あ、思い出したぞ! アレは龍じゃ!)
((えぇっ⁉︎))
……かつて存在していたとは聞いていましたが、あんな異形のものだったのですか?
(え〜……アレが龍? ドラゴン? 夢がないな〜)
アリシアの意見には同意します。
……なんかもう少しこう、かっこいいものを想像していましたよ……。
残念がるわたし達を他所に、アンナは一人興奮していました。
(いや、元が龍なのじゃよ。昔、ワシも仕留めたことがあるが、あの肉は中々絶品でな!)
とても美味しそうには見えない醜悪な魔獣ですが、元はもう少し形が整っていたそうです。本当ですかね?
(どこかに生き残っていたのかも知れんな)
折角だから食べてみたいといい出しましたが、わたしは勘弁です。
(そんなことよりも、以前アンナさまが闘った際に、アレはどんな攻撃をして来たのですか? あの尖った口で噛みついて来るとかですか?)
(アレの元じゃがな。アヤツは確か口から……)
炎でも吐くのかと思いましたが、突然その龍もどきの魔獣がミアに向かって黒い霧の様なモノを吐き出しました。
(そうそう。アレは毒霧じゃ。まともに食らうと死ぬぞ)
───ヒィーッ!
慌ててメイとベルトに声を掛けると自分も口を抑えながら避難しました。ミアに構っている暇なんてありません。
……粗暴で乱暴者で困り者でしたが、いざいなくなると、少しだけ悲しくなりますね……。
思わず彼女の方に向かって追悼の意を捧げてしまいましたが、そんなことは無用でした。
「カーッ、カッカー! 小癪なー!」
高笑いと共に黒い霧を打ち消すほどの大量な炎が現れると、その一頭が炎で丸呑みに。
途端にお肉が良く焼けた香ばしい匂いが漂ってきました。少しだけ美味しそうに思えたのは秘密です。
……やはり心配するだけ無駄ですよね……。
あの龍もどきはこのままミアに任せておきましょう。
メイとベルトを一旦呼び集めます。
「あの魔獣が吐く黒い霧は毒だそうです。近寄らない様に。あれはあのままミア姉さまに任せましょう。貴女方は周辺を捜索し、残りの魔獣及び生存者の確認をお願いします。ミア姉さまが暴れていますから巻き込まれない様注意なさい」
『はい!』
軽く見渡した所、ミアが今相手をしている魔獣以外もう動いているものはいません。
わたしは馬に戻ると袋を下ろして、暴れ回るミアを他所に魔石の回収を始めました。
……さて、今度はこれで何を作りましょうかね。
「……本当に、これを食べるのですか……?」
「ん? 当然だろ?」
ミアが奮闘の末に倒した龍もどきの魔獣ですが、早速捌くと、倒壊した家屋から木材を調達してきて焚き火にして炙っています。
食べることで供養するのは討伐者の責務だ! なんてかっこいいことをいっていますが、その怪しいニヤケ顔を見るに、ただ単に食べてみたいのか、それかどこぞの未開の蛮族みたいに、食べることでその魔獣の力を自身に取り入れんとする真似事でしょう。そのどちらかですね。
……野蛮ですね……。
(アリシア、アンナさま、物欲しそうな感情を出さないで下さい。煩わしいですし、端ないですよ)
……確かに良い匂いはしますけれどね……。
元のアレを見てしまうと、恐ろしくてとても手が出ません。メイとベルトもわたしの後ろに隠れてしまっています。
「……あの目、コワイ……」
「……もう、ちゃんと死んでる?」
せめて頭を丸焼きにするのはやめて欲しく思いますよ。
「……ミア姉さま……」
毒を吐く魔獣なのですから、肉にも毒があるかも知れません。ここは大人しく他の魔獣と一緒に土に埋めて処分しましょう。と、声を掛け様としたその時です。
───ん?
突然「トスン」と足元に一本の矢が刺さりました。
「敵襲! 各個警戒せよ!」
わたしが叫ぶよりも速く、それぞれ武器を手に取ると身構えました。
緊張しながら周囲を伺っていたのですが次の矢はやって来ません。その代わりに、甲冑に身を固めた何人もの屈強な軍人の様な者が姿を現しました。
「お前達! そこで何をしている!」
他国の軍備には詳しくはありませんが、状況的にラャキ国の軍人なのでしょうか。
彼等は武装をしていて警戒はしているものの、いきなり襲い掛かってはこなさそうでしたから、ミア達にも武装解除をさせると、わたしが代表として彼等に近付いて行きます。
「お勤めご苦労様です。怪しい者では御座いません。わたしはラミ王国の君主。僭越ながら魔獣発生の報を聞き、助力に参った次第です」
警戒をされない様、満面の笑みでもって語り掛けたのですが、それがかえって良くなかったのかも知れません。
「小娘が戯れ言を! 怪しい奴等だ! ひっとらえろ!」
……この場合、威圧をした方が良かったのでしょうかね?




