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其の105 レロール領

 わたしの声はちゃんと王都内の者達に届いていた様で、道は出歩く者の姿もなければ露店も片付けられて空いています。これならば遠慮はいりません。


「ミア姉さま、メイ、ベルト。速度を上げますよ。しっかりと着いて来て下さい!」


(アリシア、お願いします!)

(オッケー!)

(アンナさま、道案内を!)

(う、うむ!)


 ───ヒィーッ!


 途端に馬の速度が上がりました。


 振り落とされない様にしがみついているのが精一杯。目も開けられません。例え目をつぶっていてもアンナが道案内してくれているから問題ないとはいえ、これではたまったもんじゃありません。


(ミリー、大丈夫?)

(……ふ、吹き飛ばされそうです〜!)

(あ〜ちょっと待ってて)


 程なくして空気の抵抗を感じなくなりました。空気の層を作って保護してくれているとのことです。


 ……有難う存じます……。


 落ち着いた所で周りの様子を見てみると、すぐ横に着いてきているミアは慣れたもので、同じ様に自信や馬に対して保護しているのでしょうか、平然として走っていました。


 ……やはり、昨日今日魔法が使えたわたしとは全然違いますね……。


 感心しながら背後を走る弟妹達の様子を見てみれば、共に涼しい顔をして着いて来ています。


 ……姉としての威厳が……自信なくします……。







 何度か馬を乗り換えてレロール領内に入りました。


(……確かこの辺りだったはずじゃが……)


 アンナのあやふやな道案内でもすぐに領主の館は見つかりました。


 ……うちの実家とは雲泥の差ですね……。


 流石王都に近いだけあって立派なお屋敷です。


 軽く嫉妬を覚えながら門に近付き、門番に言付けを頼むと「しょ、少々お待ちを!」急いで中に走って行きました。ちゃんと連絡は届いていた様ですね。


 程なくして執事風の年配の男性と、身なりの良い青年が慌ててやって来て、敷地内にわたし達を招き入れると、共にその場で跪きました。


「陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう……」

「その様な挨拶は無用です」

「これは大変失礼致しました。今すぐお茶の用意をさせますので、どうぞ中へ……」

「時間の無駄です。この場で構いません。それよりもすぐに領主を呼びなさい。詳しい状況を知りたく存じます」

「はっ! 父は只今陛下の戴冠式に主席する為、王都へ出向いており不在になります。私めは息子のモールと申し、領主代行になります」


 領内でなくとも隣接する地域での惨事とのことですから、慌てて今帰途についているそうです。途中で追い抜いてしまった様ですね。


「ならば貴方で構いません。現状の報告を」

「はっ!」


 彼等がラャキ国内で魔獣が大量発生したとの情報を得たのは、わたし達からの情報が初めだったということです。


「……私めが父からその連絡を受け取り、すぐにラャキ国内の知己にしている者達と連絡を取りましたところ……」


 初耳だった者も多かったそうですが、時間が経つにつれ情報を整理している内に、どうにも本当なのだとわかってきたそうです。


「それで、発生場所、魔獣の種類、頭数等、現在わかっていることは?」

「……ここと隣接するサーチェイの山林、パンラ王国側から湧いて来たとの話しで、詳しいことは……その……既に一村程壊滅しているらしく……」


 生き残った者によると、狼の様な魔獣の他にも他の魔獣もいたとかで、頭数や詳しい種類については現在でも不明とのことです。それを聞き髪が逆立つ思いがしました。


「緊急事態ではないですか!」

「申し訳御座いません!」

 

 別に彼を責めている訳ではありません。これは詳しい報告が上がってこれない程に現場は混乱し、酷い状況になっているということです。


「それで、ラャキ国側の対応はどうなっていますか?」

「……それが……」


 その魔獣の襲撃から逃れられた村人からの連絡を受け、サーチェイ領の領軍が出動するも全て返り討ちに会い、現在はその崩壊した村から魔獣を街にまで来させない為に、一山越えた辺りで国軍の兵を配備している最中だそうです。


「彼等は恐らく、魔法による大規模攻勢をかけて辺り一面を一気に消滅させるつもりかと……」


 そう簡単にはいかないとは思いますが、その点は敢えて無視します。


「わかりました。こちら側の対応は?」


 領軍と騎士団が国境沿いに集まり、サーチェイ側に向けて警戒中とのことです。


(ねぇ、コレってパンラの陽動じゃないの?)

(……ですよね……)


 あからさま過ぎますが、しかしそう対処せざるを得ない状況でしょう。ラャキ国の軍上層部の面々が胃の辺りを抑えている姿を想像してしまいました。面識はありませんがね。


「仕方がありません。これは現場を見ないとなんともいえませんね。詳しい場所の地図をここへ」


 年配の執事らしき者が既に用意しており、目の前に広げてくれました。


「……思った以上に近いですね……」


 ここと目の鼻先でした。


 三人にも見せた所、ラミ王国へ入る為にこの辺りを通って来たので道がわかるそうです。


「ならば急ぎましょう。今すぐ出発です!」

「へ、陛下自らが赴くのですか⁉︎」

「国民の安全が懸かっているのですから当たり前ではないですか」

 

 彼も腕が立つのならば、領主代行の責務として同行させるつもりでしたがとてもそうは見えません。本が似合いそうな線の細い身体付きです。


「貴方はここに残りなさい。幾つか指令を授けます」

「はっ!」


 領主の館は前線基地とし、以降連絡の中継を彼に任せました。


 戦闘中に無闇に連絡を取り合うと、危ういことが起きてしまう恐れがありますから、仲介役を担う者が必要になるのです。


「後から来る近衛達は到着次第、今国境沿いにいる騎士団と領軍達と入れ替えなさい。引き上げて来た彼等は領民の安全を最優先させ、それと……」






 呆気に取られている彼に、捲し立てるように指示を送ると、替えの馬を用意させて現場に向かいました。


「この辺りなら人目がないからね」


 ミア達の案内で山中を抜けて現場に向かいます。


 ……ざる警備ですね……。


 警備をしている者の姿は全くありませんでした。これは戻ったら注意が必要ですね。


 周りを警戒しつつ山を越えると開けた場所が見えて来ました。一先ず止まって様子を伺いましたが、眼下に広がる件の村には人の気配が全くありません。代わりに魔獣らしきものが闊歩しているのが遠目に見えます。


 ……ですが、思ったよりも大群ではありませんね……。


 大群と聞いていましたから、村を埋め尽くさんばかりかと思っていましたが、精々数十頭。三桁にはならなさそうです。これでしたらわたし達だけでどうにかなるでしょう。


 ……近衛達には荷が重そうですがね。


 村は完全に魔獣達に占領されている様で、殆どの家屋は倒壊していて土煙りが上がり、一部では火事にもなっていました。


「お三方、あそこに見覚えのある魔獣はいますか?」


 残念ながらわたしは視力が良くはありません。代わりに見てもらった所、例の熊もどきの姿は見えない様でしたが、頭が複数ある狼もどきや、腕や足が複数ある猿もどきが大小いるとのことです。


 ……すばしっこそうなのは、ちょっと厄介ですね……。


 思わず右脚をさすりました。


 獣や魔物、魔獣にはそう大きな違いはありません。


 元々獣だったものが内に秘めている魔力が暴走し、凶悪になったものが魔物で、更に魔物化したもの同士が交配、又は他のものを取り込むことによって新たに生まれ出たものが魔獣です。


 その為、魔獣になっても元になった獣の様相をある程度は残しているものですが、その性質は元からかけ離れるに従って、生き物としてのタガが外れていきどんどんと凶暴化してしまいます。


 ……ですが、あそこに見えているわたしでも認識出来る大きく細長い魔獣は、一体元は何の獣なのでしょうかね?


「……見たことのないというよりも、元がわからないのが一頭いますが……。ミア姉さま、アレってご存知ですか?」

「……いや、知らないねぇ……」


 そうといいながらも、強敵そうだと舌なめずりしています。全く戦闘狂には困ったものですね。


 一応、メイとベルトにも尋ねましたが、やはり知らない様でした。


 例え知らない魔獣であっても、あの程度の大きさであれば問題ないとは思いますが、やはり全くの未知なものには警戒してしまいます。


 ならばミアにアレを任せている内に、他のをわたし達で倒していくか、それとも先に不安要素であるアレを全員で全力でもって叩くか……。と暫し思案していましたら、アンナがポツリと(……あっ……)と漏らしたのを聞き逃しませんでした。


(アンナさま? 何かご存知の様ですね?)

(ん? うむ……)


 頭の片隅に、何処かで見たことがある様な、ない様な……引っ掛かるのだといっています。


 ……相変わらず記憶がポンコツですね。


 さてどうしましょうと、暫くの間思考の海に沈んでいましたら、袖口を引かれ我にかえりました。


「どうなさいましたか? メイ」

「あのね〜……」


 待ち切れなくてソワソワしていたミアが「どうせ全滅させるんだろ?」と、馬を降りると魔獣の群れ目掛けて一人勝手に走って行ってしまったけど、いいの? と。


 ───ミ、ミア姉さまー‼︎

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