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其の104 緊急事態

 わたしからの話しを聞き、ミアは喜色満面の笑みを浮かべましたが、レニーは明らかに難色を示しました。


「……頭から否定する訳では御座いませんが、情報源が彼女一人の話しでは……」


 フランツィスカが俯いてしまいました。


 それは最もだとは思いますが、もしそれが本当だとしたら一刻を争う事態です。


「もちろん裏取りは必要ですから、今、近隣の領主へも確認を取らせています。ただ仮にコレが誤情報だったとして、ソレをわたしが聞き、そこからどなたが利を得るのでしょう? 本当だったとしたらこちらもただでは済みません。早急に手を打つ必要があります」


 思い当たる点としては陽動位しかありませんが、どこが何に対しての陽動でしょうか? 少なくともこの国に対してではないと思います。


 それには彼も同意見で、否定はしてきませんでした。


 ……これを聞いて、わたし自らが動くだなんてことを考えるのは、わたしの周りの者位ですしね。


「それにこれはあくまで相談です。わたしとしましては、なるべくであれば命令という形での強権は発動したくはないのですが……」


 レニーの顔が困惑から諦め顔になりました。


「……全く、敵いませんな……。そんなことはなさらずとも、我々が動かない場合は、陛下の手の者達だけでも出立するおつもりでしょう?」

「流石お養父さま! よくお分かりですね」

「かわいい娘達のことですからね」


 沈んでいたフランツィスカの顔に光が灯りました。


「では急ぎ近衛達の選出をお願い致します。万が一の際の言い訳と、備えが必要になりますから、その点を考慮してお願い致しますね」

「畏まりました」


 急ぎレニーが隊列に向かって走り出しました。それを見送ると、黙って口を挟まず控えていたエルハルトに向かいます。


「急ぎわたしの装備を持ってきて下さい。それと今後の予定は全て中止です。一旦白紙に戻して下さい」

「承りました。お召し物は如何なさいましょう?」

「時間が惜しいので、このままで構いません」

「……畏まりました」


 彼もいい加減、いい出したら聞かないわたしのことに慣れて来た様です。文句もいわずにすぐ動き出しました。


 ……さて、後は諸々の準備が整うのを待つだけですが……。コレ、どうしましょう?


 突然お披露目の行進が止まり、この先に行く予定の場所で待ち構えていた民衆までもがこの場に詰めかけて来て騒いでいます。このまま放っておけば暴徒化しかねません。警備の者が抑えるのに必死です。


 ……仕方がありませんね……。


(アリシア、細かい注文を致しますが、お願い致します)

(ナニするの?)


 先ずは近くの馬達を驚かさない様、業者や乗馬をしている者達、その近くにいる者に対して個別に声を届けます。


『これをお聞きの皆さま、もう暫くすると、わたしが広範囲に渡って大きな声を発します。その為、各自目の前にいる馬の耳を塞ぐかして聞こえない様にしておいて下さい。それでもし馬が暴れたとしてもこちらで責任は持ちません。忠告します。これは王命と捉えなさい』


 周りが騒然として準備に入る様子が視界に入ります。ある程度落ち着くまで待つと再度アリシアに頼みました。


(今度は広範囲に、なるべく広く民衆に対して伝わる様にお願いしたいのですが)

(オッケー! なら、ついでにミリーの姿も空に投影する?)

(そんなことが出来るのですか⁉︎)

(アタシ一人じゃ全部やるのは難しいけど、イザベラさんとならね!)

(……ではお二人共、宜しくお願い致します……)


 当初は声だけのつもりでしたから、慌てて身なりにおかしな所がないかレイに確認してもらいました。


(……コホン。ではお願い致します……)

(準備オーケー? やるよー!)


 突然周囲に幾つもの氷の塊が出現し、それが徐々に平たく透き通った円形へと変化していきます。


(……何ですか? これ……)

(光を集める為の集合と、ミリーの姿を拡大して投影する為のレンズよ!)


 周囲の者達が異変に気付き騒ぎ始めました。


「お、おい! アレはなんだ!」


 そして空一面に大きな板の様な物が出現しました。


(この投影板を作るのが大変なのよね!)


 程なくしてわたしの姿がそこに映し出されます。


(イザベラさん、風の魔法はヨロシク!)

(わ、わかったわ! ミリーちゃん、どうぞ!)


 あまりの出来事に、事前に聞いていたわたしまでもが驚いて見入ってしいましたが、イザベラの声で我に返りました。


『……え、え〜これをお聞きの皆さま。既にご存知の方もいらっしゃるかとは存じますが、大半の方はお初にお目にかかります。わたしはかつてミリセントと名乗っていましたが、この度、ここラミ王国の君主に即位致しました。突然のことに驚かれている者も多いかとは存じますが、どうぞこのまま落ち着いてお聴き下さい』


 突然の声掛けに、ある程度は驚いて混乱する者が出てしまうだろうと危惧していましたが、今目える範囲では殆どの者が空を見上げて唖然としている為、大した混乱は起きていません。


 ……映像があって助かりましたね。


 アリシアとイザベラに感謝です。


 近くにいた小さな子が、わたしを指差して「あー! アソコの人といっしょだー!」と騒いで親に嗜められている姿が見えます。なんとも微笑ましい光景ですね。思わず笑みが溢れそうになりましたが、しかし今はそんな穏やかな状況ではありません。気を引き締めて前に向き直します。


『たった今、隣国ラャキ国内にて魔獣の大群が現れたとの報告がありました。このまま放置すれば我が国まで被害が及ぶ恐れが御座います』


 流石に魔獣と聞いて響めきが上がると共に民衆が騒然としてしまいましたが、これは想定内。


『お静かに! まだ話しは終わっておりません!』


 魔力を乗せて少し高圧的に話すと静かになりました。


『わたしの義務は貴方方国民を守ることになります。その為、かの国からの協力要請は来ておりませんが、わたしを含め有志の者達でこれより魔獣退治に出立する所存ですのでご安心下さい。ただ、今すぐにも向かおうと思うのですが、ご覧の通り、今ここは人で溢れ返っており身動きが取れません。その為、みなさま方にお願いです。これをお聞きになりましたら速やかに道を開けて下さい。さもなくば無理にでも押し通ります』


 そのままニコリと笑い掛けると、途端に波が引く様に人が動いて道が開けました。


『みなさま方のご協力に感謝致します。暫くそのままでお願い致しますね』


(アリシア、イザベラさま、有難う存じました。もう大丈夫です)


 周囲の氷の塊が霧散するのを確認すると、唖然としている周りの者達に向かい声を上げます。


「さぁ! ボヤボヤしていませんと、出立の準備をなさい!」


 ……あぁ恥ずかしかったです。顔から火が出そうでした。






「陛下、御武運を」

「有難う存じます」


 エルハルトへ宝冠と王笏を渡し、装備を身に付けました。わたしの準備は完了です。


「レニー。準備は宜しいでしょうか?」

「ハッ! 既に近衛の選出は済み、陛下と同行する者は三十名。残りの者は王都で待機させます」


 ……数がいても、戦闘にはあまり役立つとは思えませんしね。


「その位の人数で有れば、演習中に謝って越境したとの言い訳が効きそうですね。騎士団や街道筋への連絡は済んでおりますか?」

「各国境付近、及び各所に対して陛下の名により警戒体制を最大限に引き上げさせております。また街道筋の各所にも連絡済みです」


 ラャキ国だけではなく、隣接する他国にも警戒が必要です。何かあればすぐに報告が上がってくるでしょう。またいくら急いでも道中に障害があっては困ります。


「彼等には間違っても越境しない様、改めて注意を。また魔獣と遭遇した場合は手を出さず民を護りつつ後退する旨を厳命して下さい。それと、わたしは恐らく通常よりも早く進むと思いますので、替え馬の用意は急がせて下さい」

「ハッ!」


 レニーが慌てて各所に連絡を始めました。


 馬は駆足で走らせると四半刻が限界です。その為、長距離を急ぐ場合は逐次乗り換える必要があるのです。


 ……風魔法を駆使して負担を軽減させるつもりですが、限界がありますしね。


 そして、どうしてもわたしと、甲冑に身を固める近衛達とでは馬に対して負担が違ってしまいます。


 わたしも馬に跨ると周りに号令を掛けました。


「では出立します! 遅れても構いません。自己の範囲で出来うる限り急ぎなさい」


 ……うっ……レイの視線が痛いです……。


 わたしに着いて来れなさそうなレイは近衛達に同行させます。かなり不満そうにしていますが、これは致し方ありません。


 目指すはラャキ国と隣接するラミ王国内のレロール領内の領主邸。一先ずここを集合地点にし、ミアと弟妹達と共に先陣を切って馬を走らせました。


 ……無事でいて下さいね。わたしの国民予定の者達!

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