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其の101 訓練

 演習場の入り口に着き中を覗き込むと、ミアと近衛達が掛かり稽古をしているのが見えました。


 彼女は既にあの豪華なお仕着せは脱ぎ捨て、動きやすい男物の服装に変わっています。その服装に釣られているのか本性丸出しで暴れていました。


「おらーッ! ドンドン掛かってこんかーい! それでも騎士か! 早く立てー!」


 ……一方的ですね……。


 傍らには何幾人もの戦線離脱した者達がうずくまっている姿が見え、その稽古の厳しさを実感させられました。そのまま入り口に立ちながらレニーの姿を探していたのですが、「陛下!」わたし見つけるよりも先にレニーが見付けてこちらにやって来ました。


 ……しかし、公私を分けて頂けるのは良いのですが、お養父さまにそう呼ばれるのは気恥ずかしくてむず痒く感じますね……。


「レイ。ここは彼が居ますから大丈夫ですよ。貴女はあちらにいらしては如何ですか?」

「……しかし……」

「貴女には強くなってもらいませんと、わたしが困りますからね」

「畏まりました!」


 喜び勇んで駆けって行く姿をレニーと共に笑顔で見送ります。


「指導、お疲れ様です。みなさまの具合は如何でしょう?」

「……昨日までは、それなりに鍛え上げられたと自負しておりましたが……」


 今のこの状況を見て、考えを改めさせられていると苦い顔をしています。


「それは仕方がありませんね。彼女は特別です。あれと比較されると彼等も可哀想ですよ」

「そう仰って頂けるのであれば、少しは気が楽になりますが……」


 今はレイがミアに切り掛かって行きましたが、簡単にあしらわれてしまっています。


「……彼女は本当にお強いですね。今のわたしではとても叶いそうにない」


 レニーがため息を吐いています。


「そんなことはないかと存じますよ? 彼女はただ粗暴で獣染みてだけです。妹として恥ずかしい限りです……。彼等はそれに慣れていないだけで、結局最後はしっかりと学ばれた剣には敵わないかと」

「そうは仰られましても……」


 未だ彼女に一太刀入れられた者はいない様子です。


 これは改めて鍛え直さねば。とレニーが困った顔をしていますが、それにはわたしも苦笑いで返すしかありませんでした。


「おい! 聞こえてるぞ!」


 突然ミアが叫び、レイを打ち据えてこちらに向かって来ました。


 ……試合中にも関わらず、地獄耳ですね……。


「ミリー! あたしがなんだって⁉」


 ……ふぅ……その傲慢なその性格が酷くなっていますね……。


 更に試合に興奮して気が昂っている今の彼女には何をいっても無駄です。手が付けられません。


「ミア姉さま。暫く合わない内に、随分と増長なされていますね」

「なんだと⁉︎」


 今にも掴みかかりそうになった彼女の前に、レニーが立ちはだかろうとしましたがそれを手で制します。


「久々にお相手して差し上げましょうか?」

「はっ! ここは家でもなけりゃ領内でもないんだぞ? 今のお前があたしに敵うわきゃないだろう!」


 確かにわたしは、わたしの魔力で満ちている場所でなければいつもの威圧は使えません。


 ……ですが気が付いていないかも知れませんが、ここも結構わたしの魔力で溢れているのですけどね……。


 ただそんなことをしなくとも、彼女を懲らしめることは可能です。正確には、そうとなりました。


「なら、試してみましょうか?」

「いい度胸だ!」


 周りから響めきが起こる中、レニーが困惑を通り過ぎ慄いています。


「……し、しかしながら……お身体が……」

「流石に飛んだら跳ねたりは出来ませんが、闘うこと自体は可能です。まぁ見てて下さい」


 笑顔でそう返すと「……仕方がありませんね。くれぐれも無理だけはなさらないで下さい……」渋々ながらも了承してくれました。


「傾注ー‼︎ これより陛下が姉上と模擬戦を行われる! 皆、端により場所を開けろ!」


 レニーの号令が響くと、慌てて動ける者が倒れている者を引き摺り端に寄せ、開けた場所が出来ました。


 その様子を見ながら待っていると、申し訳なさそうな顔をしたレイがこちらに戻って来て「不甲斐ない所をお見せしました」所在なさげに首を垂れます。


「そんなことはありませんよ、まだまだこれからです。精進なさって下さいませ」


 では仇を打って来ますね。といい残しし、腰の鞭を取り出すと杖を突きつつ、中央で待つミアの元に向かいました。



 

 


 彼女はいつの間に用意したのか、自分の剣を持ち出して既に抜き身で待ち構えていました。かなり本気の様子です。


「ん? なんだお前、脚悪くしたのか?」


 わたしの杖を突く姿を見て少し驚いています。そういえば実家に報告するのを忘れていました。


「そうですね。ですがミア姉さまのお相手をする分には問題御座いません。それとも怪我人相手では本気になれないと、今から負けた時の言い訳ですか?」

「……そこまでいうなら本気でやってやろうか……」


 眉毛をひくつかせ、剣を持つ手が少し震えています。


 ……ついでにもう少し頭に血を上らせておきましょうか。


「そうですね。本気でと仰るのでしたら、魔法も含めてなんでもありで如何ですか? 魔法はお得意でいらしていますよね?」


 それを聞き、彼女からではなく周りの者から少し響めきが上がりました。無理もありません。通常、戦闘時に於ける魔法は、個人間や乱戦の時には使用しないものです。


 闘っている最中に詠唱を唱えるのも手間ですが、魔法は精霊頼みにりますから、その場にいる精霊の奪い合いになってしまったりすると威力が軽減してしまったりもしますし、気を付けて行使しないと、魔力の制御を間違えて思い掛けない効果が出てしまったりすることもありますから、それで自信や周りに被害を及ぼすこともあります。扱いが難しいのです。

 その為、集団で同じ魔法を用いる広範囲に広がる戦場や攻城戦などには向きますが、そうでなければ術具の方が扱いやすかったりします。術具に比べて、事前に準備をする必要がないのは便利なのですけれどもね。

 

 しかし彼女にそれは当てはまりません。アリシア程ではありませんが、その魔法の扱いは巧みで、戦闘に取り入れるのが得意なのです。


「……なっ、なめくさりやがってー‼︎」


 予想以上に挑発が効いた様です。顔を真っ赤にして斬り込んで来ました。しかもお得意の氷の刃を纏わせながら向かって来ます。


 あれは水の魔法と風の魔法を組み合わせて、瞬時に気圧を下げることで氷を作成し、更にそれを細かく砕いて飛ばしているのです。刺されば痛いでは済みません。そう刺さればの話しですが。


「侮ってはいませんよ。本気になって頂かないと、懲らしめる意味がありませんからね」


 直ぐに申し合わせ通りアリシア達に支持します。


(アリシア! 水と風の精霊です! 無効化を!)

(オッケー!)


 生前、精霊に愛された子とまでいわれていた魔法巧者な彼女です。それが今や精霊達と同じ階層にいて、更にわたしの魔力が使い放題。辺り一体の精霊達を手懐けること位造作もありません。


「───なっ!」

 

 勢い突っ込んで来たものの、突然魔法が失われたのに驚いて動きが止まりました。

 

 そこへすかさず鞭を振るい牽制し、彼女をその場に足止めします。


(イザベラさま! 今の内に彼女を土の魔法で囲んで下さい!)

(わ、わかったわ!)


 彼女はアリシア程に魔法が巧みではありませんが、一つづつでしたら確実にこなせます。


「なっ!」


 みるみる内に地面が盛り上がると、彼女が岩で出来た土の壁で覆われいき、その姿が見えなくなりました。


(仕上げです! あの中を水で満たして下さい!)

(ホントにやっても大丈夫なのかしら?)

(構いません。彼女はあれくらい平気です)


 むしろ溺れさせでもしなければ動きを止めるのは困難です。流石に手足を切り落とす訳にはいきませんからね。


 アリシアに水の精霊をイザベラに回してもらうと、土壁の中を水で満たしてもらっていたのでしたが……。


「───ミシ!」


 ……え?……。


 水が満たされる前に土壁に亀裂が入り砕けました。そこから鬼の形相をしたミアが顔が覗いています。


「……ミィ〜リィ〜!」


 ───へっ⁉︎


 ……まさか人の力で壊せるとは思いませんでした……貴女、本当に人間ですか?


 物凄い音を立てて剣の柄や素手で岩を砕いています。そして土壁は半壊し、上半身が現れると一緒に水が溢れ出て来ました。


 ───ま、不味いです!


 呑気に見ている場合ではありません。


 慌ててイザベラに土壁を補強してもらうべく頼んだのですが、直ぐに違う魔法は使えないといわれてしまい、愕然としてしまいました。


 ───これだから魔法は!

 

 ならば彼女目掛けて鞭を振るい、少しでも時間を稼ぐしかないのかと握る手に力が入ったのですが、そこにアリシアが声をかけて来ました。


(お姉さんを、あの場に留めておけばいい?)

(出来ますか? 早急にお願いします!)

(オッケー!)


 今のミアは詠唱どころではありませんので、アリシアが精霊を確保していなくとも問題ありません。彼女のことをすっかり忘れていました。


(じゃあみんな、ヨロシクね!)


 ……既にもう、お友達感覚ですね……。


 その声と共に突如耳鳴りがし、周辺の気圧が下がっていくのを感じました。先程のミアの比ではありません。


 瞬時に彼女の下半身が浸っていた水が凍りつき、その余波で彼女は意識が朦朧となりました。


 その様子を見て、わたしは動けないで土壁にもたれかかっているミアにゆっくりと近付くと、杖の先を彼女に突き付けます。


「ミア姉さま、観念なさいますか?」


 険しい顔でギロリと睨まれましたが、「……降参だ……」一言呟き項垂れると、持っていた剣をその場に落としました。


 ……わたしが特に何かをする間もなく終わってしまいましたね……。

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