断罪の卒業パーティーなどなかった
よくある卒業パーティーで悪役令嬢を断罪するやつの不発パターン。タイトルそのまま。
「どういうことだ!!」
自分たち以外の誰もいない、がらんとした大講堂の中心でモゲーロ王子が叫んだ。
モゲーロにエスコートされたオモワーセ・ブッリ男爵令嬢とその取り巻きもうろたえている。
王立学園の卒業式が無事終了し、夜には卒業を祝うパーティーが大講堂で開催されるはずだった。モゲーロはそこで、いつも口喧しく何かとたてついてくる婚約者、キバリー・ステルゾに婚約破棄を突き付ける予定だったのだ。
キバリーはモゲーロの愛するオモワーセをいじめただけではなく、なんと酷いことにならず者に襲わせて殺害しようと企んだらしい。許しがたい暴挙である。
キバリーを断罪し、オモワーセとの真実の愛を宣言する。モゲーロは意気揚々とパーティーに臨んだのだが。
パーティーどころか誰もいない。
どういうことだと言われた取り巻きたち――モゲーロの側近も困った。そんなこと、こっちが聞きたいくらいだ。
気合の入ったドレス姿のオモワーセはもちろん、自分たちも盛装している。パーティーにふさわしい一着をこの日のためにあつらえたのだ。オモワーセのドレスはモゲーロが贈った、彼の趣味全開の露出度の高さである。
鼻の下を伸ばしつつやってきたのに真っ暗で人っ子一人いない大講堂。これは恥ずかしい。
「どういうことだと言われましても……」
「パーティー会場が変更になったのでしょうか?」
「それならなぜこちらに連絡がない!!」
モゲーロに地団太踏まれても、知らないものは知らないのだ。
「も、もしかしたらキバリー様が何かしたのかも……。パーティーで断罪されることに気づいて……」
オモワーセが震えながら推察した。せっかくここまで来たのに、これでは今までの努力が水の泡だ。努力といっても何もされていないのをさもキバリーにやられたようにふるまっただけである。殺人未遂だけは完全な冤罪だが、思わせぶりに涙ぐんでみせればモゲーロたちは勝手に勘違いしてくれた。主演女優賞ものの演技である。
しかしここでキバリーが断罪されないと、公爵家に喧嘩を売った事実だけが残る。待っているのは報復だ。オモワーセが震えるのも無理はなかった。
「情報が漏れていたってことか?」
「クソッ、なんて卑怯な女なんだっ!」
「あの女には取り巻きがいる。そいつらを使ったのでしょう。金と権力を我欲に使うとは、汚い女だ……!」
キバリーを罵ったのは彼女の義弟である。キバリーはステルゾ公爵家の一粒種、しかしモゲーロと婚約してしまったため、公爵家を継ぐため親戚筋の彼が養子として公爵家に入っていた。モゲーロとキバリーの婚約がなくなれば養子縁組も解消となるのだが気づいていない。
五人が口汚くキバリーを罵っていると、騒ぎを聞きつけたのか学園長が顔を出した。
「……何をしているんですか?」
夜間警備だろう騎士が同伴している。学園を預かる責任者として当然の対応なのだが五人はぎょっとした。不審者扱いだ。
「学園長! 卒業パーティーはどうしたんですか!?」
モゲーロの質問に学園長の眉が寄った。
「何を言ってるんですか。今年度はありませんよ」
どことなく非難がましい口調だった。
「生徒会執行部がこの三年間まったく活動をしてませんからねぇ。集大成ともいえる卒業パーティのことなど頭の片隅にもなかったようで。こんなこと、前代未聞ですよ」
はーやれやれ。首を振る学園長の目は冷たい。
「なんだと!? なぜそのような怠慢……を……」
無責任さを責めようとしたモゲーロの言葉が途切れた。
生徒会執行部。
王立学園の生徒会は、王族が入学すると必ず王族が会長に就く。政務の予行練習をするためだ。
書類を書式通りに作り、人をまとめて取り仕切り、下の者を使って実行させる。部下の能力を見定めて適切に仕事を割り振り、時に叱り時に褒める、リーダーの在り方を磨くのだ。
そしてモゲーロは王子。他に入学している王族はおらず、彼が生徒会長だった。なお王族が複数在籍している場合、直系、年齢、男女で会長と役員が決まる。
モゲーロの側近たちも生徒会に所属していたことを思い出したのか蒼褪めている。
「い、いや……でも、他の行事はきちんと開催されて……」
「ステルゾ君たちが代わりにやってくれていたのですよ。他の生徒に懇願されてました」
モゲーロたちの代わりに生徒会を動かしたのはキバリーをはじめとする、婚約者の令嬢たちだった。
「彼女たちが一番の被害者だというのに……婚約者だから、とそんな義理もないのにやってくれました。さすがに申し訳ないのでわたしたち教員だけではなく、一般の生徒たちも手伝いましたよ」
シン・生徒会だと笑ってましたっけ。学園長はしみじみと微笑んだ。
「それ、なら……卒業パーティーだって、やってくれても……」
すでに最初の勢いはモゲーロにない。それでも恨みがましく非難した。
「国王陛下に止められたんですよ。わたしたちだって卒業パーティーをやってあげたかった。でもねぇ……最後の仕事はモゲーロ君に任せてくれ、と陛下に頼まれてしまっては……」
モゲーロは学園に入学したその日にオモワーセと運命の出会いをした。彼女に夢中になり、気が付けば側近と一緒になってオモワーセを取り囲んでいた。
放課後には街ブラデート、長期休暇には旅行。少し背伸びをして、招待状のいらない仮面舞踏会や街のダンスホールに行ったりもした。
輝かしい青春の日々――学業と生徒会を放り出して、遊んでばかりいたわけだ。
「卒業パーティーの主催が何もしなかったんですから、パーティーなんかあるわけないでしょう?」
代行者が立てられなかったとはつまり、キバリーたち婚約者も任を解かれた、ということなのだが、モゲーロがわかっているかどうか。任を解く、ようするに婚約解消である。
国王が卒業パーティーを手出し無用としたのはモゲーロがキバリーを断罪するつもりだと聞いたからだ。そんなにパーティーを台無しにしたいのなら自分で準備してもらおう。完璧な準備ができたなら少しは見直してやる。
できなかったらそこまでだ。廃嫡、除籍、家からの追放。地獄のフルコースが待っている。
そしてモゲーロは、何もしなかった。できる、できない以前であったのだ。
学園で彼は何もしなくても誰かが何とかしてくれる、を学んでしまった。
それすなわちモゲーロがいなくてもいい、むしろモゲーロがいるほうが迷惑だと自分で証明してしまったのだ。
「さて、もう夜も遅いですし、気を付けて帰ってくださいね」
学園長に手を振られ、五人はとぼとぼと大講堂を後にした。
今頃は王宮で、卒業パーティーならぬ謝恩会が開かれている。国王と王妃が主催した、シン・生徒会とそれを支えた者たちをねぎらうパーティーだ。卒業生全員と新年度からの生徒会執行部も招かれている。誰も、モゲーロたちに知らせなかった。噂すら流さなかった。
断罪のための卒業パーティーなど、必要ないのである。
いやもう卒業パーティーしなくていいんじゃね?とふと思ってしまいまして。
学園は三年間。普通の生徒会だと三年次の後期には次の生徒会にバトンタッチしてるけど、王族がいる場合は『自分も主賓だけど招待客をどうもてなすか』を学ぶため、卒業パーティーまで王族が会長を務めます。モゲーロは一年二年とぶっちしたのでパパ陛下も切れた。