無限と有限のセットアップ?!
宣誓ってなにを──、口にしようとしてアーキスの目に止められる。
「宣誓しなかったらどうなるんでしょう」
事情がわからないのはアーキスだって同じはずなのに、そんなこと微塵も感じさせず話を続けている。
男性は声をひそめ、辺りをうかがった。
「ラモント執政官は本気みたいだ。いまも確かめてきたけど、神殿の入り口は武装兵がいて、その先にはぜったいに入らせてくれない。リバースに従うと宣誓していない者は本当に儀式を受けさせないつもりだ」
ライナーの小さな体が、ピクっと震えた。
「神殿は執政官の側についてしまったの?」
アーキスも声を落として、すこし男性に寄った。
「いや、神官たちも反対はしている。けれど、彼らは神殿のなかだけで生活を完結できるからな。おれたちは、リグルを切らさないためには宣誓するしかない。リバースに従うしか……」
男性は妻に抱かれている幼子に目を向ける。
「従っちゃだめだよ」
黙っていられずに踏み出した。やめなさい、とアーキスがあわてて言ったけど構ってなんかいられない。
「リグルを切らさないように悪い奴らの言いなりになるなんて。月の人にも誇りぐらいあるでしょう?」
途端にアーキスに胸ぐらを掴まれた。はじめて見る恐ろしい顔で迫られた。
「あなたがそれを言えるのは、リグル切れの恐怖と無縁だからです。私たちにそれを強制するなんて」
若い夫婦はあっけに取られたような顔を浮かべてから「本当は俺たちだって……」そう言ってかばい合うように去っていく。それを見送って、アーキスは言う。
「あたしたちのことをなにも知らないくせに、勝手なことを言わないでください」