警備会社はつらいよ
自衛隊を退職後に「曙警備保障」就職した英雄は、勤続10年以上となる。そんな英雄に転機が訪れる。
俺は、警備会社で勤めて10年以上となる。それなりに忙しく年月はあっと言う間に経過した。仕事も相性が良かったようで、課長補佐まで昇進していた。単に警備業務が性に合っていたのであろう。新しい警備システムや警備員の装備品などの導入やイベントにおける警備員の配置及び設置型警備システムの導入など会社の利益向上に努めてきた。まあ現状は天職であるかと思う。そんなある日のことである。
「時田君ちょっといいかね?」
猫山課長が声をかける。この課長は何故か掴みどころが無い人物である。本当に猫のような人物で気配を消しているのか、いきなり声を掛けられるので少し恐怖である。
「はい、課長」
俺が返事すると背後で猫の様な雰囲気で立っている。ほんと課長がアサシンなら何回死んでることやら。課長が猫なで声で言う。
「あのね時田君にお願いがあるんだけどね。堀田興行さんのアンティーク堀田の警報装置の不具合で困ってるのね」
アンティーク堀田の警備システムを担当したのは俺だ。初仕事で確かに配置から配線まで覚えているが。俺は言った。
「警備システムの不具合は整備技術部が担当なので調整しますか?」
俺が提言すると課長は言う。
「ノンノン、整備技術部にはもう言ったさ、でもね現状は君が提案した警備システムの関係で各現場に出払って人的支援は無理と言われちゃってね」
課長は相も変わらず淡々とものを言う。いつも無表情と言うか薄い笑みさえ感じる。
「そこで、当時の担当主任だった君に現場確認をお願いしても良いかな」
俺は言った。
「問題ないです。いつ行けばいいですか?」
課長は俺を見据える様に言った。
「もちろん今からね」
はあ?もう6時すぎですけど。残業確定ですか?
「今からですか?」
課長はにんまりして言った。
「もちろん今からね」
俺が独身だからなのかの残業勧告ですかね?ふざけるなと思いながら。
「わかりました。では現場確認後は直帰しても宜しいですか?」
課長は、また、にんまりして言った。
「もちろん問題なしだよ。それから明日は午後から出金でいいからね」
何故か少し不安な感じがしていたが。まあ仕事は仕事と割り切るしかあるまい。
「わかりました、現場に向かいます」
心の整理がついた俺は言ったが、課長の姿が見えない。
「よろしく頼むね」
廊下の向こうから課長の声が聞こえてきた。何なんだあの人は?妖怪か?少し不満を感じながら、俺は整備技術部へ向かった。
整備技術部へ着いた俺は整備技術部の扉を開ける。
「お疲れ様です!」
俺は声を掛けたら、整備技術部の部長が出てきた。
「ああ猫山課長から聞いてるよ」
部長はノートパソコンやケーブル一式を準備していてくれた。
「お手数お掛け致します」
俺が言うと、部長は怪訝な顔で言った。
「アンティーク堀田の件だが。現場に急行した警備員からね変な声が聞こえたって言ってたな」
部長は少し考えて俺に言った。
「意味は解らないが少女くらいの声で『かえして』ってね、なんの事やらわからんな」
俺は思った、ヤバいオカルト的な事案なのかと、しかし行かないことには解らない。
「まあ現場でデータ収集すれば解るかもしれないですし、ありがとうございます」
俺は機材を準備された鞄に詰め込み、部長に言った。
「部長はオカルトとかは信じますか?」
部長は少し考えて言った。
「こんな業界だしな。あるんじゃないの、そう言う事って」
やっぱり何か知ってるんだろうか?
「じぁや、行ってまいります」
俺が行こうとすると、部長が声をかけてきた。
「時田君、警備システムはあくまでも赤外線などを使用した機器だが、誤作動は極限まで無い様に生産され、取り付け時も何度も点検している。それが何度も反応するのは・・・」
部長は少し考えて言った。
「あのパッシブセンサー(動体センサー)は誤作動報告のあったあとに新品と交換してある。その後にあらゆるチェックをして正常作動は実証してある。まあ整備担当としては、これ以上はどうしようもないな」
いぶしかげな顔をしながら部長が言った。しかし俺にも自衛隊時代に同様な経験があったため、こう言った。
「わかりました、テクニカル面以外も想定して検証していきます」
俺は、そう言って整備技術部を後にした。さて、アンティーク堀田に何が起こっているのか・・・
とりあえず準備ができた英雄はギャラリー堀田へ向かうことなる。行く前に整備技術部長から言われたことは気になるが、行かないことには解らない。次回「椅子と少女」こうご期待