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今宵ノ悪夢物語「隙間の男」

作者: ヨッシー@
掲載日:2022/10/04

今宵ノ悪夢物語「隙間の男」


ああっ、

ヒューーーーーン、

ドスン、


痛てててて、

「ここはどこだ、」

何もない、

灰色のコンクリートに囲まれた広い部屋。

なぜ、こんな所に?

ああ、そうだ、ビルの隙間に落ちたんだ。

私は、突然めまいがして足元がふらついた。そして、ここへ落ちてしまったんだ。

頭を触る。コブはできていない。

肘が痛い。肘には血が滲んでいた。

上を見上げる。

「あんな高い所から落ちたんだ」

はるか上の方に、人の足が見える。

「えっーと、カバン、カバン」

一緒に落ちてきたカバンを探す。

あった、

パンパン、カバンの埃を払う。

辺りを見回す。ここは地下室なのか?

何もない、ただ広いだけの部屋。

薄暗い蛍光灯が一つある。幸い、明かりは点いていた。

「おーい、」

「おーい、助けてくれー」

地上を歩いている人に声をかけてみた。

「誰か、助けてくださーい」

誰も気がつかない。

聞こえないのかな?

「おーーーい、誰かーーーっ」

さっきより大きな声を出してみたが、誰も気がつかない。

「やっぱりダメか」

そうだ、地下室だったらドアがあるはずだ。

壁際を探す。

ガサガサガサ、ガサ

ドアらしき物はなかった。

「この部屋にはドアがないのか」

どうする、

私は座り込み、考えた。

そうだ、携帯で電話を!

ピッピッピッ、ピッ、ボタンを押す。

会社に連絡しなくては、ここに落ちて営業先に行けなくなったことも、彼女に連絡も、いや119番だ。急げ、急げ、


……繋がらない。

アンテナが0本、Wi-Fiも繋がらない。

「困ったな、」

地上を歩いている人の足が見える。音は聞こえない。

涼しいな、

ここは、ほんのり涼しい。空調が効いているのか、冷たい冷気が漂う……


どのくらい時間が経ったのだろう。

まだ、私は、この地下室にいる。

幸い、色々な物が落ちてきた。傘、靴、ゲーム、本、

食べ物も不自由しない。

この間は、銀座の高級寿司が落ちてきた。

落としたマダムは慌てて探していたが、まさか、ここに落ちたとは思いもしないだろう。まったく気がつかない。不思議そうにして去って行った。

だった一人で寿司を食べる。

たった一人で…


どのくらい時間が経ったのだろう。

まだ、私一人しか居ない。

この部屋には、私一人しか居ない。

他には、誰も落ちて来ない。

今まで、私のように落ちてきた人はいなかったのだろうか?痕跡を探してみる。

何もない、何の痕跡もない。そして、新たに私のように落ちてくる人の気配もなかった。

ずっと一人だ。

本当は、お腹も空かない。

この部屋では、喉も乾かないし、お腹も空かなかった。最近、気づいた。

ここは、異次元空間なのか、

そんなことを考える。

しかし、ここからは足が見える。

地上を歩いている人の足が見える。上の方には人がいる。いっぱいいる。


ジャンプしてみる。

高い、

いくらジャンプしてもとどかない。

眺めるだけ、

ずっと眺めるだけ、

ずっと、

ずっと…


どのくらい時間が経ったのだろう。

まだ、私はここに居る。

今日も地上を眺める。

女性の足が見えた。

「美沙都!」

あれは、私の彼女の美沙都の足だ、

私がいなくなったから、探しに来てくれたんだ!

「私は、ここだ、」

「私は、ここにいる、」

「美沙都、ここだ、」

美沙都は、何事もなく通り過ぎて行った…


あれから、どのくらい時間が経ったのだろう。

もう、諦めていた。

私は、死ぬまでここに居るのだろう。

そうだ、記録を残しておこう。

私が死んだ後、誰かが落ちてきた時に役に立つかもしれない。

カバンから手帳を取り出す。

えーっと、いつからだ、

私の知っている情報を全て書き残そう。

次の人のために、


書き終えた。

私の最後のメッセージまでも書き終えた。

他にすることがなくなった。

気のせいか、

最近、地上を歩く人が少なくなった。

冬なのか?厚い靴を履いている人が増えた。

違う、

防護靴だ、

皆、分厚い防護靴を履いている。

どうしたんだ、いったい何が起きたんだ、

目を凝らして地上を眺める。

真っ赤だ、街が真っ赤だ、

倒れている、

人が倒れている、

燃えている、

人が燃えている、

ああっ、

燃えている人が、こっちを見ている。

手を伸ばしている、

私が見えるのか?

私に助けを求めているのか、

早く、こっちへ来い、

こっちは、安全だ、

早く、

早く、

その人は、そのまま燃え尽きた…


どのくらい時間が経ったのだろう。

地上は、誰も通らなくなった。

人一人通らない。

誰もいない。

私だけが、ここで生きている。

まだ、生きている。


生きている…


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