今宵ノ悪夢物語「隙間の男」
今宵ノ悪夢物語「隙間の男」
ああっ、
ヒューーーーーン、
ドスン、
痛てててて、
「ここはどこだ、」
何もない、
灰色のコンクリートに囲まれた広い部屋。
なぜ、こんな所に?
ああ、そうだ、ビルの隙間に落ちたんだ。
私は、突然めまいがして足元がふらついた。そして、ここへ落ちてしまったんだ。
頭を触る。コブはできていない。
肘が痛い。肘には血が滲んでいた。
上を見上げる。
「あんな高い所から落ちたんだ」
はるか上の方に、人の足が見える。
「えっーと、カバン、カバン」
一緒に落ちてきたカバンを探す。
あった、
パンパン、カバンの埃を払う。
辺りを見回す。ここは地下室なのか?
何もない、ただ広いだけの部屋。
薄暗い蛍光灯が一つある。幸い、明かりは点いていた。
「おーい、」
「おーい、助けてくれー」
地上を歩いている人に声をかけてみた。
「誰か、助けてくださーい」
誰も気がつかない。
聞こえないのかな?
「おーーーい、誰かーーーっ」
さっきより大きな声を出してみたが、誰も気がつかない。
「やっぱりダメか」
そうだ、地下室だったらドアがあるはずだ。
壁際を探す。
ガサガサガサ、ガサ
ドアらしき物はなかった。
「この部屋にはドアがないのか」
どうする、
私は座り込み、考えた。
そうだ、携帯で電話を!
ピッピッピッ、ピッ、ボタンを押す。
会社に連絡しなくては、ここに落ちて営業先に行けなくなったことも、彼女に連絡も、いや119番だ。急げ、急げ、
……繋がらない。
アンテナが0本、Wi-Fiも繋がらない。
「困ったな、」
地上を歩いている人の足が見える。音は聞こえない。
涼しいな、
ここは、ほんのり涼しい。空調が効いているのか、冷たい冷気が漂う……
どのくらい時間が経ったのだろう。
まだ、私は、この地下室にいる。
幸い、色々な物が落ちてきた。傘、靴、ゲーム、本、
食べ物も不自由しない。
この間は、銀座の高級寿司が落ちてきた。
落としたマダムは慌てて探していたが、まさか、ここに落ちたとは思いもしないだろう。まったく気がつかない。不思議そうにして去って行った。
だった一人で寿司を食べる。
たった一人で…
どのくらい時間が経ったのだろう。
まだ、私一人しか居ない。
この部屋には、私一人しか居ない。
他には、誰も落ちて来ない。
今まで、私のように落ちてきた人はいなかったのだろうか?痕跡を探してみる。
何もない、何の痕跡もない。そして、新たに私のように落ちてくる人の気配もなかった。
ずっと一人だ。
本当は、お腹も空かない。
この部屋では、喉も乾かないし、お腹も空かなかった。最近、気づいた。
ここは、異次元空間なのか、
そんなことを考える。
しかし、ここからは足が見える。
地上を歩いている人の足が見える。上の方には人がいる。いっぱいいる。
ジャンプしてみる。
高い、
いくらジャンプしてもとどかない。
眺めるだけ、
ずっと眺めるだけ、
ずっと、
ずっと…
どのくらい時間が経ったのだろう。
まだ、私はここに居る。
今日も地上を眺める。
女性の足が見えた。
「美沙都!」
あれは、私の彼女の美沙都の足だ、
私がいなくなったから、探しに来てくれたんだ!
「私は、ここだ、」
「私は、ここにいる、」
「美沙都、ここだ、」
美沙都は、何事もなく通り過ぎて行った…
あれから、どのくらい時間が経ったのだろう。
もう、諦めていた。
私は、死ぬまでここに居るのだろう。
そうだ、記録を残しておこう。
私が死んだ後、誰かが落ちてきた時に役に立つかもしれない。
カバンから手帳を取り出す。
えーっと、いつからだ、
私の知っている情報を全て書き残そう。
次の人のために、
書き終えた。
私の最後のメッセージまでも書き終えた。
他にすることがなくなった。
気のせいか、
最近、地上を歩く人が少なくなった。
冬なのか?厚い靴を履いている人が増えた。
違う、
防護靴だ、
皆、分厚い防護靴を履いている。
どうしたんだ、いったい何が起きたんだ、
目を凝らして地上を眺める。
真っ赤だ、街が真っ赤だ、
倒れている、
人が倒れている、
燃えている、
人が燃えている、
ああっ、
燃えている人が、こっちを見ている。
手を伸ばしている、
私が見えるのか?
私に助けを求めているのか、
早く、こっちへ来い、
こっちは、安全だ、
早く、
早く、
その人は、そのまま燃え尽きた…
どのくらい時間が経ったのだろう。
地上は、誰も通らなくなった。
人一人通らない。
誰もいない。
私だけが、ここで生きている。
まだ、生きている。
生きている…




