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作家と締切3

焼肉定食


お盆の中。

左側にご飯、その上側にほうじ茶。右側にお味噌汁、中央にメインの焼肉。


薄切りの牛肉と玉ねぎを炒め、タレで甘辛く味付け、レタス2.3枚にポテトサラダが乗るのが一番よく見る焼肉定食だが、八十八夜の焼肉定食は違った。


メインの焼肉が厚さ1センチ弱、大きさ5センチの肉が6枚乗っている。常連客から『ミニステーキ』と言われる焼肉定食は八十八夜の人気メニューだそうだ。

 別皿に塩とタレが分けられていてどちらでも食べれるようになっている。


「ご飯おかわり出来るからね」

春子さんが言い残しキッチンへ戻って行く。


「カフェで出して良いんですか?これ?」

 思わず2人に聞いてしまう。

「食材に妥協はしたくないんだって2人とも」

「お金を出してもらうから、それなりのものを食べてもらいたいっていう気持ちからこだわり続けているんだよ」

 

 1人前900円。肉は柔らかく焼き加減はミディアムレア。食べ応えは充分、ご飯をおかわりしても大盛りにしても値段は変わらず。値段設定おかしくないか?

経営状態は大丈夫なのか心配になる。

 そんな事を考えていると春子さんが席に近付き

「アオちゃん、今回のお肉が丁度良い?前の方が良かったかな?」

 とアオイさんに聞いている。

「このくらいのお肉が良い。前回のは脂が多くて、少しきつかった」

「わかった。ありがとうね、参考にします」

 うんうんと頷きながらまたキッチンに戻って行く。

 ハチが入口に向かって吠える。お客さんが来たようだ。


 食事を進めながら先生と橘さんが一緒に住むようになった話を聞いた。


 1年前、八十八夜で常連の先生と異動で新しいお店を探索していた時に出会い。少しずつ会話をし橘さんが常連客になり始めた頃、先生の家が火事で焼けてしまい橘さんのマンションへ転がり込んだそうだ。


「あの時は大変だった。あと少しで仕上がる所で高槻の母の家に遊びに行って、家に帰ると家が無くなってて玄関だけが残ってた。焦ったなぁ、あの時。とりあえず締切君に連絡してその後、八八に来て春子さんや常連客に話してると橘さんが声をかけてくれたの

『一人暮らしだけど部屋は余ってるしパソコンもネット環境も整ってるからどうですか?』って

 すぐにマンションに行って一気に書いて急いで送って気がついたら主人公、元の世界に戻ってた」

 「原稿送って安心したからか電池が切れたように寝てたもんね。徹夜してたから当然だけど」

 送られた原稿を読んで電話をしたけど繋がらず、印刷所を待たせていたため、そのまま出版された。

 読者からは

「これで結末なのか?続きがあるんじゃないか」

 問い合わせやメールが届き、もう一冊追加することになった。

 

 「保育士さん。預かってもらっていいですか?」

 顔を上げると先程入店して来た男女2人組の女性が先生にチワワを手渡す。 

 「いいですよ〜。ご飯も食べ終わったし」

 チワワを預けると女性が席に戻る。席を見るともう1匹チワワが居た。色や柄が似ていたので兄弟犬かと考えていると

 「今ここに居るのは杏ちゃん。あっちに居るのは柚子ちゃん。似ているけど全くの赤の他人ならぬ他犬」

 と先生が教えてくれ、杏ちゃんを床に降ろしリードを手に杏ちゃんの自由に歩き回らせる。同じ所をぐるぐる回る。飽きる事なくぐるぐると。

 「そろそろ仕事に戻りませんか?」

 つい言葉に出てしまった。

 「アオちゃんの仕事?仕事の途中だったの?ごめんごめん。杏、引き取るわ」

 女性が慌てて立ちあがろうとすると

 「大丈夫。代理の者に預かってもらうから」

 と先生が杏ちゃんを抱き上げ僕に渡した。

 「頼んだよ。代理保育士さん」

 杏ちゃんを膝の上に降ろし爽やかに先生が退場する。言葉にするんじゃなかった。僕の気持ちとは反対に杏ちゃんはジッと僕の顔を見上げている。


 

 


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