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作家と締切

 締切


 この言葉を見て身近に感じる職業は週刊誌に連載している漫画家だろうか

それとも今まさに締切に追われている作家だろうかとそんな事考えながら目的の部屋番号を入力し、呼び出しボタンを押す。

 

「あっ片桐さん。おはようございます。今、開けますね」

 橘さんが出た。今日は土曜日か。自動ドアが開きエレベーターホールまで歩きエレベーターで最上階を目指す。締切まであと3日仕上がっているだろうか、本当の締切は一週間後。

 

 先生には前倒しに伝えている。怪しまれずにいるものの、こちらとしては焦っている。そうこうしているうちに目的地へ着いた。

 

 最上階の角部屋。一応、呼鈴を押す。

ドアが開かれ腕に千里さんを抱えて橘さんが迎えてくれる。

「いらっしゃい。お久しぶりです。締切が近付いてるんですか?アオイさんまだ寝てますよ」

頭を抱えたくなる事をさらりと教えてくれる。

 

 いつものように部屋にあげてもらいリビングで待たせてもらう。橘さんが日本茶を淹れる間、10センチ程襖の開いた隣部屋を睨みつける。この奥に先生が居る。


「昨日、新作ゲームの発売日だったでしょう。手にしてからずっと遊んでましたよ。朝、起きてきたけど二度寝してるのかな?」

「新作のゲームってSNSで話題になったものですか?

ある会社の社員、ほとんどがその日に有給を希望して会社が休みになったっていう。あのゲームですか?」

 首を縦に振りながら橘さんが湯飲みを差し出す。


 お茶のいい匂いを嗅ぎながら一口。苦味が無く甘い。

「美味しい」

 思わず声が出てしまう。今まで口にしなかった味。橘さんに聞くとこのお茶は芽茶というそうだ。

 

 橘さんと話をしていると僕に警戒して距離を取っていた千里さんが隣部屋に入って行く。しばらくして物音が聞こえた後、襖が開かれ先生が起きてきた。


 ボサボサの頭で目を擦りながら待ち人がリビングに来た。

「おはよう橘さん。うん?締切君が来てるね。近付いていたのかな?」

「近付いてますよ。今日を入れてあと3日です」

 首を傾げながら慌てる様子もなく同じテーブルの椅子に座ると同時に橘さんがマグカップを渡す。

 中身は同じ芽茶。一口飲み。

「締切君。なぜ人は締切に追われるというのかね?締切の日は決まっていて自分がその日に近付くのになぜ追われると表現するのか?不思議に思わないか?」

「今はどうでもいい事です。それに僕の名前は片桐で、原稿どうなってますか?」

「あと少しで終わると思う。どうして前巻で元の世界に主人公は戻ったんだろう?戻らなければ早く完結したのに」

 他人事の様に呟く。

 それはこっちが聞きたいと言いたいのを我慢する。

「とにかく明日と明後日も来ますからね」

 あからさまに嫌そうな顔をする。子供かこの人は。


「アオイさんお腹すいてない?そろそろ八八に行こうか、今日は焼肉定食だって。片桐さんもどうですか?」

 そうしようと言って先生が身支度を整え自分の部屋から千里さんを抱っこして出て来る。


 お昼には早いが朝食がまだだったためご一緒する事にする。

 橘さんが鍵を閉め先生が隣の呼鈴を押し千里さんを渡す。

「元々、千里さんはお隣さんの猫だったんだ。お二人とも年を取って猫の世話にまで手が回らなくなって、どうするか迷っていた時に八八で出会ってお互い隣同士だって気付いてうちで飼うことに。たまに預かってもらっているんだ」

 橘さんの説明を聞きどこか古い交流だなと思っていると

「千里さんご夫婦、日替わりをおかずだけ欲しいって」

 お使いごとまで頼まれるのか。この隣人同士だからか、いやこの町だからこそだ。 

 その根源が八八こと日本茶カフェ八十八夜にあると考えている。





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