魔法少女を正気に戻すには?④
あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!
俺は星崎に膝枕をされていたと思ったら、いつのまにか日が暮れていた。
な、何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった。
頭が(幸せすぎて)どうにかなりそうだった……催眠術とか超コズミックマジックだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
訳:気付けば寝てました。
「先輩の寝顔、可愛かったです」
「俺は恥ずかしかっただけなんだが……」
くそ、寝顔をずっと見られてたと思うとすぐに頬が熱くなる。
星崎の膝は柔らかかったし俺の頭をぴったり受け止めてくれたし寝心地は最上のものだった。こんな枕で毎晩寝たいほどだ。
くすくすと幸せそうに微笑む星崎は、来た時と同じように腕に抱きついている。いや、もはやしがみついていると言った方がいいくらいくっついている。
もちろん胸が当たっている。恥ずかしいが、さっきのように星崎に囁かれたら一撃で轟沈する自信があるので何も言わないでおく。
……そもそも言っても言わなくても俺が得してるだけなのでは?
「先輩、晩ご飯に食べたいものはありますか?」
「作ってくれるのか?」
「もちろんですっ。先輩の衣食住はぜんぶ私が管理するんですから!」
星崎は妙に張り切っている。いや、これが星崎の【闇堕ち】なんだ。
闇堕ち、と普通に聞いて浮かぶイメージとは大きく違うが、星崎にとって自分の思うがままに行動することこそ、闇堕ちに違いないのだろう。
そうなると、いつもの星崎はずっと我慢してたってことなのか?
「あー、鯖の味噌煮」
「先輩がお肉以外のチョイスをするなんて……!」
「いや、星崎が煮物料理得意だったの思い出してな」
以前何度かお裾分けしてもらったことがあるが、あの時の煮物は本当に美味かった。
肉じゃがだけでなく魚の煮付けも俺の好みの味付けだったし、きっと星崎と俺は舌が合うんだろう。
「覚えててくれたんですね……」
「星崎にはいつも感謝してるからな」
「ふわぁ……!」
ぶんぶんと星崎が頭を振ったと思ったら、今度はぐりぐりと押しつけてきた。
くすぐったいような、むずがゆいような。でもそんな仕草一つ一つが可愛らしい。
ああもう、今すぐここでぎゅって抱きしめたい! 抱きしめた時点でお巡りさん案件だけど!
「わかりましたっ。腕によりをかけて作ります!」
「あ、ああ。楽しみにしてる」
「それじゃ、買い物に行きましょう!」
「……そうだった。魚とか買い置きしてないしな」
男の一人暮らしの冷蔵庫に生魚なんてそうそうない。自炊する方だが、魚より肉の方がコスパがいいしな。
たまにアジの開きなどを冷凍しておくが、干物より煮物の気分なんだ。
「先輩とお買い物……っふふ。嬉しいです」
「星崎が喜んでくれるなら、俺も嬉しいよ」
「っ……~~。先輩、いきなり恥ずかしいこと言わないでくださいよぉ」
「え、恥ずかしかったか!?」
「恥ずかしいですし、嬉しいですし、なんかもうぶわーーーーって幸せで、爆発しちゃいそうです……!」
リア充爆発!?
「落ち着け星崎。爆発するにはまだ早い。ほら、深呼吸深呼吸」
「ふー。ふー。ひっひっふー」
「それちょっと違うっ」
「ふー、ふー!」
「もっとゆっくり!」
「ふー…………ごほっ、ごほっ」
「ああほら、落ち着けって」
むせてしまった星崎の背中を撫でる。当然片腕は拘束されているので、空いている手で、だ。
つまり自然と星崎を抱きしめるような体勢になってしまった。
し、仕方ないだろ。星崎を介抱するためなんだから!
「げほげほ……ふ、ふぅ。落ち着きました……」
「よかったよかった。さ、買い物に行こう」
「あっ」
摩っていた手を背中から離すと、途端に星崎が寂しそうな表情を見せた。
「………………もっと、してほしかったな」
「ぐふっ」
星崎さん!!!!! 近すぎてね!!!!!!!! 小声でも聞こえちゃうの!!!!!!
でも俺は紳士だから聞こえないフリするしかないの! わかって!!!
「スーパーで買い物。先輩と……先輩と……っ」
「だ、大丈夫か?」
なんか星崎が身体を震わせている。ど、どうしたんだろう。俺と買い物するのがいやだったのか? でも星崎の最近の反応を見るに、それはないと思いたいが――。
「こ、こうやって二人で買い物してると……ふ、ふーふみひゃいでふね!」
「あ、噛んだ」
「噛んでまひぇん!」
「なにこれ可愛いかよ……!」
可愛いのバーゲンセールかよ。
噛み噛みの星崎が可愛すぎて何を言ったか聞き取れなかったくらいだし、いっそのこともっと噛み噛みで喋って欲しい。むしろずっと噛み噛みでも良い。舌っ足らずでも良い。
「……先輩。なんかおかしいこと考えてませんか?」
「いや? 考えてないが???」
「じー……」
「ほ、ほら魚コーナーに行こうぜ! 今日は何が安いかな!」
星崎にジト目で睨まれる。くそ、美少女はジト目も可愛いんだよ! こちとら年下の美少女にジト目で睨まれるのも性癖なんだよ!
「今日は鯖が安いので鯖の味噌煮がオススメだよ!」
「ありが――って四ノ月さんじゃないか」
「秋桜だよ、いぇい!」
「い、いぇい……?」
「先輩ノリわるーい。みぃ~」
「み、みぃ?」
奇妙な鳴き声をする子だなぁ、四ノ月さん。まあ可愛いけど。
休み時間の時もそうだったけど、女の子が独特な鳴き声をしてるのも非常に可愛い。
星崎と四ノ月さんの「にゃー」と「みぃー」の応酬は最高だった。もう一度というか一生眺めていたいほどに。
「秋桜ちゃん、料理できたっけ?」
「出来ないよ!」
「そんな自信満々に言わなくても……」
「えへへ。私は料理上手なお父さんとお母さんがいるからねっ」
話しているだけでも四ノ月さんが両親のことを尊敬しているのがわかる。すぐに両親の話題を出す辺り、本当に親子仲が良いのだろう。
羨ましいな。
「えへへ。今日はお父さんのお膝の上であーんしてもらうんだ……っ」
……ん?
「秋桜ちゃんはお父さんのことが大好きだもんね」
「みぅ! もちろんだよ! 世界一かっこいいお父さんだからね!」
なんかその、ニュアンスに違和感が。え、もしかしてガチ?
「でも瑠那ちゃんのせんぱ「わーわーわーわー!」みっ!? あー、えへへ。忘れてください!」
「いやいや気になるだろ!?」
そんな中途半端に会話を遮られたら誰だって気になるわ!
「……お父さんが呼んでる! それじゃあ私はもう行きますっ。今日は鯖が安いからねー!」
「あ、四ノ月さん」
嵐のような子だった。快活というか、元気が溢れてるというか。なんか露骨に話題を逸らされた感じがするけど、悪い子ではない。
あっという間に四ノ月さんは姿を消した。一方で星崎は、いつも以上に俺の腕を強く抱きしめていた。
不安げな表情で、四ノ月さんが走って行った方を見ている。
「星崎、痛い痛い」
「あっ……ご、ごめんなさい」
「大丈夫だけど。その、どうかしたのか?」
「いえっ。なんでも……ありません」
……そんななんでもあったような表情をしながら言うなよ。俺は星崎限定でおせっかいなんだぞ?
「さ、さあ先輩! 美味しいお魚を買って帰りましょう!」
「そうだな。星崎の料理、楽しみにしてるんだからな」
楽しみにしてるんだ。だから、不安の目はできる限り早く解消しないとな。
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