魔法少女を正気に戻すには?③
"『桜舞うところに黄金の炎が愛を囁く』――これが、管理者を探すために必要な情報だ"
校門で星崎を待ってる間に、昂から貰った情報を整理する。整理と言ってもあいつはこれしか教えてくれなかった。
どうやら管理者の居場所を指し示すヒントらしいのだが、いかんせんさっぱりだ。
一応、星華島の中央には一年中咲き続ける不思議な桜、『永遠桜』があるが、あそこらへんは誰も住んでない。
島の中央は研究施設が多いし、そもそも《管理者》なんて都市伝説は大人だってあまり信じてないんだ。
……でも、星崎を元に戻す方法なんだ。
昂が言っている以上、嘘ではない。こういう時に嘘を吐く人間ではないことくらいは理解してる。
「さて、どうしたものか」
ひとまず永遠桜を目指してみよう。あそこはデートスポットとしても有名だし。
デート。
そう、デートなんだよな。
しかも星崎と。俺の最推しと。
俺何やってるんだ??? 俺はファンであって推しにそんな近づいちゃダメだろ。
でも、星崎とデートはしたい……!
「先輩、お待たせしました!」
星崎が校門から駆け寄ってきた。そこまで距離も離れてないのだから、歩いてくればよかったのに。
「そんなに急がなくても俺は逃げないよ」
「いえ、早く先輩とくっつきたかったんです!」
そう言って星崎はぎゅーっと腕に抱きついてきた。この瞬間がたまらないほど嬉しくて幸せで、でも同時に星崎の事情を知っているだけに複雑な思いに駆られる。
闇堕ち……昂は『欲望を解放する』とか言ってた。
スキンシップが激しかったりするのも、星崎がこういうことをしたかった――ということだろう。
きっと親と離れて一人暮らししていたから、心細かったのだろう。
そして身近にいた年上の存在が俺だったから、星崎はこうなってしまったのだろう。
嫁入り前の娘さんなんだ。とにかく星崎を大事にしないと。星崎みたいな優しい娘が冴えない俺を好きになるわけないしな!
「先輩、どうしたんですか?」
「いや、ちょっと自分自身に毒づいてたらめちゃくちゃ悲しい気持ちになってしまって」
「大丈夫ですか? ぎゅってしましょうか?」
「もう抱きしめられてるが?」
「昨晩のように真正面からですか!」
「いえ……俺の心臓が保たないんで勘弁してください……」
「むぅ……じゃあ、家で、ですね?」
やめてくれ囁かないでくれめっっっっっちゃドキドキするから!
星崎さんは可愛いんですから! 子猫のように愛らしいんですから! そんなこと言われたら惚れちゃうでしょ!? いや好きだけど! 片思いだけど!
でもそれ以上に星崎を大事にしたいんだ!
「さ、さあ行こうぜ!」
「はいっ」
思わず声がうわずってしまったけど、星崎は気にしてないようだ。
星崎の歩調に合わせてゆっくり歩くと、自然と周囲の視線が集まってくる。当然だ。星崎は有名人だしなんだって魔法少女として活動している。
この島で生活していて、日々侵略者と戦う魔法少女たちの名前を知らない人はいない。
魔法少女ミラクル・コスモス。スペルビア・エルル。そして、コズミック・ルナ。
他にも何人かいるが、魔法少女の中で有名なのはこの三人だ。三人並べばアイドル顔負けで、ファンも多い。彼女たちを応援するために避難をしない人もいるくらいだ。
……それはダメだろ(自戒)
「そういえば星崎は、他の魔法少女と普段も交流があるのか?」
「ミラクル・コスモスちゃんとスペルビア・エルルちゃんですか?」
「そうそう」
「コスモスちゃんとは普段から仲良くしてもらってます。エルルちゃんは……」
星崎が「うーん」と首を傾げる。何か気に障ったのだろうか。
「そもそも全然出動しませんし、話したこともほとんどないんです。出会った頃に何度かお話しましたけど」
「けど?」
「『眠いからボクは帰るね! あったかい布団とドーナツが待ってるんだ!』って言って帰ってしまいました……」
「それは……なんというか、個性的だな」
「はい。……だから、その、警戒はしてませんけど」
「警戒?」
いきなり星崎から物騒なワードが飛び出てきた。思わず星崎の方を見ると、俺を見て「むぅ」と口を尖らせている。
どうしたのかと聞き出す前に星崎が口を開いた。
「先輩は、コズミック・ルナだけ見てればいいんです」
「 」
かいしん の いちげき!
大空浩輝の目の前はまっくらになった!
「先輩? ……先輩?」
俺の後輩が可愛すぎる件について。
星崎が俺の腕を抱きしめたまま身体を揺さぶってくる。それにつられて星崎の身体もゆらゆら揺れている。ツインテールもゆらゆらゆらゆら。
「はっ!? 大丈夫。大丈夫だ。出かけた矢先から星崎の可愛さの虜になるところだった……」
「……と、虜になって、いいんですよ? いえ、なって……ほしいです……」
「 」
きゅうしょに あたった!
目の前がまっくらにOK落ち着こう。うん。二度目なんだ。耐えよう。耐えなければ俺は多分死ぬ。
「星崎は何処か行きたい場所があるか?」
「いえ、先輩と一緒なら何処でもいいので、先輩の行きたい場所に連れてってくださいっ」
あぁぁぁぁぁぁもう星崎が可愛すぎる! なんなんだ!? 妹に欲しい! いや彼女になって欲しい! でもこれは俺の一方的な思い込みだから早く《管理者》を探さないと!
「それじゃあそうだな。久々に、永遠桜に行かないか?」
「はいっ」
俺の提案に星崎は迷うことなく即決してくれた。愛らしい笑顔全開で、抱きつく力を強くしてくる。むにゅ、と小さくも確かな感触が腕に当たる。
星崎も気付いているのか、頬を赤らめた。
「あのー……星崎さん、当たってますが」
「…………あ、当ててるんです……」
俺は一日に何回悶死すればいいんですか?
学園から永遠桜には、歩いても三十分も掛からない。星華島はそれなりに広いけど、やっぱり"それなり"だ。
街を進めば次第に街並みに桜吹雪が流れてくる。
いつもの光景で、でも、中心部に住んでない人からすれば幻想的な光景。
「はぁ~……永遠桜への道はいつも綺麗ですね~」
「そうだよなぁ。それで花びらで道が汚れてるとかじゃないんだから、不思議だよ」
「永遠桜も魔法によって制御されてるって言われてるくらいですし、花びらが消えても不思議じゃないですよね」
「エコロジーな魔法で助かったぜ」
「ちょっと寂しいって思っちゃいますけどね」
この坂を登り切れば、永遠桜が待っている。
出来ればそこに、《管理者》がいてくれると助かるんだが。
永遠桜が咲き誇るエリアに足を踏み入れると――視界いっぱいに、桜吹雪が広がった。
ああ、いつ来ても凄い光景だ。
『桜舞うところに』という言葉はここで間違いないと思うけど、やっぱり誰もいなかった。
少し寂しげな空間で、星崎がぎゅっと身体を押しつけてきた。俺が感じた寂しさを埋めるかのように、いつもより強めに。
「少しのんびりするか。せっかくこんな綺麗な光景なんだし」
「そうですね。じゃあ先輩、膝枕してあげます!」
「えっ。えっ!?」
何そのご褒美!?
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