魔法少女を正気に戻すには?②
授業が終わると同時に俺は走り出した。
べ、別に俺が星崎に会いたいわけじゃなくて星崎の為だしな!
なんだか昂に生暖かい目で見られてる気もするけど無視! 星崎最優先!
階段を一つ飛ばして降りて一年生の階へ向かう。星崎のクラスは降りてすぐの教室だ。
教室からは少しずつ下級生が出てきているところだ。
「あっ……先輩!」
「星崎!」
星崎が不安な表情で外に出てきたが、すぐに俺を見つけると笑顔の花を咲かせた。
迷わず俺に駆け寄ってきて飛びついてくる。俺はそんな星崎をできる限り優しく受け止めた。
「ああっ……先輩です。先輩ですぅ……」
「はは。まだ一時間くらいしか経ってないぞ?」
「先輩とは一刹那も離れたくないんですっ」
星崎はぐりぐりと頭を押しつけてくる。まるで子猫にマーキングされているようでくすっぐたい。俺も思わず星崎の頭を撫でてしまう。
「はふぅ……なでなで気持ちいーです……」
「うりうりうりうり」
「にゃ~……」
星崎は目をうっとりとさせてまどろんでいる。ああくそ、可愛い。たった一時間離れてただけなのに、どうして俺までこんなになってるんだ……!
「みー」
「にゃ~……先輩。もっとー……」
「うりゃうりゃ」
「にゃふ~……」
「みーーーーーーー」
「うおっ!?」
「はにゃ!?」
星崎を撫でるのに夢中になっていて、俺たちを見ている女の子にまったく気付けなかった。
赤い髪の女の子は、くりくりっとした目で俺たちを――とりわけ星崎を興味ありげに眺めている。星崎より少しだけ背は高いが、それでも平均よりかは低い。
こめかみ当たりの毛色だけ少し青いのは、彼女もまた《来訪者》であることを告げている。
「し、秋桜ちゃん。いつの間に……」
「瑠那ちゃんが教室飛び出したところから?」
「は、はぅぅぅぅ」
星崎が俺の腕の中で真っ赤になっている。え、俺への過剰なスキンシップしておいて恥ずかしがるの? 何それ可愛い。
「先輩が瑠那ちゃんがいつも喋ってる大空先輩ですか?」
「ああ。大空浩輝だが……」
「四ノ月秋桜だよ。よっろしくぅー。みぅ!」
顔の前で横ピースを決めている女の子は元気よく自己紹介をしてくれる。
うん。この子も可愛い。星崎ほどじゃないけど。俺の推しはあくまで星崎瑠那であり魔法少女コズミック・ルナですので。
「へー。へっへへーん」
「秋桜ちゃん? どうしたんですか」
「瑠那ちゃんがいつも楽しく話してくれる先輩に会えて光栄だなーって」
「だ、だめです! 秋桜ちゃんでも先輩は渡しませんっ」
「大丈夫だよー。私はお父さん一筋だし!」
……ん?
「うぅー。うぅー……」
星崎が顔を真っ赤にしている。朝のように警戒するわけでもなく、ただただ友達にからかわれて恥ずかしがっている。
どうしよう、可愛いしか出てこない。ちなみに星崎はずっと俺の腕の中だ。もちろん周囲の視線も集まっている。
「瑠那ちゃんかーわーいーいー! 先輩、瑠那ちゃんをくださいっ!」
「え、あ、はい」
「先輩!?」
四ノ月さんが両手を広げたので、試しに星崎を渡してみる。
するとすぐに四ノ月さんが星崎を抱きしめた。こ、これは……!
「真っ赤な瑠那ちゃん可愛いー! すりすりしちゃうよー!」
「ひゃあ! にゃあ!?」
「ほれほれここがええんかー!」
「にゃ、にゃぁぁぁ……っ」
――俺は昨夜、楽園があったと思った。
でも違った。本当の楽園はここにあったんだ……っ。
秋桜×瑠那。尊い。尊い。てぇてぇ…………!
「し、しぇんぱい~」
「瑠那ちゃんすりすりー! みみみみー!」
「にゃー!?」
星崎が俺に助けを求めて手を伸ばしている。だが済まない。今星崎を助ければ、俺は確実に四ノ月さんとの間に割って入らなければならない。
百合の間に挟まる男は許されない。
それは世界のルールなんだ。
「星崎、お昼はどこで食べようか」
「今話す内容ですか!?」
「中庭の隅っことかオススメですよ。誰もこないんで普段は私と瑠那ちゃんはそこで食べてますので!」
「なるほど。貴重な情報をありがとう」
「いいえいいえ! こんな可愛い瑠那ちゃんが見れてるのも先輩のおかげですので!」
俺のおかげ? 何でだろう。
いや……今はこの至福の光景を眺めさせて貰おう。
「星崎、次の休み時間も来るから……四ノ月さんと末永く仲良くな?」
「は、はい――って違いますよっ。私は先輩一筋ですからね!?」
「瑠那ちゃん瑠那ちゃ~~~~っ」
「にゃぁぁぁぁぁぁ…………」
授業を知らせるチャイムが鳴ったところで、四ノ月さんがズルズルと星崎を連れて教室に戻っていった。……あれ。もしかしてこのクラス、いつもあんな二人を見られるの?
ずるくね?
+
「むー」
「星崎? ど、どうしたんだ?」
「むーーーー」
「おーい、星崎ー」
「むーーーーーーー!」
星崎がむくれている。試しにほっぺを突いてみる。
「へぷっ」
「うぉ、可愛い」
柔らかいほっぺを突いてみたら思った通りに息を吐いた。
というかですね。約束通り中庭の隅っこでお昼を食べにきたわけですけど。
どうして星崎は俺の膝の上にいるんですかね? ベンチなんだから並んで座れば良いのに。
「私は先輩に見捨てられました」
「見捨てたって……」
わかってくれ星崎。百合の間に挟まる男は死ななければならないんだ。その代わり百合を眺めることだけは許されているんだ。
「この悲しみは朝の三倍先輩とのスキンシップをしなければ解消されませんっ」
「……あー、うん。どうぞ」
「まずは先輩から抱きしめてくださいっ」
……ん? なんか星崎、朝と少し様子が違うな。
朝はとにかく星崎から俺に抱きついてたけど、今度は星崎から求めてきている。
いや俺からしてみればどっちでも嬉しいんだけど。
とりあえず言われた通りに抱きしめる。
……うわ、ちっさい。強く抱きしめたら壊れてしまいそうだ。
自分から抱きしめると、予想以上に星崎は華奢だった。
自然と俺の顎が星崎の頭の上に乗る。あまりにも近すぎて星崎の匂いがダイレクトに俺の鼻をくすぐる。
あぁ、星崎って良い匂いだ。甘いキャンディのような匂いは、いくら抱きしめていても飽きない。
「ふわ……先輩に抱きしめられるの……すっごくいいです……」
「星崎は小さいな。力を込めると、壊れちゃいそうだ」
「……壊れるくらい、激しくしても……いいんですよ?」
……~~~ああもう、星崎が可愛すぎる。
正直このままずっとくっついていたいが、そうするとお昼が食べれない。
せっかく星崎がお弁当を作ってくれたんだから、しっかり堪能しないと。
「星崎、お弁当を食べよう。星崎のお弁当が食べたい」
「は、はいっ」
可愛らしい包みのお弁当を開くと、色とりどりのおかずが所狭しと並べられている。
どれも俺の大好物で、中には昨日作った俺お手製のハンバーグも入っていた。
少しばかり大きいお弁当は、最初から二人で食べるつもりで作ったのだろう。
「よいしょっと」
星崎は名残惜しそうに身体を離すが、すぐにちょこんと横に並ぶ。
箸を手に取ると、朝と同じくおかずを摘まんで俺の口に運んでくる。
「先輩、あーん」
「あーん」
恥ずかしいが、二回目ともなれば戸惑っていられない。
星崎のお弁当は幸せの味がした。幸せの味しかしない。
「もぐ……ん、あ、そうだ星崎」
「はい?」
星崎の方を振り向くと、幸せ満点の星崎が見えた。あまりにも幸せな笑顔で、俺と過ごしてそんな笑顔をしてくれているのがたまらなく嬉しかった。
「放課後、デートしないか?」
思わず言葉に出てしまった。
《管理者》を探す目的はある。でも……それ以上に、星崎の笑顔が見たい。
星崎はちょっと驚いた顔をして、すぐに頬を赤らめた。
「……はい。私も、先輩とデートがしたいです」
この時の星崎の赤らめた顔を、俺は絶対に忘れられないだろう――。
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