魔法少女を正気に戻すには?
コメディランキング、9位までいけました。ありがとうございます!
「む~……」
「星崎? ほら、そろそろ離れないと。な?」
「む~~~~っ」
いつもはきっちりしてる星崎が、離れたくないとばかりに俺の腕を抱きしめてイヤイヤしている。え、なにこの我が儘可愛すぎる。
もちろん魔法少女してない星崎なら簡単に振り払えるんだけど、それだけは出来ない。
だって離れようとするだけで涙目になるんだよ。俺は星崎に対して心を鬼にすることなんて出来ない!
「お昼は一緒に食べるから、な?」
「むーーーーー」
「星崎ー?」
「……さびしーです」
「ぐふっ」
そのリアクションは反則だろ!?
抱きしめたい衝動をぐっと堪えて、星崎の肩を掴んで身体を離す。
「あっ」
しゅーんって寂しい表情をしないでくれ! 俺の心がマインドクラッシュ!
「休み時間に迎えにいくから、な?」
「ほんとですかっ!?」
「ああ。もちろんだ。俺も星崎と一緒に過ごしたいし」
「絶対ですよ? 絶対ですよ!?」
俺の提案がよっぽど嬉しかったのか、星崎は頬を赤らめながらにぱーっと笑顔を見せてくれた。
納得してくれた星崎はぶんぶんと手を振って俺を見送ってくれる。階段を昇ると、昨日振りに一人になる。
……なんか、どっと疲れた……!
「……はよーっす」
やっとの思いで教室にたどり着く。自分の席に座ると、ぐでーっと机に身体を投げ出した。
星崎との密着は非常に嬉しかったが、慣れないことはするもんじゃない。
だってあんな可愛い星崎が懐いた子猫のようにすりすり来るんだぞ。思わず抱きしめてひたすら撫でたくなるじゃないか。
でも今の星崎は正気じゃない。闇堕ちしてる。そんな状態の星崎につけ込むなんて、魔法少女コズミック・ルナのいちファンとして最低だ……!
「おー浩輝。来たのか。そのままハネムーンにでも行くのかと思ったんだが」
「やっぱりからかいにきやがったな???」
机に突っ伏している俺に声を掛けてきたのは、にやにやと意地の悪い笑顔を浮かべているクラスメイトだ。
篠茅昂。一見普通の男子高校生にしか見えないが――《来訪者》だ。
魔法少女以外の、俺が知ってる数少ない来訪者の一人。
魔法のある世界からやってきた異世界人。
それしか知らない。それ以外は……人をからかったり人の弱みを探すことが大好きな、少し(?)趣味の悪い奴だ。
「見てたぞ。ついに手を出したんだな?」
「出してねーよ!!! 推しに手を出すとかファン失格だわ!!!!」
「は??? どうみても人格レベルで変化してたが? どこからどう見てもお前が何かやらかしたって意見しか出てこないぞ」
「いやまあそりゃ星崎に一番近いのは俺だってわかってるけど! コズミックファンクラブだって周知の事実だろう!?」
「ああ、そうだったな。手を出せるわけがないヘタレって理解されてるもんな。ごめんな……」
「やめろ同情するな一番傷つく!」
「はっはっは。 知 っ て る」
「お前さぁ」
ダメだ。何を話してもからかわれる。落ち着け。俺の目的も昂に会うことだったんだから、さっさと本題に入るべきだ。
「で、星崎を助ける方法を探してるのか?」
「いやお前なんでそんな話が早いというか……なんというか……」
……俺がこいつを邪険に出来ない理由は、この物わかりの良さだ。
異様に察しがいいというか、状況判断が早い。校内で一番情報通ってのもあるんだけど、こいつはきっちりオンとオフを分けてくる。
きっと、くたびれてる俺を少しでも解すためにああやってからかってくれたのだろう。
……いや、それは違うか。こいつはそういう方面に気が回る奴じゃない。こいつの性格の悪さは折り紙付きだ。
「星崎が懐いていてもああやって感情を表に出すような魔法少女ではない。いつもいつも魔法少女の責務がどうとか言い出すタイプだ」
「ああ、そうだよ。魔法少女コズミック・ルナは使命を果たす存在だ」
「そう。だから今の星崎は普通じゃない。なら、一番近いお前が何かしらの事情を知っている。そしてお前は魔法に疎いから、星崎を助けるために俺に助言を求めに来る。こんな推察、幼稚園児でも出来るさ」
「言われればそうだが……」
昂が扇子を取り出して広げる。今日は『天上天下唯我独尊』と書かれていた。
「さあ話せ。俺が知ることなら答えてやろう」
「助かる。実はな……」
昂に昨日の経緯を話す。
星崎が闇堕ちしたこと。そして俺のお世話を始めたこと。一緒に寝たことは伏せたけど、どうせバレてるだろう。
昂はふむふむと頷いている。思い当たる節があるのか、扇子を閉じたと思えば思いっきり開いた。
『グリード・コアヌス』と書かれている。いやどんな手品だよ。
「グリード・コアヌス。脅威度は非常に低いが、なかなかに狡猾な奴だよ」
「どんな風に?」
「人の欲望を解放させる。欲望に支配された人間を見てけらけら笑う愉快犯」
「性格が悪い。まるで昂みたいだ」
「一緒にするな。俺はもっとスマートにやる」
「張り合う必要性ありますか???」
「ないな。……まあ、脅威度が低い理由はまさにそれだ。グリード・コアヌスは別に街を壊すわけではないし、危害を加えるわけではない。むしろ――――いや、なんでもない」
珍しく昂が言い淀んだ。なんだ? 何か不味いことでもあるのか?
「おい昂、ちゃんと全部話してくれ。星崎に少しでも危険が迫るなら、どうにかして対処しないと」
「落ち着け魔法少女オタク」
「魔法少女オタクじゃねえよコズミック・ルナ一筋だよ」
「うわキツ」
「うっせ」
ゲラゲラとひとしきり笑った昂は大丈夫だとばかりに俺の肩を叩いてきた。
まあ、本当にやばいことならこいつはしっかり教えてくれる。
それでも、とりあえず現状の打開案が欲しい。このままじゃ俺の理性が保たない。
「それで昂、星崎を元に戻す方法はないのか?」
「三つほどあるが?」
多いな。いや、脅威度が低いから多いんだろう。
「一つは、星崎の欲望を解消させる。二番目に簡単なのはこれだな。お前の自制心次第だが」
「無理です理性が保ちません」
「据え膳」
「は??? 推しに手を出すファンがいてたまるか」
「うわ限界オタクきつ」
「いいから他のを教えてくれ」
三つもあるんだ。二番目に簡単と言っていたし、もっと簡単なものを……!
「二つ目の方法はグリード・コアヌスを倒す。まあ隠密して星崎を監視してるだろうから、見つけるのは難しいが」
「ああ、よくある元凶を倒すって事ね」
「そういうこと。で、三つ目は――《管理者》を見つけること」
「管理者?」
管理者って、あれだろ。都市伝説の。
十年ほど前に突如として開いた《ゲート》。異世界からの侵攻を、たった一人で食い止めた最初の《来訪者》。
《侵略者》を退けた《来訪者》は、以降は《ゲート》を監視しこの島を守っている――と言われている。
「都市伝説じゃないのか?」
「俺だってこっちに来る時に会ってるんだが?」
「そうなのか?」
それは初耳だ。そもそも表だって活動してるヒーローは多いし、《管理者》なんてもういないと思っていたくらいだ。
「《管理者》は異世界のことをほぼ全て知っている。グリード・コアヌスへの対処手段も全部知っている」
「それじゃあ、《管理者》を見つけられれば!」
「すぐにでもグリード・コアヌスによる闇堕ちから助けてくれるだろう」
道が見えた、気がする!
星崎のためにも、俺の理性のためにも、一刻も早く闇堕ちから救うべきだ。
「それで、《管理者》ってのはどこにいるんだ!?」
「知らん。身近にいて、誰よりも遠いところにいる――それがあいつの口癖だしな」
「じゃあどうやって《ゲート》を守ってるんだよ!?」
「逆ギレすんな。星華島はそこそこ広いが、別に探しきれないわけじゃない。懸命に探せば良いだけだ」
「それは……そうだけど」
俺は少しでも早く、星崎を解放してやりたい。
闇堕ちして、正気じゃない時にちょっと仲が良いだけの先輩にあんな風に身を捧げるのはよくない!
「まあ星崎にデートしようって言えば探せるだろ」
「……騙すのは気が引ける」
「騙す? は? お前星崎にゾッコンラブのくせに??? はぁ~~~~~~~~これだから童貞は」
「どどど童貞ちゃうわ!」
「は?」
「すいません許してください」
……と、とにかく放課後になったら《管理者》を探しに行こう!
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