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正月短編 魔法少女と初詣

今回の内容は本編の半年後くらいの時系列となっております。




「瑠那、眠くないのか?」

「んにゅ、大丈夫です……」


 眠そうに瞼を擦りながら、瑠那は必死に起きているアピールをしてくる。

 今日は12月31日の大晦日、時刻は23時30分を過ぎたところ。

 あと30分もしないで年が明けるといったところで、瑠那の眠気は限界を迎えている。


「眠いなら寝ていいんだぞ? 起きてから行けばいいんだし」

「い、いえ。いきます。いくんです。先輩とはつもうで……っ」


 初詣。

 『一緒に夜に初詣に行きたい』――そう瑠那が提案し、俺は頷いたんだ。

 恋人になってから半年が過ぎてすっかり仲も深まったが、やっぱり年越しは年越しで特別なものだ。


 俺としては朝になってからでもいいと思うんだけど、何か譲れないものがあるらしい。


「ふにゅ……にゃにゃ……」

「ほら瑠那、寝ないで」

「にゃ……!」


 こっくりこっくり船をこいでいた瑠那を思わず抱きしめる。ちょっと強めに。


「せ、先輩。これ逆効果です……っ」

「そうなのか? 瑠那はいっつも俺とくっつくの好きだからこうしたほうがよかったかなって」

「……先輩とくっつくと、ふにゃってしちゃうんです。気が抜けちゃって寝たくなっちゃうんです」

「俺としては瑠那と一緒に寝たいんだけどな」


 俺自身は夜更かしも大丈夫なんだけど、瑠那はいつも早寝早起きだ。だから夜更かしに慣れてないのもあって辛そうだが――。


「ほら瑠那、あと十五分くらいだぞ」

「ん、ふにゅ……。がんばります……っ」


 他愛のない話をしたり、年末特番を眺めながら刻一刻と時間が過ぎるのを待つ。

 そして、その時はやってきた。


『5!』


 テレビのリポーターがカウントダウンを始めた。船をこきつつあった瑠那も流石に目を開き、わくわくしながらカウントダウンを待つ。


『4、3、2、1、0ーーーーあけましておめでとうございます!』


 テレビから聞こえてくる歓声に思わず瑠那が飛び跳ねた。さすがにちょっとボリュームの大きさに驚いたのだろう。


「し、しぇんぱい! あけましておめでとうございます!」

「ああ、あけましておめでとう。今年もよろしく」

「末永く、よろしくお願いします」


 向かいあって深々と頭を下げる。末永く、って……なんか違う意味にも取れちゃうけど。まあ、概ね間違ってはいない。

 瑠那とこれからもずっと年を越していきたいのは、俺もだから。


「それじゃあ、星華神社に初詣に行くか」

「はいっ」


 瑠那と手を繋いで出ようとしたところで――インターホンが鳴った。

 二人して顔を見合わせて首を傾げる。こんな時間に一体誰が……?


「はい、どうぞ」

「おう。初詣に行くぞ!!!!!」

「春秋さん!?」

「みっみみー。私もいますよー」

「秋桜ちゃん。あけましておめでとうございます」

「あけましておめでとうだよ瑠那ちゃん! みぃー!」


 春秋さんと四ノ月さんだった。春秋さんは着物だし、四ノ月さんは振り袖だし。

 桜色で白い花びらがあしらわれた振り袖はとても四ノ月さんに似合っていて、普段と違って大人びて見える。


「振り袖、すごく似合ってるね」

「でしょー! お父さんが用意してくれたんだ!」


 四ノ月さんは嬉しそうにその場でくるくると回ってみせる。にこにこと上機嫌な四ノ月さんを見ている瑠那もにこにこだ。うんうん、仲良きことは美しきかな。


「振り袖か。……瑠那も似合うんだろうなぁ」


 ぽつりと呟いて想像する。瑠那の和装……着物姿……うん。最高にいい……!

 瑠那は控えめな性格だし、(他意はないけど)振り袖がとても似合いそうだ。


「振り袖、ですか。……うぅん、さすがに用意はしてませんでした」

「あ、ああいいんだよ大丈夫だ。どんな瑠那でも俺は大好きだから!」

「先輩……!」


 しまった、瑠那が落ち込んでしまった。慌ててフォローして抱きしめる。


「お父さん、バカップルがいます」

「バカップル爆発しろ」

「あなたがそれを言いますか!?」


 四ノ月さんとのスキンシップは俺たち以上に過剰な親馬鹿なのに!


「まあいい。初詣に行こう」

「……まあ、瑠那がいいなら」


 初詣に行きたいと言ったのは瑠那なんだ。だから、俺の意志よりも瑠那を優先したい。


「私はいいですよ。先輩がいれば、それだけで嬉しいです」


 ……あーもー! 俺の彼女可愛すぎないか!?


「よし。じゃあお嬢ちゃんに俺がプレゼントをあげようではないか」

「プレゼントですか?」

「その場から動くなよ? ――星の華よ、我がイメージを形にせよ」


 パチン、と春秋さんが指を鳴らした。どこからか桜の花びらが吹き込んできて瑠那を包んでいく。

 「ふにゃ!?」と瑠那の驚きの声と共に花びらが姿を変えていく。

 瑠那はいつのまにか私服ではなく振り袖姿になっていた。四ノ月さんのとはまた違う、少し濃いめの青い振り袖に。

 星の絵柄があしらわれていて、『コズミック・ルナ』のイメージにもぴったりだ。


「おおおおおおおおお!!!!!!! 可愛い!!!!!!!!!!」

「わ、ふ、振り袖です……!」

「わーわー瑠那ちゃんも似合うよー!」

「よし、これで準備は整ったな。あぁ、そういえば後でお年玉も用意してるから期待しておけ」

「え」

「そんな、振り袖まで貰って受け取れません!」


 瑠那にこんな綺麗で可愛い振り袖をプレゼントしてくれたんだ。これ以上甘えてはいけない。

 瑠那もそう思ったのだろう、さすがに両手を振って断っている。


「馬鹿野郎。子供は大人に甘えるもんだ。子供は子供でいる。それが子供の特権だ」

「でも……」

「あ? いいのか? 俺から受け取らないと後日返送不可のブラックカード送るぞこの島で一生遊んで暮らせるカード送るぞ???」

「あ、ありがとうございます……」


 そんなもの貰ったら俺は一生自立できなくなる。瑠那は俺が養いたいくらいだし、素直に甘えておこう……。いやお年玉貰うくらいでどうしてこんな気疲れしないといけないんだ……?


「はっはっは。それでいい。行くぞ、目的地は星華神社だ!」

「れっつらごー!」

「……はは。それじゃ行こうか、瑠那」

「はい、先輩」


 先を行く春秋さんと四ノ月さんの背中を見ながら、瑠那と手を繋いで歩き出す。

 騒がしいけれど、瑠那と見つめ合っている時は気にならない。

 小さくて柔らかい瑠那の手。これからもずっと、守り続けたい。







「すっごい人だかりですね」

「わかっていたことだがな。盛況であることは喜ばしいことだ」

「迷子にならないように手を繋いでおかないとね!」

「よし秋桜、何から食べるか。今日はお前にお小遣いなんて一銭も使わせないぞー!」

「それはどうかな。私は十二分にお小遣いを貰っています。だから今日は私がお父さんにご馳走しちゃうよ!」

「まあ予め全ての店に注文通してあるんだけどな」

「み!?」


 …………何をしているんだろうか、この親子は。


「はっはっは。秋桜の考えなんてお父さんには通用しない。さ、露店巡りだ!」

「みみみみみ……! つ、次こそは!」


 次こそ、ってお祭りがあるごとに毎回やってるのか……?


「お前たちも食え。どうせ食べ切れんほどの量だ」

「は、はい」

「でも無理して食わなくて良いぞ。友人を呼んでいるから、残ったらそいつが全部食う」


 友人……春秋さんに友人……? あ、朝凪先生か。


「さあ、露店巡りをしながら神社に行こう。今年一年の祈願をしないとな!」


 ……この島の《管理者》でも、神様にお祈りするんだ。

 いや多分春秋さんのことだから四ノ月さんと過ごすイベントってくらいにしか思ってないだろうけど。

 なんとなくだけど、この人はそんな人だと思う。世の中のどんなイベントも、全部四ノ月さんのために盛り上げる――春秋さんにとって、四ノ月さんは宝物だから。


「先輩、私たちも行きましょう」

「そうだな。食べるものは春秋さんのを貰うけど……せっかくだし、いろいろ遊んでいくか」

「はいっ」


 ぎゅぅ、と瑠那が抱きついてくる。手を繋ぐよりも密着し俺の腕に頬ずりしてくる。

 少し恥ずかしげに頬を赤く染めつつも、にっこりと微笑む。ああもう俺の彼女可愛すぎる!


 春秋さんたちを追いかけながら、瑠那と二人ゆっくりと歩いて行く。星華神社は盛況だけど、歩けないほど混雑しているわけではない。

 のんびり露店を見ながら神社を目指せる。


「お、大空と星崎じゃないか。あけましておめでとう」

「あけましておめでとうございます、朝凪先生」

「おめでとうございます」


 声を掛けられたから誰かと思えば、さっきちょうど噂をしていた朝凪先生だった。

 両手一杯の焼きそばをこれでもかと食べている。……何人前なんだろう。


「っはー、露店の焼きそばもレベルが高くなってきて嬉しいもんだ。次は何を食おうかなー」

「春秋さんが露店の食べ物を全て注文したと言ってましたけど」

「おお、聞いてるよ。大丈夫、誰がどう残しても俺がしっかり食べきるから!」

「いや……食べ過ぎでは……?」

「ははは。大丈夫大丈夫。しっかり運動してるから」


 確かに朝凪先生は細身だし太っているわけでもないけど……うん、深く考えないようにしよう。


「あ、そうだ。教師として言っておかないといけなかったな」

「はい?」

「振り袖の星崎にトキめいて『姫初めです』とかやるなよ? 不純異性交遊は控え目にな?」

「しませんよ!? って控え目なんですか!?」

「当たり前だ。若い衝動くらいは大目にみるさ。でもお前はまだ責任が取れる立場じゃないんだから、そこら辺はしっかりと意識しろ」


 ぽんぽんと頭を軽く叩かれる。優しげな説教に思わず瑠那の顔が真っ赤になってしまっている。


「それじゃあ俺はもう三周くらい喰ってくるわ。じゃあなー」


 そう言い残して朝凪先生は去って行ってしまった。

 コホンと咳払いして瑠那と再び歩き出す。

 まあ、そこまで大きい島ではない。知り合いにあるのも何ら変なことではない。

 が……。


「……バハムートさん、何をしているんですか?」

「おや、大空様。あけましておめでとうございます」


 バハムートさんがいつもの執事服でたこ焼きを焼いていた。

 そのチョイスは何なんですか!? ミスマッチすぎるでしょ!?


「あけましておめでとうございます。あれ、ナナクスロイさんは……」

「先輩、エルルちゃんが家から出るわけないと思います」

「そうですね。エルル様が家から出ると思いますか?」

「……………………そうでしたね」


 きっと今頃「お布団さいこー!」とか言いながらごろごろしているだろう。いや時間が時間なだけに夢の世界かもしれない。


「お二人とも、ひとまずはこれを受け取って貰えますか?」

「え? あ、はい」


 突然バハムートさんに渡されたのは、よく見たことがあるポチ袋。

 って、これは。


「私とセルシウスからお年玉です。昨年はお二人と知り合えたので、せっかくのご縁です。受け取ってください」

「あ、その……ありがとう、ございます」


 ――子供は子供でいる。それが子供の特権だ。


 春秋さんの言葉が頭を過ぎって、引っ込めそうになった手を止める。

 バハムートさんが好意でくれるのだから、受け取らない方が失礼だろう。


「バハムートさん、ありがとうございます」

「いえ。星崎様もその格好、とても素敵ですよ」


 ニコっとバハムートさんが微笑んで、俺たちはポチ袋を仕舞う。


「ついでに食べていきますか? 《管理者》からお二人の分もと注文を受けていますが」

「あはは……。じゃあ、いただきます」


 熱々出来たてのたこ焼きを受け取って、ベンチに腰掛ける。まだ熱くて食べられないけど、少し休憩だ。


「凄い賑わいなんですね、星華神社って」

「そうだなぁ。普段は寂れてるっていっても仕方ないレベルだけど、夏と冬だけはかなり賑わうんだよな」

「そうなんですか。ぜんぜん知らなかったです」


 瑠那は俺と違って島の外から来たから知らなかったんだろう。さきほど買っておいたジュースを握りしめながら、ぼんやりと夜空を見上げる。


 星華神社は永久桜に近い。だからなのか、桜の木はあまりないけど桜が夜空を舞っている。

 炎の明かりに照らされた夜空を見上げて、風に流れる桜を眺める。

 幻想的な光景で、穏やかなひととき。


「この景色も、瑠那が守っているから見られるんだよな」

「先輩?」

「瑠那だけじゃない。四ノ月さんや春秋さん、島を守るヒーローがいるから、こうして平和に暮らすことが出来ている。……ほんと、頭が上がらないな」


 いつ《侵略者》が来るかわからない島だけど、恐ろしいと感じたことはほとんどない。

 瑠那――コズミック・ルナをはじめとした、島を守るヒーローたちがいるから。


 ぴと、と瑠那がくっついてきた。先ほど以上に、頭をぐりぐりと腕に押しつけてくる。


「私は、先輩がいるから戦えるんです。先輩を守りたいから、今もコズミック・ルナとして活動できるんです」

「ああ、そうだな」

「だから、だから……」


 瑠那が何を言いたいかはわかるし、瑠那がどうして言葉にしないかもわかる。

 瑠那は恩を売りたくない。けれど、戦う原動力は俺にしか求められない。

 だから俺は、抱きつかれている腕を強引に振りほどき、その手で強く瑠那を抱き寄せた。

 「あ……」と小さな声が漏れる。恥ずかしくて瑠那を顔を見れないけど、しっかりと言葉にする。


「俺は、星崎瑠那を愛している。ずっとずっと一緒にいたい。瑠那が嫌だっていっても、俺はずっと瑠那の傍にいる。ずっと傍で、瑠那を支え続ける。瑠那のことが、世界中の誰よりも大切だから」

「……先輩」

「俺に戦う力はないけれど、瑠那の日常を守ることくらいは出来る。だから、瑠那の心を、俺は守るよ」

「……~~~っ」


 瑠那も俺の腰に手を回してぎゅっと抱きついてくる。


「だから改めて。あけましておめでとう、瑠那。今年も――これからも、ずっとずっとよろしくな」

「はい先輩。ずっと、ずーっと一緒です!」


 瑠那と見つめ合って、そっと唇を重ねる。とてもとても大切な彼女を、これからもずっと守ると誓うために。

 除夜の鐘が星華神社に木霊する。俺は瑠那を抱きしめる力をさらに強くして、二度と離さないと自分自身に誓うのであった――。

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