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安らぎのひととき。




 幸せなら何かと聞かれたら、俺は胸の中の暖かさだと答えると思う。


「先輩、あーんっ」

「あーんっ」

「あむっ。……えへへ。先輩に食べさせて貰えると、おいしさ百倍ですっ」

「百倍しかないのか?」

「元が無限大なので何百倍でも無限大ですっ」

「瑠那は可愛いなぁ」

「えへへ。えへへっ」


 瑠那は俺の膝の上でちょこんと小さな身体を丸めている。そのままおやつのプリンを食べさせているけど、もう動作の一つ一つが愛らしくて堪らない。


 最近は家事は分担してるし、瑠那は瑠那で甘えたい時にこうやって思いっきり甘えてきてくれる。頼られているのがわかるのは非常に男冥利に尽きるってもんだ。

 それでも料理や洗濯などは瑠那の比重が大きい。俺はというと女の子と一緒に暮らしている以上、掃除といった力仕事を優先している。


 もちろん瑠那を手伝いもする。俺だって一人暮らしをして長いから、料理だって自分で作れるしな。

 まあ、料理は基本的に瑠那が譲ってくれないんだけどな。

 「先輩の食べるものは私が全部作りたいんですっ」って言ってくれるんだぜ……幸せすぎて爆発しそうだよ、ほんと。


「先輩先輩、あーんっ」

「あーんっ」

「あむっ!」


 瑠那が急かしてくるのに応えてスプーンを瑠那の口元まで持っていく。左手を回して瑠那のお腹を抱きしめているが、こう、小動物に餌付けをしているようで見ていて和む。

 可愛いなぁ。このまま顎をくすぐったりしたいなぁ。でもプリン食べてる瑠那を見るのも幸せだなぁ。


 休日のちょっとほんわかしたひとときは、非常に幸せな時間だ。

 ここ数日は《侵略者》も来ないし、来ても他の魔法少女やヒーローが出動してるようで瑠那にまったくお呼びが掛からない。


「そういえば瑠那、パワーアップしたんだって?」

「はい。ユーくんの力と、元々の私の適正……光と闇、二つの属性を混ぜて使えるようになったんです」

「ははーん。それで強くなりすぎてお声が掛からなくなったとかか?」

「あはは。……実は、そうらしいんです。《管理者》さんから、『お前は緊急時以外はそこまで出動しなくていい』ってまで言われてますので」

「まじか。冗談のつもりだったのに」

「私はその方が先輩との時間が増えて嬉しいんですけどね」

「瑠那……。ああもう、俺の彼女は最高に可愛いなぁ」

「えへへ。私のか、彼氏も……かっこいいですよっ」

「そこで恥ずかしがるのがまた可愛いんだよなぁ!」


 瑠那はすっかり俺に甘えてくれるようになったけど、まだいろんな部分で恥ずかしさが表に出てくる。正直な話、いつまでも初心な反応を見せてくれるのはとっても嬉しいしいつ見ても飽きることがない。


 ……まあ、夜は俺が甘えてるんだけどな。

 夜の瑠那はなんかこう……小悪魔というか、従いたくなる感じが凄いんだよ。包容力が凄い。とにかく凄い。瑠那が両手を広げただけでふらふらと吸い込まれてしまうほどだ。

 細かく語ろうとするとノクタっちゃうから語らないが……夜の瑠那も、最高だ。


「先輩。すりすりすりすりっ」

「あはは。くすぐったいぞー」

「にゃ~」


 プリンに満足した瑠那が胸元に頬ずりしてくる。ツインテールの髪がゆらゆら揺れて肌をくすぐってくる。俺は堪らず瑠那の頭を撫でる。逃げられないように左手はぎゅっと瑠那のお腹を押さえ、これでもかとばかりにくしゃくしゃと頭を撫でる。


「にゃ。にゃ。にゃーっ」

「ああもう俺の彼女が可愛すぎる……!」


 自分に小動物属性と猫属性があって本当に良かった……性癖特攻すぎて尊死しそう……。


「はぁ。幸せだなぁ」

「私も、幸せです」

「ずーっと、こんな幸せが続いて欲しいわ」

「……にゃっ!? せ、先輩。それって――」


 ……あっ。

 思わず口から飛び出してしまった。

 いや、それはその、はい。そういう意味なわけで。


「……えっと。その、だな」

「……じー」


 見られてる。すっごい見られてる。目を逸らしてるけどわかる。凝視されてるし、その言葉をずっと待たれてる。


「……指輪と一緒に、言いたい」

「……っ。~~~~~!?」

「だから、その……待ってて、くれないか? いつかきっと、伝えたい言葉と一緒に、

大切なものを形にして贈るから」

「はい。はい……っ!」

「愛してる。俺は、星崎瑠那を、愛してる。これだけは、ずっと信じていておくれ」


 瑠那は俺の言葉に感極まったのか、両手を俺の背中に回して抱きついてくる。

 いつも以上に密着して、大好きな女の子の温もりを身体で感じる。抱きしめたら壊れそうな華奢な身体。けれどもしっかりと熱を感じるその想いも何もかもが愛おしい。


「先輩、大好きです。私はずっと、ずっと待ってますから。この大好きって想いはぜったいに、色褪せません!」

「ああ。俺もわかってる。瑠那は俺を待ってくれるって。だから俺も頑張れる。大好きだよ、瑠那」

「先輩……っ」


 瑠那が瞳を閉じた。何を期待しているかは手に取るようにわかる。

 瑠那の顎に手を添える。以前は触れた時に身体を震わせていたけど、今ではすっかり慣れたようだ。

 俺を待ってくれている瑠那に向かって、俺はそっと唇を重ねる。


 何度しても飽きることのない唇の逢瀬(キス)

 飽きるわけがない。この胸に、愛しい人への想いが溢れているのだから。


 溢れそうになる想いを愛しい人と交換するのがキスだ。

 そうしてお互いの想いを共有して、溢れそうになったらまたキスをする。

 幸せはそうやって、大切に育まれていく。

 枯れることのない永遠桜のように、いつまでも、ずっと、ずっと――――ずっと、いつまでも。

読了ありがとうございました。

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