結集、魔法少女。②
―――エルル視点。
ミラクル・コスモスとコズミック・ルナが合体攻撃によって《侵略者》を倒す。
実に簡単な方法だし、ボクの剣が真っ正面から通用しないなら有効な手段だろう。
もっとも、ミラクル・コスモスがどこまで本気で言っているかはわからない。
……島から離れたら弱体化するとか、状況が限定されすぎてる。だいいちそんな魔法は星獣との契約で得たものではない。
あれはミラクル・コスモス個人の魔法であって、魔法少女としての力は他にあると思うんだけど……。
まあ、別にいっか。
本人が隠したいなら、ボクがわざわざ暴く必要はない。
ボクはボクのやるべきことをさっさとこなして、暖かいお布団にゴーホームだ。
「グランドフォードよ、応えろ」
握る剣に魔力を込める。
ボクの異世界にある、神竜が治めている山の名を冠した剣。
ボクが本当の本当にこの剣に頼れば、あの《侵略者》くらいなら一撃だ。
《管理者》に「そうすると島も壊れるからやめろ」って釘を刺されてるからやらないけど。
「あの子たちが決める瞬間まで、時間を稼ぐよ」
だから精一杯、今のボクに出来ることをやろう。
あんまり手加減は得意じゃないんだけどなぁ。
……と、いうか。
「舐められてるよね。《侵略者》にも、《管理者》にも」
そう思うとちょっとだけ腹が立ってきた。
確かにボクはぐーたらでニートで引きこもりだけど――。
「――これでも一応、ボクはSランクって分類されてるんだよ?」
《侵略者》と《来訪者》の違いは、要するに星華島に危害を加えるかどうか。
ボクは危害を加えるつもりはないけど、《来訪者》として招かれる場合も、脅威ランクの査定は《管理者》直々に行われる。
ボクが《管理者》によって与えられたランクは、S。
魔法を振るうだけで島を滅ぼせるだけの存在。いや、存在すら認められないと言っても過言ではない――と、《管理者》は言っていた。
そんなボクが、今では力を抑えてひっそりと暮らしてる。
そんでもって魔法少女? はぁ……。
正直魔法少女だなんてやってられない。ボクは自分が剣を握って前線に出るタイプの魔法使いじゃないのに。
はぁ。はぁ。はぁぁぁぁ……。
「ほんっっっっっと面倒くさい。イライラしてきた」
この怒りは、全部《侵略者》にぶつけさせてもらおう。
翼に力を込めて加速し、目標へ一直線。ボクに気付いた《侵略者》が、一斉に触手を放ってくる。
「――はぁっ!」
グランドフォードを振り払い、触手の全てを切り払う。
おそらくボクにだけ向けられている。けれど、万が一後ろのミラクル・コスモスたちに向けられてはせっかくの必殺技がおじゃんだ。
だから、全てをねじ伏せる。
「■■■■!?」
あ、驚いてる。……まあ、向こうからしたらちっぽけな人間が自分の触手を一撃で切り伏せたら驚くか。
見た目で判断してくるようなら、たいしたことない《侵略者》だ。
むしろ小さい相手にこそ気を付けるべきでしょ。
小さいのならそのデメリットを覆す何かを持っている。
そこを疑うべきでしょ。戦いの基本だよ。
……ボクが戦いを語ってもあれだけど。
「うぇえ。まーた触手? 気持ち悪いなぁ」
ようやくボクを脅威と定めたのか、たくさんの触手が《侵略者》の体中から生えてきた。
触手は一斉にボクに向かってくる。見ている限り、後ろの二人に向けられている感じはしない。
雨のように迫る触手をかわしていく。触手の動きはそんなに早いモノではない。ボクの方が遥かに早い。接近してきた触手を纏めて切り飛ばし、移動する。
もはや作業だ。触手をおびき寄せて、たたっ切る。数が多すぎるけど、別に捌けないわけじゃない。
切って、切って、切り落とす。
何本の触手を切り落としたかもわからないほどに切り続けた後に、さすがのボクもめんどく……我慢の限界だ。
「あー、もーっ!」
野菜の加工業者じゃないんだから、触手ばっかりひたすら切ったら飽きるでしょそりゃ!?
二人はまだなの? この程度の《侵略者》を倒すための技がそんなに時間がかかるものなの!?
……おっと。それはいけない。昔からの悪癖だ。
誰もがボクのものさしで生きているわけじゃない。だからボクの勝手な決めつけで、二人をバカにしちゃ――。
「…………にっこり」
「あ」
触手を切るついでに後ろの二人に目を向けたら、コズミック・ルナは一生懸命目をつぶって魔法に集中していた。
ミラクル・コスモスは……うん、明らかに集中してない。集中してないわけじゃない。ちゃんとコズミック・ルナとの合体攻撃の術式を準備している。
でも余裕綽々といった表情をしている。緊迫感がなければ緊張している様子も一切見られない。
要するに、だ。
この戦いは最初から、コズミック・ルナのために用意された戦いだったんだ。
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。あの《管理者》さぁぁぁぁぁぁぁぁ」
なに? そんなことのためにボクはわざわざ引っ張り出されたの?
ご飯と家族と読書とお布団をこよなく愛するこのボクを?
あぁー! もう!
「八つ当たりしてもいいよね? 返事は聞かないッ!」
いいよ。思惑通りには動いてやるよ。
《管理者》が嫌な顔するくらい報酬を引き上げてやる。せめてそれくらいしないとボクの気が収まらない。
「グランドフォードよ、吼えろッ! 我は偉大なる召喚師にして、魔女の名を持つ者なり!」
『これ』は《管理者》にも止められているけど、このくらいしないと気が済まない。
大丈夫大丈夫。ちゃんと島とは逆方向に放つから。
何か起きてもアフターケアもしっかりするし。
うん、よし。自分への言い訳完了。
この剣は特別だ。何度も言うけど、生まれ故郷の聖域とされている山の名を名乗っているだけはある。
グランドフォードに魔法を宿す。
火の魔法。水の魔法。風の魔法。土の魔法。雷の魔法。光の魔法。闇の魔法。
七つの魔法。七つの属性。その全てを剣に乗せて。
「――――ぶち抜けぇぇぇぇぇぇッ!!!!!」
テスタメント・セブンスグレア。
七つの魔法を全て同時に、斬激と共に放つ大技だ。
普通の人間、いや、普通の魔法使いでは魔法を重ねるなんてこと、出来やしない。
こればっかりは特殊な才能が要る。ましてや才能がある人間でも、二つか三つが限度だ。
ボクが重ねられる魔法属性は最大で八つ。これでもまだ全力じゃない。
だって全力出したら島が沈むし。
《管理者》ならもっと上手く手加減するかもね。知ったことかって感じだけど。
「■■■■~~~~~ッ!?」
苦悶の叫びを上げながら、《侵略者》が体勢を崩す。ボクの放った技によって、四本ある足の内二本が吹き飛んだからだ。
……あーあ。ちょっとミスった。もっと綺麗に身体を両断するつもりだったのに随分なまったなぁ。
なまってもいいんだけど。外に出たくないし。
「……さ、これでお膳立ては終わったよ?」
「みみみ。ありがとねーエルルちゃん! ――ルナちゃん!」
「は、はい!」
どうやらボクが技を放つ瞬間を見届けていたのだろう。
背後から魔力が膨れ上がる。ミラクル・コスモスの魔力と、コズミック・ルナの魔力。
振り返れば、コズミック・ルナの槍状となったステッキをミラクル・コスモスが一緒に握っている。その先端には桜の花びらが集っていて、全ての魔力を集中させているのがよくわかる。
なるほどね。桜の魔法でコズミック・ルナの魔法を強化しているわけだ。
……ん? コズミック・ルナの魔力がいつもと違う?
いつもはもっと真っ白な、聖属性――ユニコーンの力なんだけど。
今はそこに、何かが混ざってる。何かじゃない。本来は相容れない属性が、そこに混ざっている。
それは闇よりも暗き属性。全てを飲み込む暗黒の属性。
『冥』と名付けられている、極めて特殊で特別な属性だ。
光と闇が混ざる――それ以上に、聖なる力と混沌の冥の力が一つとなる。
こればっかりは、ボクも見たことがない。
「行きます。一撃必殺、コズミック・カオス・ブラスター!」
そして放たれた光と闇の一撃が、瞬く間に《侵略者》を飲み込んだ――――。
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