結集、魔法少女。
――――瑠那視点。
嵐の前の静けさです。
《管理者》さん……秋桜ちゃんのお父さんから言われた通りに、私は今星華島の港に立っています。
秋桜ちゃんも来てくれています。でも、エルルちゃんの姿がまだ見えません。
……相手はまだ戦ったこともない脅威ランクAの《侵略者》。
不安がない、といえば嘘になります。秋桜ちゃんやエルルちゃんがとても強いのはわかっていますけど、それでも勝てる、と即答出来ない自分がいます。
「みっみみー。エルルちゃん遅いねー」
そんな秋桜ちゃんは気楽にふらふらしながらエルルちゃんを待っています。
秋桜ちゃんは私よりも強いから、きっと不安になったりしないんだろうなぁ。
いけないいけない。不安になっちゃいけない。
私たちの背に、星華島の未来が掛かっているんだから。
星華島……いえ、私としては先輩の未来が掛かっています。
大好きな先輩。優しくて、かっこよくて、私のことを誰よりも理解してくれる人。
「……えへへ」
昨日はたっぷり愛してくれました。私からおねだりしたからか、先輩はいつも以上に激しく応えてくれました。
今も先輩が私の中にいるようで、私は幸せ一杯です。
このまま先輩に染められたい……けど、そればっかりに夢中になるわけにもいきません。
だって私は、《侵略者》と戦う魔法少女の一人なんだから。
公私混同はいけませんっ。
「みー……?」
「どうしたの、秋桜ちゃん」
秋桜ちゃんが私を見ているかと思ったら可愛らしく首を傾げました。
「瑠那ちゃん、すっごい元気そうだね。それに、いつもと違う匂いがするよー」
「にゃ!?」
に、匂いって!? せ、先輩の!?
「んー……すんすん。満たされてる感じがする。瑠那ちゃん一人じゃない感じ。あれだね。瑠那ちゃんは先輩の想いも一緒に背負ってるんだねっ」
…………どうやら秋桜ちゃんが言っている『匂い』は別のようです。
ですよね? 変な風に思われてないですよね?
「う、うん。私は、先輩のためにこの島を守りたいから」
「うんっ。そうだよね! 私もお父さんのために戦うし、大好きな人のためならいくらでも力が湧いてくるよね!」
秋桜ちゃんが手を握ってきてはしゃぎ出す。
……うん。秋桜ちゃんの意見に賛同です。
大好きな人――先輩のためなら、いくらでも力が湧いてきます。
「…………二人とも、随分早いんだね」
「あ、エルルちゃん」
「エルルちゃんだーーーーー! ひっさしぶりーっ!」
「だーきつーくなー!」
少し遅れてエルルちゃんが来てくれました。秋桜ちゃんは久々だから嬉しくて飛びつきましたけど、エルルちゃんはあんまりスキンシップが好きじゃないみたい。
「みーみーみーみー!」
「抗議したって駄目なモノは駄目でしょ……」
「あははは……。秋桜ちゃん、落ち着こうね」
「み~…………」
秋桜ちゃんをエルルちゃんから引き剥がすと、エルルちゃんは落ち着いたのかほっとため息を吐く。
「はぁ……めんどくさぁい……」
「エルルちゃん、今日は来てくれてありがとね」
「あー、うん。まあ、あんまり《管理者》に逆らい続けてもあれだしね……」
遠い目をしているエルルちゃんを余所に、秋桜ちゃんがスマホを取り出す。
ピ、と秋桜ちゃんがボタンを押すと《管理者》さんの声が聞こえてきました。
『お、全員揃ったようだな』
《管理者》さんの声は少しノイズが混ざっています。
話によれば、《管理者》さんは《ゲート》の中で私たちより激しい戦いをしているようですが……きっと、今も戦っているのでしょう。
『お前たちにはここから南東に向かってもらう。海上での戦いになる』
海の上での戦い……ですか。
普段は空の上と言っても下は陸地です。海上での戦いは初めてのことになるので、正直予想がつきません。
『まあ普段から空の上で戦ってるからそこまで気負う必要はない。肩の力を抜いていけ』
「は、はい」
「まあそうだよねー。お父さんお父さん、頑張るから終わったらご褒美ちょうだいねー!」
「……さっさと終わらせて帰ろうよー。布団が恋しい……」
秋桜ちゃんとエルルちゃんは全然緊張してないみたいで羨ましいです。
私はまだちょっと、不安と緊張で上手く動けるか心配です……。
『まあまあきちんと勝った暁には報酬も用意してるから、期待しててくれ』
「は~い!」
「いや報酬とかいらないんだけどな~……」
エルルちゃんは渋々といった表情で本を取り出した。
あれがエルルちゃんの契約アイテムみたいです。同じように秋桜ちゃんは羽ペンを取り出したので、私は倣ってステッキを構えます。
「それじゃ、行こうか!」
秋桜ちゃんが先導を切ってくれます。羽ペンを使って空に文字を書いていくのが、秋桜ちゃんが変身するルーティーンです。
「……はぁ。さっさと終わらせよーよ」
どこまでもダウナーですが、エルルちゃんはエルルちゃんで本を開きました。本から流れ出た文字がエルルちゃんを包んでいきます。
「……変身しますっ!」
続けて私も、ステッキを振り回して魔方陣を描きます。
三者三様の変身を経て、三人の魔法少女が降り立ちます。
桜色のドレスと藍色のマント――花びらを纏うミラクル・コスモス。
七対十四の羽を広げ、皇帝のように君臨する漆黒の鎧装束――大剣を携えるスペルビア・エルル。
そして、白と黒のドレスを身に纏う私――コズミック・ルナ。
コスモスちゃんとエルルちゃんほど個性があるわけではありませんが、私は私なりに頑張ろうと思います。
大好きな人を、守るためにも。
「それじゃ、しゅっつげーき!」
コスモスちゃんの声を皮切りに、みんなで南東の沖合を目指します!
一斉に飛び立って海上を進みます。海はとても静かで、船の一隻も通ってません。
もしかして、これも《管理者》さんが避難させてくれているのでしょうか。
難しいことは考えていても仕方ありません。私は私に出来ること……《侵略者》の迎撃に集中した方がいいですね。
「もうそろそろお父さんが言ってたポイントだよー」
「……見えた!」
「あれが……脅威ランクAの怪獣……」
海の中から姿を現したのは、何本もの触手を生やした巨大なタコのような《侵略者》でした。
タコといっても頭部は岩のようにゴツゴツしていて、触手の他に四本の足で巨体を支えています。
小さな羽で空にも浮いてますし、移動要塞といった印象が強いです。
……今までに見てきた《侵略者》とは明らかに違う、異質の存在。
これが、脅威ランクAの《侵略者》。果たして私たちは勝てるのでしょうか。
「コスモス、突貫しまーす!」
「違うでしょ。こういう先陣はボクの役目」
「み゛っ゛!?」
突撃しようとしたコスモスちゃんをエルルちゃんが引き留めました。
……確かにこういう得たいの知れない存在が相手の場合、耐久力と攻撃力に秀でたエルルちゃんが適してます。
私も耐久力には自信がありますが、私にはあの触手群を切り開くほどの力はありません。
「……それじゃ、行くよ。竜王が剣よ、ここに目覚めろ。――グランドフォード・エンペル」
エルルちゃんが名前を呼ぶと応えるように大剣が唸り声を上げます。
翼をはためかせ、一気に突貫するエルルちゃん。迫り来る触手を大剣の一振りで振り払い、重戦車のような勢いで突撃します。
「■■■■ーーーー!」
「よっと……。かったいなぁ」
触手を切り伏せたエルルちゃんが頭部へ肉薄します。頭部を守るように上がってきた腕へ剣を振り下ろすと、触手の時とは逆にエルルちゃんの大剣が弾かれてしまいました。
「グランドフォードが通らない外殻なら、ボクの役目は露払いかなぁ。出来るよね、コスモスちゃんなら」
私たちと同じラインまで戻ってきたエルルちゃんがぼやきます。
エルルちゃんの一撃を防がれた……それなら、火力の切り札はコスモスちゃんになります。
けれど、コスモスちゃんは「みぃー」と唸ったと思えば首を横に振ってきました。
「ここは島から少し離れてるから、花びらが足りないんだよね。私の魔法は島の桜を使ってるから、島から離れちゃうとちょっと心許ないの」
確かに、いつもよりもコスモスちゃんの周りの花びらが少ないような気がします。
「だから、ルナちゃん!」
「は、はい?」
「私と合体しよ!」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
そ、そんな。私には先輩がいるんですよ!?
「……や、合体攻撃って意味では?」
…………こほん。最近なんだか思考が変な方向に全力疾走してる気がします。夜になったら先輩になでなでしてもらって意識を修正しようと思います。
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