魔法少女共同戦線。③
二人で登校して、お昼休みはもちろん一緒に食事をして、そして放課後になれば瑠那を迎えに行って二人で春秋さんの家へ向かう。
「怒られるんですかね。……その、先輩としちゃったことで」
「春秋さんはそういうことで怒らないとは思うけど……」
電話した時もそこを追求はしてこなかった。学生同士の不純異性交遊を咎められるのかと思ったが、春秋さんはそこらへんは一切スルーしていた。
むしろ『その後』のことを気にしていた。だからこそ俺たちは春秋さんの家へ向かっているのだが。
「あ、お待ちしてました~」
「失礼します」
「し、失礼しますっ」
家の前まで来ると待っていたのかフェニックスに通されると、相変わらずリビングで春秋さんが俺たちを迎えてくれた。
四ノ月さんは……あれ、いない?
「秋桜は別の用事で出掛けて貰ってる。まあ話題も話題だしな」
「あっ……はい」
「……~~~っ」
春秋さんの言葉に俺は気まずくなるし瑠那は顔を赤くする。そりゃ……なあ?
「よし、じゃあさっそく本題に入ろう。フェス、ユニコーンを連れてきてくれ」
「はい~」
「……もういる」
「お、行動が早いのはいいことだぞ」
隣の部屋に繋がる扉が開かれたと思えばユーが姿を現した。
表情は明らかに不機嫌だ。口を開けば暴言が飛んできそうな状態にも見える。
「大空浩輝」
「お、おう」
「殴らせろ」
「理不尽!?」
「五月蠅い黙れお前はあれだけ僕が言っていたのに瑠那に手を出したじゃないかそこになおれユニコーン直々に罰を与えてやるー!!!!!!!」
ユーがズカズカと近づいて来たが春秋さんが間に割って入ってくれる。さすがにユーも管理者相手には分が悪いのか、歯ぎしりをして俺を恨めしそうに睨んでくる。
「落ち着けユニコーン。今はそんな話をしてる場合じゃない」
「ぐ……ぐぐぐぐぐ」
「というか、だ。そもそもどうしてお嬢ちゃんはまだ魔法少女の力を失ってないんだ?」
「……え?」
そう言えばと春秋さんが付け加えてくる。
……確かにそう言われると、違和感がある。
瑠那はユーと契約して魔法少女になっている。その契約の条件として、処女であることが必要条件だったはずだ。
「まあ察しはついてるが。グリード・コアヌスによって得た魔力のおかげだな」
「……そうみたいだな。僕も詳しいことはわからないが、まだ僕と瑠那の間に契約のラインも残っている」
「怪我の功名というべきか。結果的にグリード・コアヌスのおかげでコズミック・ルナの力は失われていない」
「それでも僕の、星獣ユニコーンの力の大半は失われている。今の瑠那は元々の属性と合わせて完全に闇属性になっている」
「んじゃーそっからまずはどうにかしないとな」
春秋さんがぱん、と手を叩く。するとすぐに世界が歪む。
うわ、なんだこれ。視界がぐにゃぐにゃする感じで……。
「時よ、巻き戻れ」
春秋さんがそう言うと、歪んだ視界がさらに歪む。世界が反転していく。足下がおぼつかない。あまりの気持ち悪さに倒れそうになる。
「先輩、私が支えてますから」
「瑠那は、大丈夫、なのか?」
「高密度の魔力です。魔力に慣れてれば、なんとかなります」
瑠那に支えて貰ってなんとか体勢を持ち直す。
春秋さんはそんな俺を見てにやっと笑う。
「ま、初めての奴はみんなそうなるよ。今、この空間は時間が巻き戻っている。そうだな……だいたい三日くらいか?」
え、と思ってスマホを開く。液晶に表示されている日付は、確かに三日前のものだった。
……いまいちよくわからない。時間が巻き戻ってる? え、ちょ。いやーあははは。漫画やゲームじゃないんだから。
「お? なら今すぐお前を子供の時代まで巻き戻してやろうか?」
「すいませんさらっと心を読むのやめてもらえませんか!?」
「先輩の子供時代……?」
「瑠那もちょっと期待してるような顔をしないで!」
「し、してませんよ?」
「ところ構わずいちゃつくんだな、お前ら……」
……は!?
「まあいい。ほらユニコーン。さっさと契約の更新をしろ。今は全てが三日前の状態だ。お嬢ちゃんと小僧がヤる前だろう?」
言葉! 言葉を選んでください!
「……はぁ。《管理者》様の異次元チートっぷりにはいつも感謝してますよ」
「はっはっは。心にもない世辞ならいらんよ」
「全くだ」と言いながらユーが両手を広げると、一枚の紙片が現れた。
瑠那が紙片を受け取り、一緒に覗き込む。魔法少女の契約書……初めて見るな。
【契約の更新について】
◇魔法少女コズミック・ルナとの契約に対し、以下の条件を変更する。
変更に際し、コズミック・ルナの魔力量は減少する。
変更点:契約条件の[処女]を削除。
……うん。特におかしいところはないな。
「瑠那、これで大丈夫か?」
「問題……なさそうですね」
「お前たちは僕をどんな風に見てるんだ……」
え、処女厨で瑠那に目を付けた変態だけど。
「おう、終わったようだな」
「問題なく更新完了しましたよ。ありがとうございます《管理者》様」
「よしよし。ようやく本題に入れるな」
……本題?
春秋さんが待ってましたとばかりに手を叩くと、歪んでいた世界が元に戻る。
ふら、と足下が揺れる感じには慣れそうにない。
「ひゃっ」
瑠那にしがみついて支えて貰おう。不意打ち気味だったから瑠那の可愛い声が聞こえた。なんか得した気分になる。
「……本題に入るぞ。いちゃつくのは家に帰ってからにしろ」
「うっす」
「~~~っ」
瑠那と並んで座る。ユーは春秋さんの隣に座り、フェニックスさんがそんな俺たちを見てニコニコしている。
「で、本題だが……お前たちにはある《侵略者》を迎撃してもらいたい」
「《侵略者》ですか?」
「それに……お前"たち"って」
瑠那が春秋さんの言葉に気付く。
そうだ。俺は戦力としてカウントされるはずがない。だから『俺たち』って言い方がおかしい。
「そうだ。今回はコズミック・ルナ、ミラクル・コスモス。そしてスペルビア・エルルによる合同迎撃作戦だ。――魔法少女共同戦線。今回は、脅威ランクAの非常に凶悪な《侵略者》を相手にしてもらう」
春秋さんの言葉に、瑠那がぎゅっと手を握りしめた。
……瑠那が不安に感じてる?
そうか。普段相手にしてるのはDやCランクの脅威ランクが低い相手なんだ。
それをBランクを飛び越してAランク。……それがどれほどやばい相手なのかは、俺にも検討がつかない。
「俺は《ゲート》内部で別の奴を相手にしなくちゃならない。だからお前たちに頼むしかない。……この島を、任せるぞ」
「……はいっ」
春秋さんの言葉に責任感を感じたのか、瑠那は真っ直ぐな瞳で答える。
そんな瑠那を見て……俺は、何か出来ないのだろうか。
いや、この島を守るとかそんな大それたことじゃない。
瑠那の恋人として……瑠那を支えていきたい。
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