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魔法少女共同戦線。②




 ――暖かい匂いがする。


「……ん」


 トントントン、と優しい音が聞こえてきてゆっくりと意識が浮上する。

 身体を起こすと、布団の中にいつもの温もりがないことに気が付いた。


「あれ……るな……?」


 いつもは一緒に起きるか俺が瑠那の寝顔を堪能しているのに。

 音が聞こえてきたキッチンへ視線を向ければ、制服に着替えた瑠那がキッチンに向かっていた。


「あ、先輩起きました?」

「あ、ああ。おはよう……」


 瑠那は笑顔で俺を迎えてくれる。……凄い上機嫌? と、いうより――。


「瑠那、なんか楽しそうだな」


 浮かれてるというか……浮き足立ってるというか。


「えへへ。わかりますか?」

「うん。いつもより笑顔が明るい」

「……えへ。先輩は私のこと、なんでもわかってくれるんですね」


 口元を手で隠す瑠那がたまらなく可愛い。身体を動かす度に揺れるツインテールが愛嬌を振りまいている。

 うん。今日も俺の彼女が最高に可愛い。


「せ~んぱいっ」

「おぉっ」


 瑠那がにこにこ笑顔で飛びついてきたのを慌てて受け止める。瑠那は俺の胸元に顔を埋めると、すりすりと頬ずりを始める。俺に心を許しきっている感じで、恥ずかしさを通り越して嬉しすぎて頭を撫でる。


「にゃふ……っ。えへへ。嬉しいです。私、やっと先輩のものになれました」

「……っ」


 瑠那の言葉で昨夜のことを思い出す。……かぁぁぁ、と顔が熱くなるのが自分でもわかった。


「瑠那は……その、身体は大丈夫なのか?」

「はい。ぜんぜん大丈夫ですっ。……まだ先輩が私の中にいるみたいで、とても、とーっても嬉しいですっ」


 いやごめんその言葉は嬉しいんだけど絶対に外でしないでくれ。

 でも……そうか。喜んでくれてるのか。


「瑠那、ちょっとぎゅってしていいか?」

「ちょっとじゃなくてもいいんですよ?」

「じゃあ、ぎゅーっ!」

「にゃーっ」


 感極まって瑠那を思いっきり抱きしめる。すっぽりと腕の中に収まる彼女が愛おしくて堪らない。目が覚めたばかりで汗の匂いが気になるが、瑠那は構わないとばかりにすりすりしてくるしクンクンと匂いを嗅いでくる。


「瑠那、汗臭いだろ? シャワーでも浴びてくるよ」

「いえ、大丈夫です。私先輩の匂い大好きですからっ」


 いやそれはそれで恥ずかしいんだけどな!?


「っふふ。せーんぱいっ。大好きです……」


 瑠那はうっとりとした目で俺を見つめてくる。どうやら瑠那はスイッチが入ってしまったようで、誘惑するかのように身体を押しつけてくる。


 今日は平日だよな? でも時間はまだまだあるし……よし。


「瑠那、キスしていいか?」

「はいっ。私も先輩としたいですっ」


 瑠那は待ってましたとばかりに目を閉じて顔を向けてくれる。

 俺は瑠那の愛らしい頬に手を添えて、唇を重ねようとして――――突如として流れてきた着信音に思いっきり雰囲気をぶち壊された。


「ん、せんぱぁい。はやくぅ……」

「ちょっと待ってくれ。さすがにこのままじゃ五月蠅くて――って」


 ずっと鳴りっぱなしのスマホを止めてしまおうと手を伸ばすと、表示されていた名前に驚いた。

 いや確かに前回登録したけど……春秋さんはなんでこんな朝から?


「んにゃ。せんぱい?」

「ごめん瑠那。管理者……春秋さんからだ」

「にゃー……」


 んー、と可愛らしく顔を向けてくる瑠那を優しく制す。

 さすがに《管理者》から連絡だ。無視するわけにもいかない。

 着信を押すと、軽快な声が聞こえてくる。


『おー、卒業おめでとう』

「覗いてたんですか!?」

『阿呆が簡単な引っかけに騙されるな』

「あっ……」


 どうやら俺は盛大な自爆をかましてしまったようだ。


『ははは。それは別にいい。手を出したって事は、ちゃんとユニコーンとの契約も上書きしたってことだろ?』

「…………あっ」

『おいなんだその"あっ"は』

「………………その、すっかり忘れていて」


 冷や汗がだらだらと流れてくる。瑠那はそんなことも構わないとばかりに真っ正面から抱きついてくる。俺は無言で瑠那の頭を撫でながら、春秋さんの言葉を待つ。


『まあだいたい予想はしてたけどな』

「その、すみません」

『謝るな謝るな。そこら辺はぜんぶめんどくさい契約内容にしたユニコーンが悪い。うーんそうだなぁ……ま、なんとかするか』

「なんとか出来るんですか!?」

『馬鹿野郎俺は管理者だぞ。その気になれば星華島をまるごと異世界転移することだって出来るわ』

「しないでくださいね?」

『ははは。秋桜が望まない限りはやらないよ』


 星華島の未来は四ノ月さんの肩に掛かっている……!


『その確認が出来ただけでも十分だ。なんか朝からお前の家の方角から凄い魔力がダダ漏れだったからな。すぐにお嬢ちゃんのってわかったけど』

「えっ」

『お嬢ちゃんに言付けしておいてくれ。嬉しいのもいいが、もうちょっと魔力コントロールしないとモロバレだぞって』

「え……あ……はい……」

『しっかりしろ。お前がお嬢ちゃんを守るんだろ?』


 そう言って春秋さんは通話を終えてしまった。スマホを置いて、俺の胸に頬ずりしている瑠那の頭をもう一回撫でる。

 可愛いなぁ。ほんっっっっとうに可愛いなぁ。


「なぁ瑠那。その……春秋さんから、『もうちょっと魔力コントロールしないとモロバレだぞ』って言われたんだけど」


 俺は正直魔法のことなど何一つわからない。瑠那だって《来訪者》じゃないから詳しくはないだろうけど、自分のことだから少しはわかっているはずだ。

 瑠那は俺の言葉に首を傾げたと思ったら、一拍置いて顔が真っ赤になっていく。


「あ、あ、あ~~~~~…………っ!」


 ゆでだこのように顔を真っ赤にした瑠那が、大声を上げながら身悶える。

 とはいえ暴れ回るわけではない。むしろ俺に抱きつく力を強くしていくくらいだ。


「ち、違うんですっ。先輩と……その、したことを広めたいんじゃなくてっ。えと、その、嬉しくて、そっちに気を配れなかったんですっ」

「いや、まあ俺はそこらへんの事情疎いからさ。詳しくはわからないんだけど……その、つまり、瑠那の感情が余所の魔法使いにバレバレってこと?」

「…………はい。私、ってところまで絞れるかどうかはわかりませんが……」

「まじかぁ」


 俺の瑠那の感情を知ろうとする奴全員足の親指をタンスの角にぶつければいいのに。いやぶつけてしまえ。そして感じ取ったその魔力について全部忘れろ。


「そこも含めて春秋さんに相談しに行くか。放課後……までに変なことが起きなければいいけど」

「はい。……ごめんなさい、先輩」

「なんで謝るんだよ。瑠那が嬉しいなら俺も嬉しい。これは俺たち二人のことなんだから、瑠那が一方的に謝る必要なんてないんだよ」

「先輩……」


 顔を上げた瑠那がそっと俺の手に手を重ねてくる。しっとり小さい手はふにふにで、細い指先が俺の指に絡んでくる。

 恋人つなぎ、だよな。……想像以上に密着感があって、好きだな、これ。


「先輩の手、おっきいです。こうしてると……凄く、落ち着くんです」

「そうだな。俺も安心する。瑠那がここにいるんだなってわかるし」

「先輩……」

「大丈夫だよ瑠那。これから先、なにがあっても俺が瑠那を守るから」

「はい。私も、たくさん頑張って先輩を守りますっ」


 ちゅ、と小さなキスをして幸せの約束を交わす。

 この手に感じる暖かな幸せを、頑張って守り抜いていこう。

 その為にも……まずは、春秋さんに相談だな。瑠那の契約の件もあるし。


 ……というかそっちが本題だよな。


 ユーが怒りそうな気もするが――まあそこは、春秋さんになんとかして貰おう。ユーが怒って契約を破棄するようなら、それこそ俺が一生を掛けて瑠那を守っていく。


 いっそのことプロポーズの言葉と指輪を用意しておくか? その為にはバイトをするべきか……だがそれで瑠那との時間を減らすわけにもいかないし……っく……!


 とりあえず、瑠那の作ってくれた朝食を食べて学園に行こう。話はそれからだ。

読了ありがとうございました。

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