三人目の魔法少女。②
「大変お見苦しいものをお見せしました」
バハムートさんが頭を下げる。そしてバハムートさんの背中からナナクスロイさんが俺を覗いている。
すっごい警戒されている。……、ああ。故意ではないにしても下着を見てしまったのだから、当然だろう。
「ハムちゃん、この人だれ……?」
「大空浩輝様です。お隣にいるのが、こちらは星崎瑠那様――コズミック・ルナ様です」
「あー、うん。コズミックさんはわかる。見たことある」
ナナクスロイさんに視線を向ければすぐに隠れてしまう。まあ、追い出されてないだけマシだと前向きに考えよう。
「お久しぶりです、エルルちゃん」
「……ルナちゃん、だよね」
「はい」
「……」
ああ、瑠那が声を掛けても隠れてしまった。さすがに瑠那もショックを受けているのか苦笑いを浮かべている。
「……何しに来たの?」
「エルル様、お二人は《管理者》様からのお手紙を持ってきてくださったのです」
「あの親馬鹿チート陽キャの? 追い返して良いのにぃ……」
「害はないと判断しました。それに彼らを招き入れたのはセルシウスなので」
「……せ~る~ちゃ~ん~?」
「大丈夫よ、エルルは私が守るから! だから安心して私の背中に隠れて良いのよバハムートそこ代わりなさい!」
「いえ、代わりません。エルル様は望んで私の後ろに隠れたのですから、つまりあなたより私の方が安心できるとエルル様が判断したのです。主の意志を尊重するのは配下として当然ですよね?」
「うぎぎぎぎぎぎ!」
……え、っと。
なんかコントが始まったんですが。
瑠那もぽかんとしてるし……あのー、俺たちを置いて話を進めないでくださいー……。
「おっと。いけませんね。エルル様、とにかくお二人から預かりました封筒がこちらにありますので、目を通してください」
「やだ。どうせ出撃要請でしょ?」
「そうでしょうけど、一応は目を通さなくてはなりません。何しろこの島を守る《管理者》なのですから」
「じゃあ見るよ。見るけど返事はノーで返す。ボクは引きこもっていたいのに無理矢理仕事を押しつけてくる親馬鹿チート陽キャは好きじゃない」
「私もエルルと同じであのいけ好かない陽キャは嫌いよ! さあエルルこっちに――」
「今日のせるちゃんは知らない人を家に上げたので、知りません。ぷいっ」
「エルルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
……あはは。愉快な人たちデスネ。
「あの、話が進まないのですが」
「だ、そうですが。どうしますか、エルル様」
「え、帰って貰っていいよ」
さすがに塩対応すぎないか!?
「あ、あの、エルルちゃん!」
「……なに?」
意を決した瑠那が俺の前に出てエルルに話しかける。
「今日は、私の代わりに出撃してくれてありがとうっ!」
「…………別に。人手不足だったし《管理者》からちゃんと貰うものも貰ってるから、気にしなくていいよ」
「それでも、お礼を言わせてください。一緒に戦った時も、エルルちゃんは私を気遣ってくれたし……私、エルルちゃんと一緒に戦えて嬉しかったんだよっ」
「……あーもー……」
ナナクスロイさんの声がか細くなっていく。バハムートさんの後ろに隠れる頻度が増えていく。
これはあれか。照れている……!
「瑠那。瑠那。もっと褒めまくるんだ」
「え? あ、はいっ。エルルちゃんは接近戦をメインに戦ってくれるから、どうしても足を止めなきゃいけない私を守ってくれます。ちら、って私を見て立ち位置を変えてくれるのも知ってます。だから、エルルちゃんとずーっと、お礼を言いたかったの。今の私が無事に魔法少女を続けられてるのも、最初にエルルちゃんが守ってくれたからなんだよ。だから――」
「うぎゃーーーーーー! ボクをおだてて何をするつもり!? やめてやめてやーめーてー! ハムちゃん、早く二人を追い出して!」
「いえ。私からすれば主が褒められているのです。喜びに感動して動けません」
「せるちゃん!?」
「同上。……はぁ。困惑してるエルルもまた可愛いのよね……」
「味方がいない!?」
ナナクスロイさんはなんというか……その……。春秋さんの言う『数え役満』がピッタシって感じだな!
とにかく喜怒哀楽の差が激しい。コロコロ変わる表情は見ていて楽しいくらいだ。
そしてバハムートさんやセルシウスさんもそれをわかって楽しんでいる。
「うぐぐぐ。こ、こうなったら部屋に逃げるしか……!」
「セルシウス」
「壁がドーンっ!」
「せるちゃん!!?!?!?!」
ナナクスロイさんが脱兎の如く逃げだそうとしたら、いつの間にかリビングのドアが封鎖されていた。
え、あれ氷だよな? いつの間に……というか、どうやって? 魔法? 魔法にしては詠唱もなにもなかったし……セルシウスさんがやったようにも見えたけど。
「セルシウス、やりすぎです。大空様が呆気にとられています」
「あらいけない。そういえばこっちの人間にとっちゃ変なものよね」
「魔法……ですか?」
「魔法に近いけどもっと自然なものよ。私は雪と氷の精霊だから、どんな場所にだって氷を生み出すことくらい造作も無いわ」
何を当たり前のことを、と言わんばかりにセルシウスさんが説明してくれた。
……精霊。あれか。漫画とかでよく見る大自然の存在。
え、じゃあバハムートさんって――。
「察したようね。こいつは神竜バハムート。普段は人の姿に擬態してるのよ」
「お恥ずかしい限りです。本来の肉体ではエルル様のお世話が出来ませんし、そもそもこの家に収まらないので」
「へ、へぇ……あの。お二人が……ナナクスロイさんと契約した星獣なんですか?」
これだけ凄い存在なんだから、スペルビア・エルルが強力なのも納得出来る。
でも二人は揃って「ナイナイ」と手を振る。
あっれー……?
「エルルと契約してる《星獣》は島にはいないわ。エルルに役目を押しつけて自分の世界に引きこもってるわ。エルルを選んだだけあってエルルにそっくり」
「そうですね。私としては契約を破棄して貰いたいのですぐにあちらの世界に侵攻したいのですが……《管理者》様に止められてしまっておりますし」
「まあでもスペルビアモードのエルルは普段と違ってイケメンでかっこいいからもっと見たいわよね!」
「全くです。普段からあれだけ外出してくだされば私たちの心配も杞憂に終わるのですが……」
「あーもーあーもーこの話はおーわーりーーーーーーー!」
今の今までバハムートさんの背中に隠れていたナナクスロイさんが飛び出してくる。
「あっ」
「あ……っ」
勢いそのままにナナクスロイさんが転んで――俺は慌てて受け止めようとして――――。
むにゅ。
「あっ!?」
「おや」
「先ぱ――――むぎゅ!?」
ナナクスロイさんを受け止めたけど、勢いを殺しきれなくて――そのまま後ろにいた瑠那を巻き込んで倒れ込んでしま……な、なんとか瑠那を守らないと……!
「う……いたた」
「ふにゃ……」
「いったぁ……」
背中が痛みでジンジンする。さらに身体の両方から柔らかいものを感じる。
気持ちいい感触につい手が動いてしまった。もみ。もみもみ。
「にゃっ!?」「ひゃんっ」……ん?
「にゃっ。せ、先輩……っ」
右の方から瑠那の声が聞こえてきた。……じゃあ、左は――。
「…………」
「…………~~~~っ」
ナナクスロイさんがこっちを見ていた。ドアップで。俺はどうやらナナクスロイさんの身体をにぎにぎしてしまったようで――!?
「ご、ごめんなさい!」
慌てて離れる。ナナクスロイさんはうつむいたまま身体を震わせている。
「ぴゃ……」
「ぴゃ?」
「ぴゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!??!?!?!?!?」
ナナクスロイさんの悲鳴が部屋中に響く。
それと同時に俺に向かってたくさんのぬいぐるみが投げられてくる。
え、ちょっとまってどこから取り出したのこの大量のペンギンのぬいぐるみ!?
「かえってかえってかーえってーーーー」
「せ、先輩! 今日は退きましょうっ」
「し、失礼しまーす!」
とりあえず受け止めたペンギンたちを優しく地面に置いて、瑠那に守られる形でナナクスロイさんの家を後にする。
悪いことしちゃったなぁ。今度謝らないと……。
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