魔法少女は闇堕ちしました。②
この街は、魔法少女が守っている。
何からだって? 異世界からの侵略者かな。
『《ゲート》が開きました。住民の方々は避難してください』
授業が終わり、帰ろうとしたところでアナウンスが流れてきた。
流れたところで誰も避難を始めないのだが。むしろみんなして空を見上げる始末だ。
危機感がないというか、平和に慣れすぎているというか。
まあ、俺も逃げてない時点で同じだけど。
見上げればほら、空に裂け目が出来ている。
バキバキバキと音を鳴らしながら空の裂け目が広がっていく。やがて裂け目を通って、『侵略者』が校庭に降りてきた。
「今度は怪獣かー」
「サイズ的にはそこまで大きくないね」
「おいおい、魔法少女はいつ来るんだよ? シャッターチャンスなのに!」
降りてきたのは、ゴ○ラそっくりな怪獣だ。とはいえサイズはかなり小さく、二メートルもないくらいだ。見る人が見れば可愛いとか言い出しそうなフォルムだな、おい。
校庭を歩いていた他の生徒たちもすっかり見慣れた光景だけあってか、敵意むき出しの怪獣を前にスマホを構える始末だ。
「グルルルルル……!」
あーもうほら、あまりにも逃げ出さないから怪獣の敵意が周りに向いちゃってるじゃないか。
……まあ、確かに大丈夫なんだけど。ちょっとこの気の緩みは不安だよなー。
目の前にいるのは、明らかに俺たちを襲いに来た怪獣で。
俺たちはそんな怪獣を相手に、無防備な姿をさらしている。
「ガァァァァァア!」
だからほら、怪獣も真っ先に目の前にいる俺を狙って――。
「スターライト・バリア!」
怪獣の爪が振り下ろされるより早く、俺の前に広がった星形のバリアが一撃を防いだ。
ひらりはらりと光の球が雪のように降ってきた。光と共に降りてきたのは、純白のドレスを身に纏った小柄な女の子――星崎瑠那。
星崎はスタっと着地すると、ステッキをくるりと回して怪獣に突きつけて名乗りを上げる。
「魔法少女コズミック・ルナ。街の平和を守るために推参しました! 侵略者さんは、ただちに撤退してください!」
「ゴアアアアアアア!」
名乗ると同時にゴ○ラもコズミック・ルナに敵意を向けた。
口から炎のブレスを吐き出すと、コズミック・ルナはステッキを胸の前で高速回転させてブレスを受け止める。
「ここは私に任せて避難してください!」
「おう。頼んだぞ星崎!」
「ち、違いますぅー! 私はコズミック・ルナですぅー!」
うん、知ってる。でもその反応が見たくてついついからかってしまうんだ。
魔法少女の正体なんて周知の事実だ。でもコズミック・ルナ:星崎瑠那は拘っているのか、魔法少女の時は本名で呼ばれると顔を真っ赤にする。
「わかったわかった。コズミック・ルナに任せるよ」
「はい、任せてください先輩!」
いやいや、一応正体秘密にしたいんだったら俺を見て『先輩』とか言っちゃダメでしょ。そこが可愛いんだけどさ!
星崎――コズミック・ルナに従って距離を取る。俺が離れたことを確認したコズミック・ルナは、ステッキを振り払いブレスをかき消した。
「侵略者さんに警告します! 今撤退するなら危害は加えませんよー!」
「ガァァァァ!」
いや、どう見ても言葉通じてないだろ。ゴ○ラは怯むことなくコズミック・ルナに突進する。
「敵性と判断し、攻勢に出ます! 星の煌めきよ、私に力を貸してください――」
突進をひらりとかわしたコズミック・ルナはすぐさまステッキをゴ○ラに向けた。
ガションガションと音を立ててステッキが変形する。
ただの魔法少女のステッキが、大型サイズの銃砲に。
……うっわー。相変わらず見た目がゴツい。男の浪漫詰め合わせって感じのメカだわ。
「一点突破、コズミック・ブラスター!」
コズミック・ルナが地面を蹴り、ゴ○ラの懐に飛び込んだ。銃口を腹に埋め込むと、ゴ○ラの身体を持ち上げる。
そして、必殺技を叫ぶと同時にトリガーを引いた。
「ガ――――」
銃口から発せられた極大の光がゴ○ラを貫く。光はあっという間に空まで昇り、裂け目すらも飲み込んだ。
「敵性排除! お仕事完了です!」
くるりと元に戻ったステッキを振り回して、決めポーズ。
にこっとスマイル、百点満点!
「ルーナ! ルーナ! コズミック・ルーナ!」
「ルーナ! ルーナ! コズミック・ルーナ!」
「ルーナ! ルーナ! コズミック・ルーナ!」
ポーズに合わせて歓声が起こる。もちろん俺も歓声に参加している。むしろ最前線で叫ぶ。当たり前だろ最推し魔法少女だぞ!?
「今日も平和は守られました。みなさん日常を大切にしてくださいねー」
「「「はーいっ!」」」
コズミック・ルナの言葉に周囲にいた生徒が一斉に頷くと、満足げに笑みを浮かべたコズミック・ルナは空へと昇っていく。
……まあ、魔法少女のお約束だもんな。正体を悟られないために姿を隠すのは。
ヒュン、とコズミック・ルナの姿が消える。
『《ゲート》が閉じました。魔法少女コズミック・ルナの協力に感謝します。避難を終了してください。繰り返します、。避難を終了してください』
流れてきたアナウンスと共に非日常が終わる。いやもうこの光景は日常の一部だけど。
「……せんぱーいっ」
「おっ」
帰ろうとした矢先に声が聞こえてきたので、振り返る。校舎の方からツインテールを揺らしながら、星崎が駆け寄ってきた。
今の今まで魔法少女として戦っていた女の子の、日常。
「すいません。委員会が長引いちゃって」
「いいってことよ。星崎もお疲れさんな」
もちろん『委員会』は建前だ。星崎が委員会にも部活にも所属してないことは知っている。
魔法少女コズミック・ルナの正体は謎に包まれている――と、本人は思っているのだから。
まあ俺含め大半のファンは気付いてるけど。
むしろ星崎は俺に隠してないくらいだし。
……最推しが俺にだけ秘密を教えてくれている。最高のシチュエーションじゃねえか!
「今日の相手は強かったのか?」
「そこまでですね。私一人での出動でしたし、脅威ランクはDでした」
「やっぱゴ○ラでもサイズが小さいとダメなのか」
「というより、Bランク以上になったら私ではなく他の魔法少女に声が掛かりますから」
「そうなのか?」
「はい。私はまだまだ未熟ですので」
謙遜なのか謙虚なのかはわからないが、星崎は嘘を吐く女の子ではない。
だから星崎より強い魔法少女はごまんといるだろう。
「でも俺は、コズミック・ルナに守って貰いたいな」
「……っ。はい、私も頑張ります!」
笑顔の花が咲く。ああ、可愛いなぁ。
思わず頭を撫でたくなるが、ぐっと堪える。
俺はファンであって彼氏じゃない。軽率なスキンシップは推しに失礼だ……!
「先輩?」
「ああ、なんでもない。今日の夕飯はハンバーグにでもしようかなーって」
「はんばーぐ……!」
星崎が目を輝かせた。うんうん。ハンバーグは大好物だもんな。
「今日も食べてくだろ?」
「はい。すいません、いつもお世話になっちゃって」
「いいんだよ。お互い一人暮らしなんだし、助け合える時は助け合わないとな」
「……あの、たまには私が作りましょうか?」
「星崎は怪獣撃退して疲れたろ? 先輩の顔を立てるためにも」
「…………むー」
星崎の申し出はありがたいし、可愛い女の子の手料理を食べれるチャンスなんて滅多にない。
だが丁重に断る。だって俺が作ったハンバーグを食べて幸せそうにする星崎が可愛いから。
むくれた星崎も可愛いが、あんましむくれられても困ってしまう。
「今日は目玉焼きものっけよう」
「そんな悪いことをしちゃうんですか!?」
「っふふ。何も悪いことではないさ。星崎は頑張ったんだから、ご褒美だよ」
「ごほーび……っ!」
星崎がまたも目を輝かせる。話しているだけならやっぱり年下の女の子なんだよなー。
「おい、大空浩輝!」
「ん? ……げ」
「げ、とは何だげ、は!」
いきなり名前を呼ばれたと思えば、会いたくない奴に会ってしまった。
振り返れば白髪の少年が立っている。しかも仁王立ちで。
特筆すべきはおでこに生えた一本角だ。それだけで少年が普通の存在でないことを知らしめている。
とはいってもここ星華島は異世界とのゲートが断続的に開いている。だから異世界の存在が街にいても、驚いたりはしないんだが。
「ユーくん、どうかしたんですか?」
「ルナよ、再びゲートが開くぞ。出撃だ!」
「……えー」
ユーくんと呼ばれたこいつは、星崎が契約した『星獣』と呼ばれる異世界の存在だ。
なんでも魔法少女は星獣と契約することで生まれるとか。
このユーは、自称ユニコーン(馬の姿を見たことがない)。何故か俺を目の敵にしてる。
「なんだその気の抜けた返事は!」
「だって、はんばーぐ……」
「そんなのいつでも食えるだろ!」
「食べれません! 先輩の作るハンバーグとは一期一会。今日を逃せば今日のハンバーグくんとはもう再会出来ないんですよ!」
まあ確かに使う挽肉は別になるしな。
「だが魔法少女の指名の方が先だ!」
「むぅー……わかりました」
渋々と星崎は了承し、申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「それじゃあ先輩、行ってきます」
「大丈夫。ハンバーグはちゃんと作っておくから、帰ってきたら取りにきな」
「~~~っ。はいっ!」
ハンバーグひとつでこんなに喜んで貰えるんだから、作りがいがある。
うんうん。今日も張り切って作らないとな!
「……大空浩輝。お前が鈍感で助かってるよ」
「あ?」
「なんでもない。お前はこのままでいてくれ」
「なんだようんうん頷いて気持ち悪い」
「ッハ。由緒正しいユニコーンのボクのどこが気持ち悪いのか、まったく人間の感性は理解出来ないな!」
「ハイハイソウデスネ」
自称ユニコーンだけどな。星崎はユーの後を追って駆け出すと、慌ててこっちに振り向いた。
え、何か忘れ物?
「先輩、行ってきます!」
「お、おう。頑張れよ!」
「はいっ」
ニッコリ笑顔を見せて、星崎は走って行った。
……はぁぁぁぁぁぁ何だよあの笑顔可愛すぎる。一生推す。
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